72 森神の弓弦
明日も昼更新となっております。
太陽が昇っていつもの時間、朝六時に目が覚める。寝付きはいつもより遅かったのに、寝起きはいつもと同じ時間帯とは、もはや自分が怖い。
もそもそと枕にしていた鞄に、軽い敷布をきちんと畳んで入れる。少しでも清潔な冒険をするのが健康の元だ。ただの荷物と言うなかれ。敷布も、その一環だ。
その内に皆が起きてきて、取り敢えずは朝食という事で鍋をかけて火を起こす。
「でも、いつまで待てばいいんですかね」
アイクがスープをかき混ぜながら言う。
村長は、素材を一晩月光に当てる必要が有ると言った。
「少なくとも、昼までは来ないんじゃないかな」
プラモじゃ有るまいし、決まった形に組み立てれば終わりだという事は無いだろう。
シシリアの為にも、早く入手したいが、適当に作られてしまっても困る。
種族柄そのような事はしないが、時間をかけて作ってくれていると思うしかない。
せめて、持ってきた食料が無くなる前に持ってきて欲しいな……。
ウサギなどを狩り、たんぱく質を摂りつつも中々来ず、パティとアイクが手合わせをしているのを見学していると夕方になってしまった。一日が終わってしまう……。ぼーっとしていると、背後の茂みがガサガサと揺れた。
「待たせたな、人間」
「終わったのか?」
またもや前触れ無く金色の鹿と現われたエルフが、一つの包みを持っている。
「ああ、森の化身様が元気になられて、御神木も浄化されて材料が取れた。これがお前らの望んだ物だ」
エルフが包みを開けると、蔓草の意匠を凝らした萌黄色の弓が出て来た。弦は金属製に見えて少し違う。聞いてみたら、蔓の一種らしい。
「『森神の弓弦』だ。大事に使ってくれ」
「『森神の弓弦』……」
シシリアは新しい武器にジーンと感じ入っているようだった。色々な角度から見ている。
「こちらも助かったのでな。メンテナンスが必要になったらこの辺りに来てくれ。私が迎えに来る。ではな」
礼を言う間もなく、エルフは去って行った。
「行っちゃいましたね……」
ウィリスが夢でも見ていたかのように消えた方向を見ていた。森の人は美しいからな。姿を見る機会もあまり無いから、心がふわふわするのだろう。
森は何事も無かったように、静かにサワサワと葉擦れの音が響くのみだ。
「ともかく、新しい武器を手に入れたし、馬車の時間を待って帰るか」
次の馬車便が着くまでに時間が有るし、武器の慣らしもしたいとのことで、夕方だと言うのに女子三人は狩りに行ってしまった。オレとアイクは馬車が拾える街道で待ちぼうけである。
「セネカさん」
「ん、何だ?」
「次はウィリスさんの武器を探しに行きたいですね、そうしたら全員が武器を新調したことになりますし」
そこで置いていかれた真影の剣がカタカタと揺れる。
今回はナイフの練習をしたいとの事で、パティにうるさい真影の剣は置いて行かれた。
「杖ならダンジョンから出る事も有るぞ。今回の弓のように一か所しか当てがない事と比べると楽だ。下調べはいるがな」
出来てから600年以上も経っているだけあって、物知りで有るようだが、過去と当時では遺跡の場所も新しくなったり崩れて無くなったりしているだろうし、情報のすり合わせが必要だ。そもそも、何年あんな崖の途中に居た事やら。
元々は弓がダンジョンなどから出にくいと言うだけであったのでエルフの森に来ただけだ。次の武器を探すなら普通にダンジョンに入って、武器を探すついでにドロップ品目当てに行くのもいいだろう。
帰ったら、ギルドで情報でも集めるか。
しばらくすると、女子三人が帰ってきた。シシリアが息急き切って鼻息荒くこちらに報告してくる。
「センパイ、この弓やばいです! 命中力が上がって、貫通力も上がってます。早さも違うんですよ!」
語彙力はどうした。
「鼻息が荒い、分かったから離れてくれ」
ゼロ距離とはいかないまでも、この距離はビビる。
距離感がバグっているのはパティだけではなかったか。今まで女子だけのパーティーだから遠慮が亡くなっているのかも知れない。うーん。
腰が引けているオレを見て、シシリアがニマーっと笑う。これは、楽しんでるな。後で地上の民に話せる程度の黒歴史を話してやろうか。
もう夕方になってしまったので、馬車に乗るのはまた明日だ。野宿が続く事になってしまうが、うちのパーティーから、不満の声は出ない。それだけでもエライ。ーーー一日の最後にはクリーン魔法はかけているけど、水で拭きたいな。そんな事でウィリスに水を出してもらうのも気が引けるし。
次の馬車を待って、床に着く事にする。もう一日の我慢だ。
糧になりますので、★やブクマなど、どうぞよろしくお願いいたします。




