9 一狩りしようぜ
明日は18時目安です
ここは一見、何も無い静かな草原だ。陽は温かく、おだやかで、そよ風さえ拭いている。……最も、これから狩りの時間になって爽やかな空間は兎狩りの舞台になってしまうのだが。
森の方とは違い、視界が広く、特筆すべきものは何もない。どこかへ続く道路が見える他には、ただひたすら膝丈の草・草・草……。
しかし、草に隠れてはいるが、実際には穴ぼこだらけで、その巣穴に羽兎は住んでいる。
流石に主要な道路付近に穴は無いが、流通経路に飛び出してきて馬車の事故に繋がるので、常に依頼が有るんだとか。まあ、初心者用のお手頃クエストってところだろうね。
「サーチ」
魔法を唱えて、兎の姿を探す。そうすると、殆どの兎は穴の中に居るが、外に出ている個体もちらほらと居る。これなら5羽は余裕だな。
目の前の薄い板のような青いパネルには、サーチ情報が書かれている。
【羽兎】
レベル4
体長50cm
耳が翼のようになっており、身軽である。
体毛は服飾素材で人気があり、肉は食用でさっぱりしている。
攻撃方法は後ろ脚の蹴り。
ふむ。
草原で無限レベル上げをする訳にもいかず、今回は普通に槍を使うしかない。毛皮も素材になるのなら、体も奇麗に仕留めなければならないだろう。
居る所を定めて、息をひそめてそろそろと羽兎に近づく。
鼻がヒコヒコと動いてるのが見える距離まで来ると、音も無く近づき、その首を狙って素早く槍を突き出す。
ギュッ
濁った断末魔を上げてピクピクと痙攣していたかと思うと、パタリと息絶えた。まずは一羽。
その後、木の根元、道路の脇、草原中央、はたまた飛び上がって蹴ろうとしたのを仕留める。槍の調子は上々だ。
依頼の進みも上々である。
今日も早く終わってしまった。このまま戻ると早すぎる、まだ一時間も過ぎてないぞ。このまま倒しすぎると、またレベルが上がってしまうので狩りはこの辺にしておこう。
オレは昨日の川辺に行って、兎の血抜きをしてぶら下げた後、水に足を浸す。水浴びでもしたいところだが、深さも無い上に街に近いので足しか浸かれない。下手をすると、他の冒険者とかち会って、裸族だと思われてしまう。
ーーーそれだけは避けたい。
思いがけず余裕が生まれてしまったので、オレは辺りを探索する事にした。草原は、見まわす限り人影も無いのだが、耳を澄ませると、遠くでわずかに金属のぶつかる音がした。
其方の方へ木に隠れながら歩いていると、馬車道から一本奥に入った辺りで、木々がまばらに生えてきている。その木に隠れるように戦闘が起こっているようだ。
じっと観察していると、どうやら荷馬車が襲われているようだった。オレはどちらに助っ人に入ろうかと一瞬悩んだが、どう見ても人相が悪い奴が悪党である。
御者と思われる男が脚に傷を負って、馬車の主らしき男を庇いながら戦っている。
護衛らしき者はおらず、その御者のみが戦っており、雇い主らしき中年の男が少女を庇いながら震えている。それに比べて、敵は戦える男が三人もいる。いくら何でも不利だ。
流石に、この光景を見て見ぬふりをするのは、信条に反する。
オレは槍を構えて、双方の間に躍り出た。
「流石に卑怯じゃないか?」
「はぁ、なんだお前、その装備はルーキーかよ。余計な正義感を振りかざして、命を無駄にしたな」
「お前の荷物もオレ達が有効活用してやるぜ」
三下というのは、どうして物語でも現実でも同じことを言うのだろうか。一種の感動さえ覚えながらも、オレは槍を構える。
後ろの怪我人達を背にしている形だ。一人はショートソード、1人はロングソード、1人は槍だった。
構成だけ見たらバランスがいいね。
最初は、ショートソードの男が飛びかかってくる。動きが遅い、すっと横に避けると、バランスを崩して転んで気絶したようだ。なんだこれ、野党の癖にトロいな。次はロングソードの男。中段に構え体をぶつけながら腹に刺そうとしてくる。こちらも避けて、槍の柄で首の後ろを叩くと、ガクンと態勢を崩す。気絶させたのだ。
二人がやられて槍の男は少し怯む様子を見せるが、結局はやけっぱちで突っ込んできた。オレは御者の男がやられたように、脚に怪我を負わせ、動けなくする。
「おい、もう大丈夫だぞ。こいつらを縛り上げろ」
オレが指を指すと、御者の男が慌てて荷台からロープを持ってきて、器用に縛っていく。この男達は街で門番にでも突き出すとして、まずは御者の男の怪我の治療からだ。
「ほら、そこの荷台に座ってみ」
「は、はい」
御者の男は足を引きずりながら、荷台に足を腰かける。傷を見ると、剣で横薙ぎに切られたようだ。さほど深いわけでは無く、簡単な治療で済みそうだった。
「ファースト・エイド」
この呪文は軽傷用の回復魔法だ。回復能力を飛躍的に向上させ、表層の傷を塞ぐ。今のオレのレベルで中級魔法を使う訳にはいかないので、初級魔法で治せるもので幸いだった。
「ほい、終わり。この馬の向きだと、街へ行こうとしたのか?オレもは、あっちから来たんだ、丁度戻ろうとしてた所だから、一緒に行くか?」
「は、はい、ぜひお願いします」
「狩ってきた兎を干してあるから、それだけ持ってくるわ。ここで待っててくれ」
オレはそれだけ言うと、川辺に戻って兎を回収すると、馬車に戻って来る。オレが戻ってくると、先ほど少女を庇って震えていた小太りで人の良さそうな男が話しかけてくる。
「有難うございました、私はこの街道を行き来している商人なのです。今回は護衛を雇っていなかったので助かりました」
「それは不用心だな。街に近ければ必ず荷物を持っている訳だし、襲えと言っているようなものだぞ」
「いや、お恥ずかしい……見通しが甘かったのです」
そんな風に商人のオッサンと話をしていると、横から視線が注がれていた。パッと見ると、先ほど庇われていた少女で、オレが見た途端顔が真っ赤になって、そっぽを向いた。
人間の年齢であれば15歳程……か?
「?」
オレが首を捻っていると、御者の青年がいう。
「お嬢は、あなたみたいに顔立ちが整っている人に会った事が無いので、照れているんですよ」
「そういうもんかね」
とりあえずは帰りの足を得て、楽に街へ連れて行ってもらう。その間中、ちらちらと熱い視線を感じたが、何百年歳が離れていると思うんだ。勘弁してくれ。




