第133話 見つからないまま
八十日目。
高校生はトランシーバーを取った。
「旧スーパー、写真どうですか」
少しして返事が来る。
『ない』
「昨日のあとも探した?」
『探した』
「そっか」
それだけだった。
高校生は配送表の昨日の欄を見る。
《旧スーパー・写真を探した》
横に《未発見》と書こうとして、鉛筆を止めた。
「何してる?」
直人が聞く。
「結果、書こうかと思って」
「必要?」
高校生は少し考え、書かなかった。
旧スーパーへ水の確認に行くと、昨日の女は寝床の毛布を畳んでいた。
「写真、まだ?」
「ない」
「今日も探します?」
女は首を振った。
「もう探さない」
「いいんですか」
「よくないよ」
昨日と同じ答えだった。
「でも、全部見たから。棚の下も、ごみも、トイレも、水のとこも」
「まだどっかあるかも」
「あるかもしれない」
「じゃあ」
「ずっと探してるわけにもいかない」
女は次の毛布を畳んだ。
高校生も手伝う。
しばらくして、女が言った。
「赤じゃなかったかも」
「何が?」
「ランドセル」
昨日は赤だと言った。
「茶色だったかな」
高校生は返事をしなかった。
「写真見れば分かったんだけどね」
女は笑わなかった。
PANDEMONIUMへ戻った高校生は紙を一枚出した。
赤いランドセル。白いシャツ。
昨日聞いたことを書きかけて、やめる。
「描かないの?」
由佳が聞いた。
「昨日、それはあの写真じゃないって言われたから」
「写真じゃなくてもいいんじゃない?」
「何が?」
「覚えてること」
「間違ってるかもしれない」
「間違ってても、覚えてたことではあるでしょ」
高校生は紙を見た。
もう一度、旧スーパーへ連絡する。
「写真じゃなくて、娘さんのこと、何か残します?」
『何かって?』
「覚えてること。言葉とか」
返事がない。
『何のために?』
「分かんない」
『じゃあ、今度でいい』
「はい」
断られた。
昼飯のあと、向こうから連絡が来た。
『さっきの』
「はい」
『一個だけ。娘、写真撮る時、絶対ちゃんと立たなかった』
「ちゃんと?」
『毎回どっか向いてる。あの写真も、たぶん横向いてた』
高校生は書く。
《写真を撮る時、ちゃんと立たない》
『あと』
「はい」
『ランドセル、赤じゃない。紫だった』
昨日の記憶は消さず、その下へ書いた。
《ランドセルは紫》
『たぶんね』
「たぶん?」
『写真ないから』
今度は女が少し笑った。
高校生は紙の上に題名を書こうとした。
《娘さんの記録》
消す。
《写真の代わり》
それも消した。
学校の子どもが充電に来た時、紙を見つけた。
「紫のランドセル?」
高校生は紙を伏せる。
「人のだから」
「ごめん」
子どもはそれ以上見なかった。
高校生は昨日持っていった透明な袋を出した。写真が見つかった時、折らずに入れるための袋だった。
紙を入れる。表には何も書かない。
旧スーパーへ持っていく。
「これ」
女は中を見る。
「写真じゃないね」
「はい」
「代わりでもないね」
「はい」
女は受け取った。
「また思い出したら書いていい?」
「もちろん」
「間違ってても?」
高校生は少し考えた。
「たぶん、いいんじゃないですか」
「たぶんか」
「写真ないんで」
女は笑った。
透明な袋の中には、題名のない紙が一枚ある。
《写真を撮る時、ちゃんと立たない》
《ランドセルは紫》
その下は、まだ空いていた。




