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番外編「帽子屋√」

何故、自分たちは死んでしまったのか。

 『彼』のことを知らないといけない。

 

 人に踏み込むことは危険なことでもある。だけれど、進むためには危険を冒しても探さないといけないことがある。

 だから、君のことをもっと知ろうと思った。


帽子屋。


帽子屋……?


アリスは我ながら何故彼に?と思ったが、直感的なものかもしれない。

自分の直感は信じたい方だ。

アリスは帽子屋のいるであろう、城の方へ向かった。別にいる確証はないが、会えたらラッキーということにする。


「あ」

「あっ」

二人分の声が上がる。

アリスと、帽子屋だ。

帽子屋は大広間を通りがかろうとしているところだった。


「あ〜〜……こ、こんちは〜〜、アリスサン……」

「ああ、こんにちは」

帽子屋はそそくさとどこかへ行くように歩き出そうとする。

「ちょっといいか」

「ハイ!?なんスか!?」

話が続くと思ってもいなかった帽子屋からは大きく反応が返ってきた。時に三月うさぎに負けず劣らず慌ただしい男だ。


「もう少しお前と親睦を深めてみたいと思うんだが、お茶会でもしないか?今から」

「えっえっえっエ〜〜……嘘ォ……」

「お前とは話す機会もそんなになかった。だから作る」

「別にいいっスけど……なんでまた……いいんスけど……」


少し強引な提案に乗ってきたことにより、アリスは城のダイニングの方へと移動をする。帽子屋も戸惑いながらも、ついて来いという意味を捉え後ろから歩いてくる。

ダイニングで指を鳴らせば、簡単にお茶会に必要なものは現れた。

スコーンにタルト、紅茶に砂糖。ついでにミルクも。

アリスが席に着けばその正面の席に帽子屋も座る。


「一応来ましたけどォ……あの、なんか怖い話とかじゃないッスよね」

「私をなんだと思ってる?」

「いや!違うんスよ!あまりに急だったもので……俺なんかやっちゃったかな!?って!?」

「本当に話したいだけなんだが」


思えば帽子屋の態度は挙動不審、という単語が似合うがそれにしてもアリスとの心の距離が遠い。それは何故なのか。

女性慣れしていなさそう、というのは前にも思ったことがある。それに由来しているのだろうか。


「話すっていっても何話すんスかぁ……??アリスサンって記憶ないんでしょう?じゃあ過去の話とかもできないですし……」

「それならそっちが話せばいいだろう。対等じゃないかもしれないが」

「エ〜〜俺の話聞いてもつまんなくないスか?」

「聞いてから判断すればいい」


アリスが紅茶に砂糖を溶かしている間、帽子屋はううんと唸った。

過去の話をすることに躊躇いはない方に見える。しかしどう言えばいいのか、言葉に困っているようだ。


「俺がここに来るまでの話とかします?三月チャン以外誰も聞いてくれなかったんスけど」

「聞く」

「情報収集にぬかりないっスねぇ……」


帽子屋もまた、自身の紅茶を見つめだす。長く伸び切った前髪からはその目が見れず、表情からは心の内を覗くことができない。

猫舌なんで、と言いながら彼は紅茶のカップを握ったまま口にせず、語り出した。


「俺、自殺とかじゃなくてですね、あんまり覚えてないんスけど……なんか、どっかで悩み事を解決してもらう手段を見つけたんスね」

「手段……?」

「そう、悩み事を解決してくれる〜みたいな誘いがあって……いや見るからに怪しいじゃないッスか、ほんとにそうなんスけど話は最後まで聞いてください」

「聞いているが」

「絶対怪しいってわかってたんスけど……その……ネタになるかな……って……」

「……」

「面白いネタを共有したい人がいて……その力になれるかなって……あと……何より、そのですね」


帽子屋は自身の頭を少し掻いて、言いづらそうにした。

「もし本当だった場合、悩み事……解決してほしいな〜〜って……」

