84 冒険者の上昇志向
少しの間、20時更新になるかも知れません。
「そんなにレベルを上げるなんて……」
「いい加減Cランクに上げて、上のレベルの依頼を受けたいと思ってな。アイクはランクを上げたいだろ?」
「え、ええ、まあ」
アイクが頬をぽりぽり掻く。冒険者の多くは、Sランクを目指しているものが多い。もちろん日々の糧を依頼ボードで手っ取り早く探し、金銭の受け取りをする為に入る人間も居る。
獣を仕留めた場合も、細かい解体も買取もしてくれてるしな。直接肉屋に売り込むには少し金額が落ちるが、面倒くささを考えたら、悪くない。
パティやウィリスを見るとそこまででもなさそうだが、少なくともレベルは上げたいとは思うだろう。レベルを上げると、覚える魔法も増えるし、剣士も自分の身や周りも守れる。
強くなるに越した事は無いのだ。
シシリアは……20年地上に居て冒険者でいるという事は、冒険者稼業を気に入っているのだろう。
「なるほど。本腰を入れると言う事ですね。前の遺跡でお金も入った事ですし、レベル上げに集中するのもいいかも知れません」
アイクは顔が明るくなって、やる気が出てきている。
パティとウィリスも頷いている。
「じゃあ、3日後のいつもの時間に馬車乗り場な」
おれの提案に、全員が頷く。
あとは、食材を買いに行かないとな。この後に皆で買いに行くか。
市場に出ると、乾物の店に入る。
海苔、昆布、海産物の干し物など。出汁にしても、そのまま具にしても美味しい。後は市場へ出て、野菜の乾燥したものを買う。ここらでも、冒険者が買って行く事も有るし、家庭の保存食としても多く買われている。
瓶入りの物は避けたいが、最低限の調味料は買いたい。食材はアイク以外の4人で受け持つんだけど。もちろんオレは少し多めである。どうしても筋力の差が有るからね。……しかし、塩の子袋をひょいと持ち上げるパティを見ると、オレの筋力の方が負けているかも知れんな。
明日から頑張る。
食材の買い出しだけ終わると、各々泊っている宿に帰る。
普段はここの所少し忙しくしていたので、のんびり……ってまた報告を忘れてたー!!
ダッシュで向かうが、教会の入り口で急停車し、呼吸を整えしずしずと入る。
前に言われたとおりに、教会内に居る人間が遠巻きに見てくる。SRってこういう気分か。
ステンドグラスから入って来る夕日に目を細めながら、男神像を通じて上司に報告をする。
(遅くなりました、セネカです)
((お、セネカくん。さっきトーリくん帰ってきたから、少し聞いたよぉ。順調そうで、何より何より))
(今回例の堕天使は出てきませんでしたが……そろそろ来ますかね)
((そうだねぇ、そろそろかな。トーリくんが居た時は3人だから絡んでこなかったけど、君とシシリア君だけになったら来るかもね。対処は任せるよぉ))
(分かりました)
そこまでで通信を切る。
相変わらず、遠くからざわざわとしながら見られている。
教会に来たんだから、みんな祈ろうよ。
視線を巡らせると、女性の二人組が『きゃっ』と言って頬を染める。
教会は出会いの場じゃ有りませんよ。
オレはため息を吐くと、教会を後にした。
買い物はしたから、3日後まではだらだらする予定だ……っってうお。トレーニングする事にしてたんだ。いや、今日の疲れを明日に持ち越してはいけない。どうせ三日後に出発なのだから、好きにしよう。
かくしておれは中二日の自堕落な生活が始まった。
前日になると、センチメンタルな気分になる。休みも終わりか……。
社畜時代の休暇が終わる前日のような気分である。
しかし、冒険者は夜寝れるし会社員勤めより良いだろう。
地べたに毛布敷いて寝る事とか、会社で椅子繋げて寝るのと大差無いからね。
何より、オレは今の生活が気に入っているのだ。
日が昇って翌朝、待ち合わせしていた馬車乗り場に着く。
今回も馬車の正式なルートとは外れているので、行きに近くまで乗せてもらい、帰りは馬車道まで出て、拾ってもらう予定である。
馬車で移動する事3日、砂漠近くまで来て、馬車を降りる。
ここからは歩きだ。
毒トカゲは普段擬態しており、僅かな振動で近づいてきてばくり、だ。大きさは大型車くらいで、弱点は氷らしい……とギルドのバインダーには書いていた。
資料の有る場所って、楽でいいね。
日差しがじりじりと肌を焼く中で行軍する事3時間、岩の有る日差しを遮ってくれるところに辿り着いた。
「よし、ここで一旦休もう」
「ひー、暑いですね」
シシリアが襟元をはだけさせて、ぱたぱたと風を送る。
「『ウィンド』」
「うーぃ、涼しーい」
何とオッサンくさい事か。オレが半目で睨んでいると、何を取り違えたのか見当違いな事を言ってくる。
「センパイ、変な目で見ないで下さい」
「そんな目で見る訳無いだろ」
思わずチベスナ顔になってしまう。んな事が有る訳が無い。
天界の人間は、総じて寿命が長いので、恋愛的な意味で人と親しくなる事は中々無い。まあ、その反面恋愛関係になると、相手と離れる事は無い。オシドリ夫婦というものだ。
オレの両親も、連れ添って500年以上となる。
ようするに、中々恋愛に発展する気持ちが働かないのだ。部署の中の同僚も、40人ほどはいるが、結婚しているのは一人ほどだ。ただ、天界だけあって、職場の年齢の幅も大きい。上司だって何年生きているか分からない。聞いた事は有るが『ヒミツ』だそうだ。
気を取り直して、ウィリスの出してもらった水を飲む。汗で乾いた体に沁みわたる。塩キャラメルで塩分と糖分を取り、しばしの休憩だ。
「さて」
オレはシシリアに向き直る。
「今回はシシリアの耳頼りだ。自慢の耳で頑張ってもらおう」




