81 嵐の後には何も無し
明日もお昼更新です
計、きっちりかっちり七日、あれ以降は特に何も起こらず、港へ入る。
船を降りる時に、船長がトーリに握手を求めた。
「いやー、あなた達のおかげで助かったよ。礼にもならないが、乗船料金をタダにするよ」
トーリはそれに、爽やかに笑って応える。
「いや、それで構わないよ。じゃあな」
そうしてオレ達は一歩踏み出し、陸へ上がる。
「一週間程度の船旅で、あんなの出るとは思わなかったッスね」
乗客と離れたせいか、シシリアがいつもの口調に戻る。
「よく有る事、よく有る事」
「『よく有る事』じゃないっス!人目が有って力をセーブしなきゃいけないのに、普段CランクからAランクに調整するの難しかったんだから!」
シシリアが、ぽかすかとトーリを殴るが、やつは意に介していない。
「そう言えば、Aランクに上げといたんだな」
意外だ。こいつは結構面倒くさがりなのに。
「本当はSにしようと思ってたんですけど、もう帰ろうってなったら、そこまで上げなくて良いかなって思っちゃったんですよねぇ」
やっぱり面倒くさいだけだった。
「あ。ここから1日歩くと、街に着くんで、そこで一泊しましょう」
くるりと回って、率先してスタスタと行ってしまう。
何も考えてない風だが、何か考えているのだろうか。……いや。多分、何も考えて無いな。
「ドラゴンが出る所ってどの辺なんだ?」
「この街で一泊して、その次の街まで行って、そこから更に3日歩くと火山に着きます。その火口近くにドラゴンが住み着いているので、そこまで行けば戦えます!」
喜色満面。
余程楽しみにしていたと見える。地上の最後の思い出だからな。
火山が近いせいか気温が高いし、生えている木も、オレ達が活動していた街の周りとは植生が違う。
「我慢できない事は無いけど、少し暑いな」
オレが軽く汗ばんだ首を拭いていると、前を歩いているトーリが振り返った。
「当たり前ですけど、火山の近くはもっと熱くなりますよ~。シールド魔法期待してますね!」
確かに、素のままで火口に落ちでもしたら、思い出作りをする前に天国へ逆戻りである。
地上での「死」は天界の民にはカウントされないのだが、天界に戻ってからの再構成に少し時間がかかる。
後は、確実に上司が叱責されるし、オレ達も上司からも厳重注意を受けるのだ。恐らく減給になるだろうから、社会人には辛いな。
「オレ達が天界に戻った時の給料の為に、失敗するなよ?」
「あはは、何が起こる訳でもないでしょ」
こいつ、フラグを立てやがった。
「船に乗ってるのに疲れちゃったっス。宿決めませんか~? って言うより、海の上なら翼で飛んで行っちゃだめだったんスか?」
「あっ、忘れてた」
トーリはウッカリなどと言っているが、街に降りる場合に少々困る。港や街道は、入って来る人間のチェックをしているから、突如街の中に居ると怪しいので、出入りで引っ掛かる。
結局は正攻法が一番なのである。
それにせっかく海を渡ったんだから、飯も本拠地にしている街と違う物が食べたい。やっぱり食は大事だよな。堂々と入って堂々と出ないと気分も悪くなるという物だ。
「まあ、宿はご心配なく。もうお勧めで決めて有るんで。荷物置いて、食事にしましょう。
「はー、まだ足がふわふわするっス」
シシリアが言葉通りに、足がもつれて、膝がカクンとなったので、慌てて抱える。
男とは違い、ふわっと清涼な香りが鼻をくすぐった。
しかし。
「うわ……シシリア軽すぎ。あれだけ食べてるのに……どうなってるんだ」
オレは思った疑問をそのまま口に出してしまった。それから逃れるようにシシリアがジタバタとする。
「もう!余計なお世話っス!! そういうのセクハラっていうんですよ!?」
「そりゃ悪かった」
「んも~~~! 絶対悪いと思ってませんよね!」
「うんうん、分かってるって」
「セネカさん、俺が聞いてても嘘だって分かるすわ……」
ぷんすか怒っているシシリアを尻目に、宿屋を探す。一泊だけなので、特にこだわりも無く、小奇麗な場所を探した。
荷物を置いたら……ご飯だ!!
「この国は、海にも面してるから、海鮮が美味しいんですよ。でも、東には牧草地帯も有るんで、羊料理も有名です! 片っ端から頼みますか?」
「いやいや、食べきれる量しか頼まないぞ」
「まあ、それもそうですね、足りなければ追加オーダーすればいいし。すみませーん!」
トーリは片手を上げて店員を呼ぶと、素早く店員が来た。
「ご注文は、お決まりですか?」
「とりあえず、海鮮焼きを一通りと羊の腸詰と、ラムステーキ」
「かしこまりましたー!」
打てば響くようなやり取りをし、オーダーを終わらせると、店員がお冷を持ってくる。
暑い空気にさらされているので、思ったより喉が渇いていた。一気に飲み干すと、汗が引いてきた。
「俺もこの土地には初めて来たんですけど、やっぱり暑いんですねー」
そりゃ火山が有るからな。
「その代わり、宿に温泉有るそうですよ! お湯に入るのなんて久々だなあ」
温泉!!
こちらに来て、水に入ったのは、精々川くらいだった。
オレはまだ来ても居ない食べ物を他所に、ソワソワとしてしまう。
早く! お湯に! 入りたい!!!




