87 合宿後は疲労困憊
明日も20時更新目安です。
3日ほど経ったところで、ようやく全員がレベル40になった。
シシリアの冒険者カードはフェイクがかかっているのだが、流れ作業に疲れてきているのだろう。
フェイク上とは言え、表の数値はいじらない方が良いので、地道にカードの上で数値を溜めないといけないのである。シシリアは飽きっぽいからな。終わらない作業、中々上がらないレベル、足元の不安定な砂地と三重苦だ。
言ってしまえば、ひとえに退屈なのである。途中からオレが指示を出さなくても、連携を取っている事は良い事なのだが、口から魂が出ているかのようだった。
「ほら、レベル40だぞ、やったな!」
「わー……い」
「やったー……」
覇気がない。ここからまた歩かねばならぬのだが、雪中行軍かのような様相になるのだろう。
「とりあえずは終わったから、安心しろ、帰れるぞ」
「ひぇぇぇい……」
どういう声だ。
それでも、疲れたまま歩かせるわけにいかないので、また一晩休む事にした。
今夜は疲れにも効く乾燥させた豚肉とキノコのリゾットである。思ったよりも早く終わったので、最後なので、多めに食材を使う。
帰りに何事も起きないとは限らないので全部使うと言う訳にいかないけれど、8割がた使ったんじゃないかな。しかし、一か月の食料で荷物自体が結構重かったので、それ以上の旅程となると、今後は補給出来る中継地が欲しいね。
皆死んだような表情を張り付けたまま眠りに入る。明日には帰るから、少しでも回復してもらいたい。
翌朝は相変わらずアラームをかけていないのに、定時に起きる。
携帯で時間を確認する癖が有るので、半年たった今も、未だに頭の辺りを探してしまう。
うっ、寝る時にも携帯が使いたいっ!
携帯で好きな配信者のY〇UTubeチャンネルとか見たいし、しかし、自分が電子にどれだけ依存していたか分かるな。シシリアに聞いたら、天界の友人とは神像で短い会話をするくらいなら許されそうである。
オレの友達、みんな会社から出て来ない人間ばっかりだからな……。連絡とれるのかなぁ。
それにしても会社のデーター機器の画面の夢を見るし、デジタルの影響すごいな。このバカンスでデジタルデトックスする良い期間か……?
天界に戻ったら、携帯のバージョンどれくらい上がってるんだろう。時代に置いて行かれそうだ。
オレが頭を悩ませながらも野菜を切るだけの簡単なお仕事の作業をしていると、周りが起きてくる。
「あ、アイクさん、私がお水出さないとです……」
「調理はオレに任せてください。何か落ち着かないんで」
朝食の作業はあっという間に取られてしまった。
手持無沙汰になってしまったので、その辺で兎でも狩ってくるか。オレは槍を持ち、立ってから軽く素振りをすると、森の方へ歩を進める。
「センパーイ、私も居た方がいいですよね? 行きますよ」
確かに、森では槍よりも弓の方が良いかも知れないな。
「じゃあ、頼む」
「はーい」
シシリアと一緒に歩いていると、彼女の耳がピクリピクリと動いている。音を聞き分けているのだろう。耳が良いのなら音を沢山拾ってノイズが多そうなイメージだが、シシリアは正確に音を拾っている。
オレはまたもや手持無沙汰になって、横を歩くだけの物体に徹している。
「そこっ!」
ギャンッッ
シシリアの矢が、正確に森オオカミの首を射抜いている。
「ほら、センパイ、絞めてください」
「はい」
「何で敬語になってるんですか……」
今回の旅路で皆をレベル40にしたら気合が抜けちゃったんだよな。疲れたのは皆の方だと思うが、オレは皆が死なない程度かつ全回復しない程度のコントロールをするのに結構な気を使った。
いきなり皮膚が10歳若返るレベルで回復するとかだと、やば過ぎる。
狼を持って帰ると、アイクが奇麗に肉を切り分けて、ウィリスが水で血のりを洗い流してくれる。何と恵まれたパーティーなのかと……。
魔法使いの使える魔法は重要で、攻撃力に特化している事はもちろん、こういう小さな事が出来ると重宝される。他のパーティーも欲しがっていただろうから、シシリアが片っ端から断っていただろう。
それでも過去に追放したクレリックを採用しちゃったのは何でだろうな。
確かにヒーラーは貴重職ではあるのだが。
そもそも、聖魔法を使える人間が倫理に反する事をするのはけしからん。
そうすると、オレが入ったのはともかくとして、アイクが良い奴なのは僥倖だったな。
考えながら、うんうんと頷いていると、パティが気の毒そうな顔をして言う。
「セネカさん、もしかして疲れてます? 割と涼しそうな顔してるかと思ってましたけど」
「俺は今のパーティーが育っている事に感動を覚えている……」
「その顔は、逆に燃え尽きちゃってる感じしますけどね」
アイクが若干引いている。
「それはともかく、朝ごはん食べたら馬車街道まで出るぞー」
オレの言葉に、それぞれご飯を食べるか、お茶を飲みながら頷く。
火の始末をすると、荷物を担いで馬車道目指して歩き出す。今回は帰りの馬車を除くと2週間強ほどだ。
帰りの馬車に乗ると、皆爆睡していた。朝まで寝てはいたけど、久しぶりに地面以外の寝る事が出来る場所だからな。バス便の中で、3日ウトウトとして、ご飯時にはもくもくと携帯食を食べ街に着いた時には、全員ヘロヘロだった。
皆、合宿で、余程燃え尽きてしまったらしい。積極的に見つけ出して、無限おかわり状態はキツかったか……。
「じゃあ、今回はここで解散した方がいいか? 打ち上げ無しで3日位開けるか。またギルドでな」
全員が萎れた花のような御面相で散っていく。今回はきつすぎたか。二次的にレベルが上がるんじゃなくて、強制合宿だったから、『火炎の蕾』では今までは取ってなかった形だから、皆がぶっ倒れていない事を祈る。
でもレベルって強制的に上げないと、中々上がらないんよ。
うちらは以前の遺跡で宝石を沢山もらえたから、金銭面の心配をしなくても良くて強制合宿を決行したのだが。
本当は遺跡を回ってアイテムや素材を集めつつレベやランクを上げるのがスタンダードだ。
しかし、今の『火炎の蕾』だと多少無理してでも、レベル上げをした方が、オレやシシリアの力が解除しやすいのだ。低出力は、高出力より大変なのである。
これで3日開けて、またギルドで集合する形である。そろそろランクもあがるんじゃないかな。




