66 地底湖
本日、数話を順に更新していきます
朝に64&65話を更新しております。
次は18時に出来ましたら。
(明日からは昼一回更新に戻ります)
ごほっ
水に居た時間自体は然程長くなかったが、突然水に引きずり込まれたので息を止めるのが少し遅くて水を少し飲み込んでしまった。
「どこだ、ここは……」
あの部屋とここは、水で繋がっているのだろう。問題は、水流が一方通行であろう事だ。
横を見ると、シシリアの息が止まっている。
いかん、早く救急救命措置をせねば。
オレは200年ほど前に習った人工呼吸を10分程行い、シシリアが息を吹き返すのを見届けて安心して終えた。
「んぅ……ゲボッ」
シシリアが、色気の無い水の吐き方をする。
「げほっ、センパイ、ここどこッスか?」
「あの部屋と繋がってる部屋だな。水の流れが一方的だが」
シシリアが「ふぅむ」と頷く。
「あとの三人だけでセイレーン倒せたっスかね」
「あと一匹だけだったから三人だけでも平気だと思うが、分断されたのは痛手だな。あっちは真っすぐに出ればいいが、オレ達がどこに居るかが分からん」
周りはザザン、ザザンと波の音がするばかりで、方向も分からない。
「シシリア、猫並みの耳の良さで場所が何とか分からないか?」
「無理言うっスねー。……ちょっと音を聞いてみるから、静かにしてくれますか」
シシリアは目を瞑ると、集中しているようだった。
やがてパチリと目を開けると、奥に続く道を指し示す。
「こっちが他と音が違うッスね。何かしらが有るかもです」
奥の方へ行くとは大胆だ。
「『ライト』。じゃあ、シシリアが言った方へ行くか。先導してくれるか? 何かが出ても、いつでも攻撃出来るようにしておく」
「じゃあ、有難く。耳で道を辿りますね」
「その前にさ」
「はい?」
灯りで照らされた方向を見ていたシシリアが振り返る。
「お前、どこまで力を解放するか悩んだな?」
「……はい」
オレ達が素で力を振るうと、地上のバランスを崩す事になる。それを見極めた上での地上生活なのだ。
「地上に降りた先輩のお前に言う事じゃないが、万が一が無いか見極めろ。全部を庇っていい訳じゃないぞ」
オレの正論に納得は出来ないけれど、理解はしたのだろう、コクリと頷く。
「まあ、オレもまだまだだけどな。さあ、進もう」
灯りを前に飛ばし、シシリアの足元が暗くならないようにする。
てくてくと進んでいくと、大きな空間に出た。地底湖と言うやつで、高い天井に広い湖が広がっている。
警戒はしてみるが、セイレーンはいないようだ。
「ここが音の違う所か?」
「はい、空気が抜ける音がするんですよ。どこかに通じる中継地点だと思うっスよ」
うーん、道がいくつか有るな、どこへ行ったものか。
ここに来てからは、洞窟を通る音が笛のように鳴るのが聞こえて、俺にも分かる。
「流石に、これだけ音が交差していると……ん、何かが水から来ますね」
ざばんっ
水しぶきを上げて出て来たのはセイレーン……とは若干違い。肌の色がオレ達と同じような色だった。
肌がパールの粉をまぶしたようにキラキラと輝き、水で濡れているせいか水色の腰まで有る髪は体に張り付いていた。
「あら、道に迷われたお客様かしら」
前髪からぽたぽたと水を滴らせながら、岸に肘をつく。
「俺達はギルド……陸の人間からセイレーンが船を沈む事を何とかしてくれと頼まれた者だ。どうにかならないか?」
セイレーンは「うーん」と考え込む。
「ワタシはあなた達が言うセイレーンとは少し違うかな。外に出ているようなヤツは、悪霊に憑りつかれているの。私からしてみれば、別の状態というか」
セイレーンは一つ頷くと、水に潜ってしまった。
逃げられた!?
しばらく固まっていると、セイレーンが戻って来て、手に珠を持ってくる。
「はい」
「おわっ」
セイレーンは雑な動作で、珠を投げて来た。
「それは、セイレーンの狂った気持ちを鎮める、鎮魂歌の珠よ。アタシの宝物だけどあげるわ。洞窟の近くに置けば、船まで届くような位置に居るセイレーンは正気に戻る筈よ」
「あ、待ってくれ」
さっさと水に帰ろうとするセイレーンを引き留める。
「外に出る道を、教えてくれるだろうか」
「ああ。……あそこの一等暗い道よ」
また通り道っぽくない道か。急がば回れって事かな?
「有難う。じゃあ、行ってみるよ」
「ふふ、頑張ってねー」
軽い様子のセイレーンと別れ、言われた通りの道に進む。
「『ライト』」
大きな灯りを灯すと、シシリアと横並びになって洞窟を進む。
普通に歩いているだけなのに、横のシシリアから不穏な気配が漂ってきている。
「センパイ、人工呼吸しましたか?」
「そりゃ、呼吸止まってればするわな。ここでシシリアに天界に戻られて、オレだけパーティーに戻るのも後味悪すぎるだろ」
「そうですけど! うぅぅぅ!」
シシリアはジタバタしている。確かに女性には一大事だと思うが、緊急事態なのでノーカンにして欲しい。ここでオレが蒸し返すのも何か違うので、沈黙を貫く。
「センパイの、アホ、バカ!」
シシリアは、尚もボカボカとオレの背中を殴る。
痛い、痛い!
とにかく今は他のメンバーと合流する事が先だ。




