第149話 北から来たバーガー
九十八日目。
学校から来た男が、丸い金属容器をカウンターへ置いた。
「これ、昼に」
高校生は交換表を取り出しかけた。
「玉ねぎですか?」
「違う。食い物」
男が蓋を開ける。
平たいパンに、焼いた芋と乾燥肉を挟んだものが四つ並んでいた。片側には焦げ目があり、芋が端から少しはみ出している。
高校生の手が交換表の上で止まった。
「……バーガー?」
「向こうじゃそう呼んでない」
「何て?」
「挟んだやつ」
「そのままですね」
「名前つけるほど作ってないからな」
直人も容器を覗き込んだ。
「昨日の芋?」
「残り。乾燥肉もあったし、鍋は朝から別のに使ってたから」
男は一つ指で示す。
「パンもあった。それで挟んだ」
高校生は交換表を棚へ戻した。
厨房から渾沌が出てくる。
「なにそれ」
「北から来たバーガー」
高校生が言うと、男がすぐ顔をしかめた。
「勝手に名前つけんなよ」
「学校、ここから北じゃないですか」
「そこじゃない」
渾沌は容器の前まで来た。
「食べていい?」
「そのために持ってきた」
一つ受け取り、かじる。平たいパンが小さく鳴った。
高校生が待つ。
「どうです?」
渾沌は断面を見た。
「芋」
「見れば分かります」
もう一口。
「肉もいる」
「感想です」
「おいしいよ」
渾沌はそのまま食べながら厨房へ戻った。
高校生も一つ取った。パンは硬く、芋は少し塩辛い。乾燥肉を噛むと遅れて味が出る。いつものバーガーを食べる時とは、口の動かし方まで違った。
「うまい」
学校の男が笑う。
「だろ」
「作ったの、あなたじゃないですよね」
「学校から来たんだからいいんだよ」
昼どきになり、団地の女が店へ入ってきた。容器には一つだけ残っている。
「何それ」
高校生は一瞬だけ迷った。
「挟んだやつ」
「何を?」
「パンに芋と肉」
女は容器を覗いた。
「食べていい?」
学校の男が椅子から手を上げる。
「どうぞ」
最後の一つがなくなった。
空いた容器を高校生が洗う。水を切って伏せたところで、直人が横を通った。
「何か入れて返します?」
「何を?」
「もらったから」
直人は少し考え、乾かしている容器を見た。
「今日は容器返せばいいだろ」
高校生は棚の菓子箱へ伸ばしかけた手を戻した。
午後、空の容器を学校へ届ける。
旧職員室では青いテープの鍋から湯気が上がっていた。昨日とは違う匂いがする。
男が容器を受け取った。
「どうだった?」
「なくなりました」
「渾沌さん食べた?」
「食べました」
「何て?」
高校生は思い出して笑う。
「芋って」
「そりゃ芋だ」
机の上を見ても、もうパンはない。
「明日も作るんですか」
「何を?」
「挟んだやつ」
男は空の容器を棚へ置いた。
「パンないよ」
「じゃあ終わり?」
「またあったら挟むかもな」
横から子どもが鍋を覗こうとして、女に肩を押し戻された。
「熱いから離れて」
高校生が店へ戻る頃には、厨房の鉄板でいつものバーガーが焼かれていた。
秩序が包みを一つ客へ渡す。別の客がポテトを受け取り、高校生は学校から持ち帰ったものが何もないことに気づいた。
洗った容器も、もう学校にある。
由佳がカウンターへ寄ってきた。
「学校の、食べた?」
「食べた」
「まだある?」
「もうない」
「そっか」
由佳はそれだけ言って、ぱむちゃんの方へ行った。
高校生は注文票を一枚取る。
次の客のバーガーを一個、そこへ書いた。




