74 看板娘
明日もお昼更新です
三日後、オレ達はまたギルドに集合していた。目指すはウィリスの杖のドロップ品狙いだ。
毎度と言えば毎度だが、ギルドのラウンジのテーブルで、ダンジョンのドロップ率の統計などを見ている。これは今までに冒険者が申告してきた「このダンジョンでは、これが落ちた」などの自己申告での傾向が分かる資料が有るのだ。
……ただ、冒険者と言うのは四角四面とした人間は少ないので、信憑性は高くない。あくまでも善意の申告である。
だからと言って、事前の準備も無しに飛び込むのは賢明とは言えない。
よって統計による傾向と対策を準備するのだ。
色々なダンジョンがカタログのようにバインダーに挟まっている。各々のダンジョンの特徴やドロップなり宝箱なりの実入りの事まで。この分厚い資料から杖の出やすいダンジョンを探すのだ。
まるで、システムの仕様変更の書類一式を出された気分である。うっ、社畜時代を思い出して頭が痛い。
五人総出で探す物の、中々出て来ない。少し水でも貰って来ようかと思った時にウィリスが小さく呟いた。
「有ったかも……」
意外にも重そうなカタログを軽々と持って、ウィリスはテーブルにそれを置いた。
「東の遺跡型ダンジョン。ここは敵も強いけど、ドロップも多いらしくって、杖が出た申告もあります」
ふむ。
「例の如く聞くが、レベルはいくつになった? オレは35」
「僕は36です」
「私達は35です。センパイとは、ほぼ差が無くなって来てますね」
もう少ししたら、中堅を名乗っても良いんじゃないか? 着実にレベルが上がっている。
「じゃあ、そこに行く事にして良いか?」
「はい」
「私達も賛成でーす」
シシリア達が、まとめて頷いている。
「ただ、ここだと馬車便が出ている道じゃないから、借りないといけないな……。馬車で3日ほどか?」
「乗合い馬車じゃない場合、高いんでしょうねぇ」
「だろうな」
オレとアイクのやり取りの最中に、シシリアが横槍を入れる。
「そんなものは馬車の組合に聞けば済む話でしょ。ホラ、行きますよ!!」
そう言われて、無理矢理ギルドから連れ出されてしまった。ダンジョン内の地図も見ていたのだが、そちらはほぼ書き写していたので、まあいいか。
その後は、全員で買い出しに行く。フリーズドライのミネストローネや豆、茄子や調味料を買いそろえる。カレー粉やシチュールーも買っていたな。アレがダンジョン内で食べられるのか、ちょっと楽しみになってきたな。
「実は、アイクさんの料理が最近楽しみなんですよねぇ」
パティがオレが考えていていた事と同じことを言うので、どきりとする。
「ごめんな、ただの食事係とか思って無いからな」
「そうです、私達もお皿とか洗ってるので……アイクさんのお料理の労力には見合って無いですけど」
オレの取り成しに、しゅんとしたウィリスが続く。今やこのパーティーは誰を欠く事も出来ないと考えている。ほどほど慣れて来たと考えているし、連携も仲も悪くないと思う。
買い物をしていく内に、女子は服屋の前で止まってしまった。しかし、それに付き合っていたら日が暮れてしまうので、オレとアイクは服屋の前で別れ、明日の出発に備える事にした。
夜になり、下の食堂で、ビーフシュチューを頼む。
肉はスプーンでするりと切る事が出来、口に入れるとほぐれていく。上に乗ったチーズも併せると絶品だ。一緒に出てくるトーストしたバゲットを付けると、それもまた美味しい。しかもバゲットはお代わり自由だ。
更にポテトと唐揚げを頼み、一緒に食べていく。唐揚げは外側サクで中は肉汁がジュワ。ポテトは揚げ立ててカリカリしている。
美味しい物を食べている時の多幸感と言ったら無い。
ひたすら咀嚼していると、くいくいと袖を引かれる。横を見ると、ぴょこんと癖のある髪の毛が見えた。
「お客さん、お冷は如何ですか?」
この子は厨房で以前に見た、この宿屋の看板娘だな。8歳くらいの女の子だ。そう言えば一緒に頼んだコーヒーも飲んでしまったので、飲み物が無かった。気が利く子だな。
「よし、頼むよ」
オレが頼むと、女の子はとてとてと厨房へ水を貰いに行く。
そして、危なっかしくお盆に乗せてお冷を持ってきた。
「有難う」
オレが礼を言うと、女の子は頬を真っ赤にして下がってしまった。
「あれ?」
あまりにも素早かったので、呆然とそちらを見てしまう。
何か、そんなモンスター居たよな。
「はは、アンタが格好良いから、うちの子が照れてるんだよ。水もアンタが居るから、自分で持って行くって言ったんだから」
おかみさんが、他所の席の皿を下げるついでに、こちらにやってきた。まあ、小さい頃は年上が格好良く見えるものだからな。そうして、歳をとると、オヤジとか言われるのだ。天界の者のオレを置いて、地上の民は年を取ってしまうのだが。
「ははは、礼を言っといてくれ」
オレはいつもより多めに払うと、席を立つ。
「お客さん、ちょっと多いよ?」
「あのお嬢さんへお小遣いだ」
「有難うね」
おかみさんが、母親の顔を見せる。
うーん、若干良い事をした。
その日は何を憂える事も無く、安心して寝ることが出来た。




