59 八本までって言ったじゃん
明日もお昼更新予定です。連休始まりましたね。
常春のこの国でも、昼は歩いていれば若干暑いし、朝方はやや冷える。
そんな朝早だが馬車便へ乗る事にした。出入り口まで直行して欲しいのだが、そこまでは言うまい。近くまで馬車が出ているだけで御の字だ。2日の歩く工程は寧ろ短いとも言える。
コンパスと買ってきた地図を駆使し、一晩の休憩をとりつつ洞窟前までやってきた。
『ライト』
試しに洞窟内を照らすと、「光喰いの洞窟」の名の通り、深い深い闇に支配されている。単純に「暗い」では無く「闇」なのだ。一人に一個ずつランタンを持たせておいて良かった。少し見失っても探すのが楽になる。
「朝まで休憩したら潜るぞ」
「あ。じゃあ、僕はキノコのスープでも作りますね」
折り畳み鍋にウィリスが水を張り、キノコと何やら顆粒の出汁を入れている。料理が出来るやつが居ると違うな。その代わりに荷物を持ったりフォローできる所はしているが……オレも塩コショウ以外の味付けは出来ないし、女子3人も似たようなものだ。
これはあれだ。救世主ってやつだな。
出来上がったスープをしみじみと味わい、目を瞑る。うーん、とろみがついて美味しい。
「アイクさんってお嫁に欲しいタイプだよね」
「えっ!?」
パティの発言にアイクがぎょっとしている。確かに料理が上手いのは、嫁でも婿でもポイント高いな。
これで他のメンバーが、食えればいいというだけなら良かったのだが、誰だって美味しい物の方が良いに決まっている。
「すごく、美味しいです……」
ウィリスにもじんわり効いているらしい。
シシリアにも、美味しい美味しいと絶賛しながら食べている。
その日はスープ+固形食糧で飯を済まし、寝る事にする。
結界を張ったので、悪意のある者は入れない。
つまりは安心である。仮にこの結界を敗れる者が居たとしたら、オレ達は即死だろう。その時は潔く諦めるしかない。
それぞれ地面に毛布を敷き、鞄を枕にして寝る。これ、未だに慣れないんだよね。みんなよく寝れる物だと感心するけど、皆、俺より冒険者稼業が長かった。
地面でもぐっすり眠れるようになりたいと思いつつ、無理矢理眠りにつく。
おはよう太陽。
こんな環境でも、時間通りに起きてしまうのが怖い。目覚ましもかけていないのに。腕時計を見て、時間を確認するが、やはり仕事で起きる時間に起きてる。
シシリアはと見れば、ぐっすりと眠っていた。こいつ強いな。
三十分くらいすると、皆それぞれ起きてきて、アイクと一緒に朝食の用意をする。朝食と言ってもお茶を淹れるくらいだが、何か有るのと無いのでは雲泥の差だ。オレンジピールが沈んだ紅茶は、体を温めてくれる。
「さて、今日入る洞窟だが、昨日見た通り、真っ暗もいい所だ。もしはぐれたらその場所から動かない事、カンテラは全員準備できてるか確認してくれ。あと、人との距離を離さない事。それだけは守れ。以上、突入!」
オレが灯り役の為に、先頭のパティと並び、列の中衛にウィリスとシシリア。コンパスを使いノートにマッピングしていくが、これが中々しんどい。坂が有ったり道が立体的に交差していたりと、マッピングに難航した。洞窟内を小川が流れていたりと、空気も湿っぽい。
出てくる敵も、巨大毒カエルや水蜘蛛などだ。
「結構歩いたな、少し休憩しよう」
一旦荷物は置いて、各自ビニールシートを出し座り込む。湿気っぽいので、火を出すのには向いていない。レモンティー飲みたかった……。
携帯食をもそもそ食べながら、辺りを見回す。オレの作り出した灯りに照らされる部分を見ると、鍾乳石が出来上がっている。せめて雫が降ってこない場所に腰を下ろした。確かに鍾乳石が無い場所も有るのだが、どれくらい先か分からない。道中の疲れを考えて、一度は休憩を挟んだ方がいい。
「センパイ」
シシリアが、チョイチョイと袖を引く。
「風の音が聞こえます。少なくとも湿気は少なそうだし、行ってみませんか?」
「そうだな、休んだら行ってみようか」
「シシリアにお任せですよ。でも、危ないから先頭には出ないので守ってくださいね」
物言いに若干呆れるが、中衛なのは間違い無いので後ろから指示してもらう方がいいだろう。
しかし、シシリアって耳がいいんだな。
それをシシリアに言うと、ふふふと不敵な笑いを浮かべて小声で言う。
「天界の人間ドッグで、猫並みと言われ……何か来るッスね」
オレはそれを聞いて、前方を睨みつける。確かに横を流れている川から「シュバババッ」と音がして、それがどんどん近づいて来る。「ザッパーン」と波が押し寄せると、タコが顔を出した。
全長は10メートルほどか。
「『サーチ』テン・オクトパス。弱点は雷です!! ……セネカさん?」
オレは指示をするどころか、パニくっていた。
「セネカさん、どうしたんです?」
アイクの質問に、ワナワナとしながら答える。
「だめだ、そいつ足が十本有る!」
あー……
全員のため息が聞こえた気がした。オレが行けるのは8本までって言っただろ!
「『ホーリー・リング!』『ホーリー・リング!』『ホーリー・リング!』!!」
「弱点もクソも無いわね……」
パティよ、アンデット相手の戦闘をしていた時の君と大差無いよ。お願いだから、自覚を持って欲しい。
いくつもの光の輪がタコに当たって、足が二本減る。
「ふー……」
オレが額の汗を拭っている時に、ようやく皆の呆れ顔に気付いた。……苦手な物は苦手なのだ。




