70 森の中での出会いは厳しめ
前日に64~69話更新しております。
今日からは昼固定更新予定です。
オレは、先ほどエルフの村長と話した内容を三人と共有する。
「それは大きな戦闘になりそうですねー」
「上手くいくかな……」
パティとウィリスは、それなりに不安そうである。
エルフの森と言う不可侵領域に入った上に、森の化身を脅かしている相手と戦うと言うのだ。レベル的に少し難易度が高いかと思うのだが、武器が手に入る機会をみすみす見逃す手は無い。
村長は村の奥だと言う場所へオレ達を案内する。
一見何も無い、村と森の境目に見えるのだが、ここから件の場所へ行けるのであろう。
「それでは、門を開けます」
村長は手のひらを木々に向かってかざす。先ほどアイクたちを呼び寄せた時よりも複雑な魔法陣が五重になった。おそらく、村の者でも簡単に入れるようには作っていないのだろう。
「お待ちください」
オレが足を踏み出そうとした時に、エルフの村長が、声をかける。
「このままでは、帰って来れません。帰りたい時は、この印を木にかざしてください。
そう言うと、オレの右手の甲に、三重の丸が光って定着すると、光は収まった。
「では、お願いします」
やり取りの末に魔法陣の中へ踏み込むと、天上すら見えないが、外とは明らかに異なる空間が有った。
その中央に大きな木が有り、その洞を見ると、熊が寝ている。
あれが、森の化身と言う訳か。
しかし熊は頭から徐々に黒くなっていて、その炭のような黒は肩まで達していた。おそらくこれが異変の原因なのだろう。
その炭は頭から湯気のように漂っていて、ゆらゆらと揺れている。それに伴って、木の根元も少々黒くなっていた。これは村長が言うよりも悪い状態では無いのであろうか。
しかも、熊自体は森の化身なのだから、倒せばいいだけでは無い。
気絶するくらいにとどめるべきか、どちらにしろ難易度が高い。
熊は、オレ達の登場によりうつらうつらした状態から目覚め、体を起こす。こちらに気付くと、すぐに歯をむき出して、「グォウ!!」と吠える。
吠えるや否や、すぐにこちらに向かって来た。ドドッドドッという重い音が辺りに響く。
「戦闘態勢に入れ!」
今回は正攻法だ。
魔法や矢が四方から飛ぶと、同士討ちになってパーティー内で自滅するので、前衛のアイク、後衛のシシリアとウィリス、中衛パティとオレという鋒矢の陣 (矢じりのような先頭に力を入れた陣形)を組む事にした。
熊はフシューフシューと鼻息が荒く、目を血走らせている。
「ウィリス、『サーチ』!」
「セン・フォレスト・ベア……弱点は……分かりません」
やはり、ウィリスの『サーチ』では分からないか。
『ブレスド・アイズ』(祝福の瞳)
オレはぼそりと呟く。あいつ自体の属性は土。かと言って炎で攻撃する訳にはいかないだろう。氷魔法で足元を固めて剣と弓矢で首から下の上半身を攻撃と言ったところだ。
「ウィリス、足場を氷で固めろ!パティはオレと一緒にアイクの後ろから攻撃をするぞ。シシリアも目は狙うなよ!」
目を潰すと確かに戦闘は楽になるのだが、皮膚の回復はまだしも、目のような重要な器官を回復出来る事は知られたくない。
結果、攻撃を避けるのが最善だ。
オレ達が近づくと、熊は仁王立ちになり、腕を使って、追い払うかのように腕を振るう。しかし、その先には凶悪な爪が付いている訳で、気を抜けば挽肉だ。
「『ホーリー・リング』!」
切りかかっているアイクとパティの後ろから魔法を撃つ。一通り攻撃をして離脱すると、後衛二人の出番だ。
「『瞬速』!!」
「『アイスフィールド』」
これで足場を固めて攻撃しやすくなった筈だ。足元を凍らせはしたが、どれだけも、もたないだろう。
案の定「ビキビキッ」と氷にはヒビが入ってきた。
完全に砕け散る前に攻撃で追い込む。
「はあっ」
「やあっ!」
「『ホーリー・ブレス』!」
ダメージはそう入ってはいなさそうだが、体がぐらぐらとしてきた。相変わらず頭からは影がもやもやと上がっている。
「『瞬速』!」
「『アイスボー……』」
そこでウィリスの詠唱が途切れた、思わず振り返ると、シシリアが前を向き、オレの視線を促している。
それにつられてオレも前を向くが、前衛のアイクとパティも剣を振りかぶったまま止まっている。
「あらあら~?」
天上に近い空間から、円が描かれたような穴が開いて、女が姿を現す。
「あなた達、私の時間停止が効かないという事は天空の民かしら?」
女は紺から青のグラデーションの腰までの長い髪をふわふわとさせていた。瞳は赤で、爬虫類のように瞳孔が縦に裂けている。背中からは黒い翼が生えており……。
「地獄の者か」
「そう、そうなの!この所は、退屈していたのだけど、あなた達が私があちこちに作った玩具に反応してくれたみたいで会いたかったのよ」
思い出すのは、アルビノの少年と初心者用のダンジョンに見合わないガーゴイルが居た件だ。
「このクマちゃんもね、黒くしてあげたら、絶対絶対、来てくれると思ったわ!」
しなやかな指には紅のネイルをしていて、時の止まった森の化身の頬をガリリと掻いた。
「おい、やめろ!! 大体、ここはちょっとやそっとで入れる場所じゃないだろう。神聖な場所でも有るんだぞ、何でお前は……」
イライラするオレを他所に、黒い翼で宙をくるりと回る。ミニスカートの過剰にレースの付いたワンピースがヒラリヒラリと舞った。
「コレ、なーんだ」
女は指で目の中を指し示す。
ーーーーー先ほどまでは、確かに赤だったのに。
「なんで、あんたがそんな物持ってるッスか……?」
それは天界の者共通の、虹の彩光を持った瞳だった。
「堕天したやつか」
女はフフフと笑うと頷く。
「そうよ、一緒に遊んでいかない? 退屈なの」




