7 通れるか通れないか
20時にもう一回来ます。
どうやらオレは、ヤツの縄張りに入ってしまったらしい。
目の前のレッドボアは、オレを敵と見定めて突進に備えて片足の蹄で地面をかいている。
ピュギューーーーーー!!
渾身の突進を、ヒラリと避ける。パワーが有ると言っても、当たらなければどうと言う事も無い。だが、避けられた事で、更にやる気に火を点けてしまったようだ。
よし。もういっそ、ここは槍の試運転に丁度良いんじゃないか? 昨日のスライムは、武器を使わないただの作業だった。
今日こそ、槍を使ってみよう。
突進を避けられたボアは、余計にいきり立って唸りながら足に力を溜めている。足を踏みしめて地を蹴ったかと思うと、こちらに弾丸のように突撃してきた。オレは紙一枚で避け、通りしな弱点目掛けて槍を突き刺した。
ガツン!
眉間を割った音と共に、固い物が砕けた手ごたえを感じた。
「っしゃ!」
地面にどくどくと血が流れるのを見て死んでいるのを確認していると、持っている槍の首がポキリと折れた。取り敢えずと思って買った槍だったが、流石に安物過ぎたようだ。装備にはそれなりに金を出さないとだめだ、買い直さねば。
オレはレッドボアの血抜きをし、川で洗った後に持って帰る事にした。
「ステータス・オープン!」
Fランク
Lv3→4
ふむ。レベルだけ数値化されると逆に分からないな。
更に、レベルが上がってしまったので、これ以上ここに居ても仕方が無い。スライム狩りをしようと思っていたのに、思わぬ大物が来てしまった。登録2日のソロで1から4への上昇はヤバイと、冒険者初心者のオレでも分かる。
オレはボアの血抜きを見ながらも、昼食を再開する。
よく勘違いされるが、天使とて、霞や水分だけで生きているわけでは無い。
肉も野菜も魚も食べる。ただ、言ってみれば、人間ほどは食べない。そこまで摂取しなくても、燃費が良いので、量が必要が無いのだ。
しかし、今問題なのはレベル上げで、上げ過ぎないように調節しなければいけないと言う事だ。パーティーすら組んでない今の状況では、強い敵を倒したと言っても信じてもらえないだろう。
これ以上ここに居ても、襲ってきたモンスターを返り討ちにすれば更にレベルが上がってしまう。
街へ入る列に我慢して並ぼう。
オレはレッドボアの肉を壊れた槍に括りつけて持つと、城門の方へ向かった。
街の入場列に並ぶと、まだ陽も高いので街へ入る人々も多く、やはり20分くらい待たされた。その間にもレッドボアをひっかけて運んでいるオレはじろじろと見られ、視線が痛かった。
「次の人ー……うおっ、スゲーな」
門番の親父が、オレのボアを見て驚いている。
「ソロだよな? よく勝てたな」
案の定「本当かよ」とでも言いたいような、うさんくさいものを見る目をしている。
「いや、偶然弱ってたのが出て来たから、止めを刺しただけだ」
これで、いくしかない。……いけるか? いけないと困るぞ?
「はっはぁっ、お前運が良いな。昨日ここの番をしてたやつが、急激にレベル上げしてるやつが居るって言ってたが、お前の事だったのか。でも、レベルが多少上がったらパーティー組む方が効率いいぞ……ほい、冒険者証確認。街へ入っていいぞ」
親父は相好を崩した。冒険者証を持っている事も有り、今回は早く門を通る事が出来た。しかし、パーティーか。回復職の需要ってどんなもんなのかね? 見当もつかない。
門をくぐると、その足で冒険者ギルドに向かう。
ギルドは門をくぐって20分程なのだが、ボアを担ぎながら歩いているオレは、すれ違う子供にビビられている。大人は流石に一々驚いたりしていないのだが。
「戻って来たぞ」
入り口から窓口へ、ずんずん歩いて行くと、ギルド嬢は目をパチパチと瞬かせる。
「え? ルートヴィヒさん!? どうしたんですか、それ」
「今日狩ってきた、運良く弱ってたからな。こいつの査定と依頼書の薬草の方を見てくれるか」
「は、はい。ヤイヅさーん、解体お願いします!」
窓口嬢は後ろを向いて大きい声を出す。多分、解体専門のギルド員がいるのだろう。
「あと、こっちが依頼受けてた、本命のトトト草。数えてくれ」
ブワッと窓口に乗せると、窓口嬢の顔が見えない高さになった。鞄に入っている間は、ぎゅうぎゅうに圧縮してあったが、出した途端に膨らんだのだ。
「わっ、こんなに!すごいですね……査定部ですぐに査定しますので、換金は少しお待ちくださいね」
トトト草の依頼を完了したので、ギルド証に情報が足される。しかし、窓口嬢はオレの会員証を見るなり、今度こそ零れ落ちんばかりに目を開いて、椅子からガタンと立ち上がった。
「えっ、何ですか、これ!! 昨日登録したのにレベル4なんて!」
「昨日は一日スライム狩りしてたし、今日のボアで上がったからな」
ギルド嬢はしきりに首を傾げているが、上がった物は仕方が無い。最初にかけた偽装は、実際の数字を隠してくれはするが、表のレベルが上がる事の数値の上昇は避けられない。
「はあ、そうですか…とにかく依頼完了です。このレベルならスライム以上でもいけそうですね……でも! まだ自分からレッド・ボアに戦いを挑んじゃダメですよ! 今回は運が良かったんですから!」
はいはい。オレは適当に返事をし、金を受け取った後ついでに肉も受け取って宿屋に戻った。
よぉし、これを厨房に持って行って。焼肉パーティーにしてもらおう!