「そこまでしたい悩み事があったのか」


「あったんスよ、俺にも」

「一応聞くが、三月うさぎに関わることか?」

彼は紅茶を思い切りこぼした。


「ああ!!」

「大丈夫か!?」

「テーブルクロスが汚れたッスねえ!!!俺は無事っスけど!」

敷かれていた真っ白のクロスには見るも無惨に紅茶のあとが染み付いている。


「よくないことを聞いたか?」

「いや!いや!いや!違うんスよ!ほんと!」


三月うさぎと彼は親友だという。

帽子屋は思っていた以上に友達想いなのかもしれない。


「……とにかく、えっとですね、誘いに乗ったところまではふわっと覚えてるんスよ……でもそのあとですね……」

記憶を辿るように彼は天井を見上げ、うろうろと視線の先を揺らしているようだった。

「……そこから覚えてないっスねぇ……何があってここにいるのやらサッパリ……」

「かなり覚えてない寄りだな。おそろか?」

「冗談やめてください!」


「まあ、そんなとこです。俺はかな〜り帰りたいんスけどねえ……」

「!帰りたいのか、お前」

「そりゃ、そっスよ。現実で待ってくれてる人もいますし。生きてるなら帰りたいっス……死んでるかもですが……」

彼は乾いた笑いを出す。


「三月チャンと違う意見でビックリしました?」

「少し驚いた」

「ですよね〜俺これ三月チャンに言えないッスよ?秘密っスよ?というか、三月チャンがいる限り帰れないっていうか〜……」

「離れられないか」

「三月チャンには俺しかいませんから……」


ずっと、彼は話している間手元を知恵の輪でも解いてるように動かし続けていた。

離れられない。置いていけない、といったところだろうか。


「現実、家族とか待ってるのか」

「そうっスね。家族が待ってます。両親と弟がいて……」

「兄だったのかお前」

「意外と」

「それほど意外ではないが」

「そうッスか?とにかく、心配させてると思うんで帰りたくて」


帽子屋は現実で自分の身がどうなっているかわからないまま、現実に思いを馳せた。


「そんな感じです。大して面白みもないんですよね俺の過去とか色々……」

「私は面白みを求めてるわけではないし、いいだろ別に」

「面白みある方がよくないッスか?」

「人の人生にエンタメ性は求めないな……」

「珍しい……」

聞いている限り彼は他人の人生について聞く時、"面白み"があった方がいいという価値観のようだ。

その面白みが何を指すのかはわからない。


「俺、別に苦労するような人生送ってないんで……これ以上話せることも全然ないですし……」

「さっきの悩み事は?」

「ハァ!!!」

「なんだ?」

よく聞こえない鳴き声のようなものをあげ、彼は硬直する。


「いや、むしろ、喋りすぎました、ほんと!俺の話聞いても楽しくないと思うのに!すみません!」

「私はお前と話してて面白いけどな」

「ワッ……」

「お前がそう愉快なやつだとは知らなかった。むしろまだ話したいんだが?」

「えっえっ」

「その悩み事、というのも聞いてやりたい」


アリスは帽子屋の瞳、があるであろう場所をじっと見つめる。

帽子屋はわなわなと震え、声を上げた。


「そっ……そういう……男に近づくの!そういうの!やめてください!!」

「えっ」

思ってもいない言葉にアリスも背をピンとさせ身体を引いた。

「あのあのあの、美少女な自覚があるのは結構なんスけど!無理!無理です!俺はそういうのじゃなくて!!」

「待て、何の話をしてる?」

「女性苦手なんス!!!」

半ばパニックになりながら彼は言葉を止めなかった。


「俺!好きになるの!!男だけなんで!なんで無理です!!」

「……」

「あっ」


時が止まる。

今までに言った言葉の全て、そこまで言うつもりがなかったのか、彼は口元を抑えた。


「……」

「……」

「……落ち着いて聞いて欲しいんだが、……私がたぶらかしているかのように見えたか?私はそんなつもりはないぞ」

