88 お休みは休めるか休めないか
「これはまた、随分と無理をなさいましたね……」
「ははは、そうかも?」
受付嬢が半目でオレを睨んでくる。
「全員レベル40で、これだけ実績詰んでくると、Cランクに上げるしか無くなっちゃうじゃないですか」
「寧ろ、その為にレベル上げたんだけどな」
「半年余りで、FからCなんて異常ですよ」
ランクを上げたなら、オレにはメンバーと相談したい事があるのだ。
「個室は空きが有るか?」
「C部屋が空いてます。これが鍵です、どうぞ」
受付嬢からチャリンと鍵を受け取って、部屋に入ると、さっさと鍵を掛ける。全員が椅子に座った事を確認してオレは口を開く。
「最近、真影の剣が喋らないんだが、壊れたか?」
パティに聞いてみると、困ったように眉を八の字にして、こちらを見る。
「いつからか喋らなくなっちゃって……性能も若干落ちたような気もしますし」
カチャリと真影の剣をテーブルに乗せる。それを手に取って、色々な角度から見る。柄を鞘から抜いてみる。刃には曇り一つ無く、一見何か異常が有るようには見えないが。
これは。
「魔力切れだな」
「え!? これって魔力が要る剣だったんですか? 最初は喋ってたじゃないですか」
「それは、使っていない状態だったから昔の魔力が残っていたんだろうな。チャージすれば……ほら」
オレが魔力をチャージすると、真影の剣がピクリと動いた。
「ハッ……ここは!?」
「魔力切れだったんだよ、切れそうな時にウィリスに頼めなかったのか?」
そこで真影の剣が照れたようにくるくると守る。
「人に使われるのが久々なので、拙も感覚が鈍っていたのだろう。次は大丈夫だぞ」
本当に大丈夫なのであろうか、大変に心配である。
「拙はまだ解放出来ていない力が有るのだが、その女子がまだ力を引き出せていなくてな。特訓でもせぬか」
「暫くは、特訓っていう単語は言わないで!」
そう言って、パティはテーブルに突っ伏してしまった。
帰ってきたばかりの合宿が、よっぽどトラウマになってしまったか。
しかし、まだ力を一段階上に出来るのなら、唆してまたどこかで特訓をしないといけないな。
「しっかし、ようやくCランクまで上がったか。ようやくだな」
オレがしみじみとそう言うと、ウィルスが疲れた声を出す。
「セネカさんとパーティー組んでから怒涛でしたが……」
そこで一旦、会話は途切れる。
「はいはーい」
パティがガバリと体を起こして挙手をしている。
「観光! どこか観光しましょう!! 働き過ぎは良くないです!」
そういえば、オレはバカンスの為に地上へ来たんだったな。休みだと言うのに、根を詰めて冒険者してしまった。だが、休み過ぎると体が落ち着かなくなるんだ。
「分かった、分かった。どういう場所に行きたいんだ?」
「バス便の6番目の駅の街が、街並みがすばらしいのと、食の都らしいんです」
パティがウットリとした顔で顔の前で手を組む。まるで目の中がハートになってそうだ。観光地と言っても花より団子らしい。
これはダメとは言えないな。
「他に意見も無いみたいだし、じゃあ、そこにするか」
「やった!」
女子三人が手を繋いでキャッキャと喜んでいる。
オレは普通に温泉とかが良かったけど、これは口を挟めそうな雰囲気では無い。アイクの方を見ると、ふるふると首を振っている。口が挟めないという事だろう。
「で、いつから行くの?」
「明後日辺りでどう?」
「急すぎない?」
パティとシシリアがごにょごにょとしているが、シシリアも初回はオレにそうやったんだよ……。
「じゃあ、パティのいう通りに明後日集合で、いつもの馬車乗り場で。馬車に乗るから備えはそこまで要らないと思うが、最低限の荷物は準備してくれ」
オレのまとめに、全員が首肯する。
皆を見つつも、オレは帰りにガイドブックを見て、公衆浴場が有る場所をチェックする事を心に決めた。どうせ、いつもパーティーでくっついていなければいけない訳でも無いし、何か有ってもあのメンバーなら返り討ちに出来るだろう。
自由時間を設けて大丈夫だろう。アイクだってずっと一緒じゃ息が詰まるだろうしな。
ランクを上げてからギルドを後にすると、解散である。
オレは宿屋に戻る前に本屋やへ行き、ガイドブックを買ってから街の広場へ行く。屋台でホットドッグを買い、美食街をチェックした。これは確かにパティ達が行きたくなるわけだな。
最近は頑張っていたし、少しくらい英気を養うのも悪くない。ガイドブックにドックタグを数個付けて、ガイドブックを閉じる。オレの心は、既に公衆浴場と美食街に心が飛んでいた。




