↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
130/195

第130話 子どもの勉強


七十五日目。


学校の子どもが、PANDEMONIUMのテーブルで紙を広げていた。


黄色い双眼鏡は椅子の背に掛かっている。


紙には数字が並んでいた。


「七たす八」


「十五」


高校生が答える。


子どもが顔を上げた。


「言わないでよ」


「ごめん」


「自分でやるの」


学校の男は充電中の端末を見ながら笑った。


「昨日から算数やりたいって言ってて」


「教科書あるんです?」


「ある。途中まで使ってたやつ」


子どもはページをめくり、鉛筆を止めた。


「これ分かんない」


高校生が隣へ座る。


「どれ?」


「十三ひく六」


「十三個ポテトがあって」


「ポテトにしないで」


「じゃあ十三個バーガー」


「もっとやだ」


由佳がカウンターから口を挟む。


「りんごにすれば?」


「りんごないじゃん」


子どもが笑った。


結局、紙へ丸を十三個描いた。六個を線で消す。


「七」


「正解」


高校生が立とうとすると、服の裾を引かれた。


「そこいて」


「自分でやるんじゃなかった?」


「分かんない時だけ」


「はいはい」


森田が通りかかる。


「何してんの」


「勉強」


子どもが答えた。


「こんな時に?」


森田は言ったあと、自分で止まった。


子どもが首を傾げる。


「こんな時って?」


森田は答えず、紙の丸を覗いた。


「七だろ」


「もう終わった問題!」


次は国語になった。


子どもが漢字で止まり、高校生も同じ字で止まる。


「これ何だっけ」


学校の男が見る。


「植える」


「ああ」


「高校生でしょ」


「高校生でも忘れるんだよ」


「じゃあ勉強した方がいいよ」


「お前に言われたくない」


団地から無線が入った。


『学校の子、そっちいる?』


直人が取る。


「いるよ」


『昨日の太陽描いた子?』


子どもが椅子から身を乗り出す。


「太陽だよ!」


向こうで笑い声がした。


『分かった分かった。今度、うちの子も一緒にやっていいか聞いて』


直人が学校の男を見る。


「本人たちがいいなら」


子どもは鉛筆を持ったまま聞いた。


「いつ来るの?」


「次かな」


「次いつ?」


昼になると教科書を閉じた。


子どもがすぐに聞く。


「次、いつやる?」


高校生が聞き返した。


「次?」


「今日ここまででしょ。じゃあ次」


学校の男が予定表を見る。


「三日後かな」


「三日後、算数の続き」


子どもは教科書の端を折ろうとして止められた。


「しおり使え」


高校生が予定表へ書く。


《三日後・勉強》


直人が横から見る。


「配送じゃない予定、また増えたな」


「やらなくても今日死なないやつです」


「そうだな」


それ以上は言わなかった。


食後、子どもはラッキーセットの指人形を机へ置いた。五歳の誕生日にもらったものだ。


「これ先生」


「先生なの?」


「ぱむ先生」


指人形を鉛筆にかぶせる。


高校生が聞いた。


「七たす八は?」


子どもが人形を揺らす。


「ぱむ」


「答えないじゃん」


本物のぱむちゃんが近くを通った。


「ぱむ」


子どもが机を叩いて笑った。


勉強は終わっているのに、紙の裏へ字を書き始める。


自分の名前。学校の名前。PANDEMONIUM。


最後に小さく、


《三日後》


「それ何?」


「忘れないように」


「予定表に書いたよ」


「自分でも書く」


紙を教科書へ挟んだ。


帰る時間になると、黄色い双眼鏡を首へ掛ける。教科書、鉛筆、消しゴム、ぱむちゃんの指人形をバッグへ入れた。


入口で学校の男が聞く。


「三日後、忘れるなよ」


「書いた」


子どもはバッグを叩いた。


「二個ある」


「何が?」


「三日後」


予定表と、自分の紙。


子どもはそれで満足したらしく、外へ出ていった。


高校生はテーブルを片づけた。


計算の丸。消した漢字。少し曲がった名前。


予定表には明日の水確認、旧スーパーとの交換、危険区域の再確認が並んでいる。


その三つ下に、


《三日後・勉強》


高校生は消しゴムのかすだけを払った。


その予定は残した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。