「……」

「女性が苦手なのは薄ら気付いてた。この場を設けて悪かった」

「すみません……失礼なことを……」

「……」

「あのあのあの……すみません……このことはご内密に……誰にも言わないでくださいッ……」


「もしかして悩み事って」

「あーー!!!!あの!!!うああ……!!」

「恋愛は自由だろと思うが」


パニックになりながらも彼は、アリスに否定されなかったことへその騒ぎを抑えた。

「ほんとっスか?引いてません?」

「全然」

「本当?」

「むしろ、私も多分女性も好きになるタイプだと思う」

「え!?!?!???」

帽子屋は突然前のめりになる。


「それガチっスか!?」

「ああ。多分。私は記憶こそないから説得力に欠けるかもしれないが、恋愛に性別の壁を感じない。女性とも付き合えるな」

「早く言ってくださいよ〜!!」

帽子屋は急激に心の距離を縮めたように緩んだ態度を取る。


「俺たち友達になれるかもしれないッスね」

「調子のいいやつだな!!」

「すみません」

アリスも許したつもりだが、さっき散々言われたことは忘れていない。

「そう、それが悩み事だったんスよ俺。どう向き合ったらいいかなーって」

「なるほどな……、あ?」

「……どうかしました?」

「さっき悩み事は三月うさぎ関連だと……」

「……」

「……」


無音。

帽子屋が顔を覆う。


「もしかして」

「はい。そっスね」

「ああ」

「一方通行っスよ?俺の。親友だと言ってくれてるあの子にこんなこと言えるわけないですし」


理解した。

帽子屋は三月うさぎのことが恋愛的に好きなのだ。

だが親友という立場上、言うこともできず困り果てているのだろう。


「ちなみにどこが好きなんだ」

「顔」

「見た目から入るタイプか」

「顔なんスけど……話してみたら……中身もすごい可愛い子で……健気で……頑張ってて……元気なフリしてるけど弱いところがあって、それを俺だけに見せてくれるから……俺は……どうすればいいのかなって……」

「おお……」

「あの子、すごい沢山のことを抱えてて……俺は力になってあげたいんですよ!ほんとに……俺、あの子のお兄さんより頑張ってると思いますよ?お兄さんより俺の方がずっと三月のこと考えてるしお世話してます」

「お?」

「なのに三月チャンはお兄さんのことも大事なんです……」

「それはいいことだろ」

「わかってんですよ!でも……!!三月チャンには俺しかいないはずなのにお兄さんの存在だけが……!ちょっと……!!」


邪魔、と言いたいのを堪えている。

どうやら三月うさぎの兄のことを良くは思っていないようだ。

アリスは彼にお兄さんと指されている白うさぎの顔を思い浮かべ、知らないところでこのような感情を向けられていることに同情する。


「とにかく三月チャンと俺は仲良しなんです……ずっと一緒にいるのに……三月チャンがこの世界に残るって言ってる限り俺もいなきゃなんです……三月チャンには俺しかいないので……」

俺しかいない、と言うのはもはや自分に言い聞かせていないだろうか。

もし自分以外に三月うさぎの周りに大切な人が現れたら彼はどうするつもりなのか。

「あっでも……帰りたいのは本当なんで、帰る手段をアリスサンが見つけたいっていうなら、俺も協力できる範囲は……するかも、です、ハイ」

「それは助かる。人手は大いに越したことがない」

「見つけた時は俺にも教えてくださいね?一応、一応」

「ああ。約束しよう」


帽子屋がはじめて柔らかく微笑んだ。

アリスもまたタルトへフォークを滑り込ませた。


彼に関して深く知っても進展は無さそうだ。だが、一人友達が増えたのはいいことだ。

アリスは満足し、その後、二人で楽しげに会話を交わし続けた。

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