55 いつまでも待つから
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明日も昼更新です
「これは、すごいな……」
窓ガラスが割れているとか、壁が剥がされていると言った事は無いが、なにせ今は人が住んでいない。
玄関ホールに入っただけで、館の主が長い事不在な事を伝えてくる。
シャンデリアからは蜘蛛の巣が張られ、壁紙も浮いている場所が有る。屋敷自体の造りは元々良いだろうに、人が住んでいないだけでここまで有れるとはな。
毎日の掃除は肝心である。
最低限、埃から家具を守る為に、そこらじゅうの家具にシーツがかかっている。
街中は晴れていたのに、屋敷を中心に曇っているようなので、屋敷内も薄暗い。これでは、にっちもさちも行かないので、灯り魔法を唱えておく。
「『ライト』」
ポウ
灯りと言うには少々強いが、いつもより明るい方が良さそうだ。家具が沢山有るので、足元が不案内になってしまう。
「一階から順番に見ていくぞ」
厨房、リネン室、物置部屋、使用人エリア……。当時は使用人もかなりいたと思われる。この規模なら当たり前か。館は三階建て、部屋はざっと30程か。一階は使用人の領域なので、特に可笑しな所は無い。
一階は異常なし……と。
二階に上がると、図書室、美術室、医務室、執務室、客間など、生活以外の階層だ。
その階も一室ずつ見ていくが、特に異常なし。
三階の館の主人たちが使っていた階層に行こうとすると、階段を登る途中から空気が重苦しく変わってきた。視野も更に悪くなり、廊下の絵画がカタカタ震え、壁にある照明が点滅する。
……ドコカラキタ?
アナタジャナイ アナタジャナイ
ドウシテ ココニキタ?
カタカタカタカタ。
ガタガタガタガタッ。
揺れが大きくなった。
「きゃっ、なにこれ!?」
パティとウィリスが抱き合ってへたり込む。流石と言えば流石にアイクは、何かが出てきた時の為に剣を構えている。シシリアと言えば、変に冷めた目で辺りを見回していた。
あまりの揺れに絵画は傾き、天井がミシミシと音を立てた。
そして、点けてもいないのに、ランプから光の玉が躍った。
ナ ニ シ ニ キ タ ?
怒ったような音が響いて、こちらに怒りをぶつけてくる。
「お前らが屋敷に入って来た人間に悪さをしてるって話だから、様子を見に来た」
「セネカさん!?」
オレのダイレクトな物言いに、アイクがぎょっとする。
オマエタチ アルジ チガウ!!
その怒りと共に、窓ガラスが一斉に割れた。あーあ、直す時に大変だぞ、これ。
「まー、待て待て。オレ達はこの家を壊そうとか盗ろうとかしてない。原因を究明に来ただけ。遺産とかには興味が無い」
「セネカさん、何で普通に話してられるんですか……」
ウィリスの鼻はズビズビである。
ガラスの直撃は魔法によって防がれているが、屋敷の怒りは止まない。
ウ ソ ダ !!
ゴゴゴゴゴゴゴ
これは、相当に館に憑りついている者が怒っている。
「待てって。オレ達にはここの家族の血は流れて無いだろ? あと、ちゃんと管理人に正式に依頼されている。不当にこの家に害をなす気も無い」
………………………………。
長い沈黙の末、窓ガラスがカチャカチャと戻って行く。
「とりあえず、姿を見せてくれないか?」
…………………………。
少し待たされると、大小様々な、ぼんやりとした光の玉が、現れた。
「あれ、幽霊とかじゃないんですか?」
パティがウィリスと床で抱き合って言う。腰が抜けてしまったようだ。
「違う。物に人が憑りついたんじゃ無くて、霊が物に宿ったんだ」
「違い有るんですか?」
「全然違う。心残りのある人間が屋敷に閉じ込められているんじゃなくて、大事にされてきた屋敷のあちらこちらに霊が宿ってるんだ。どちらかと言えば、精霊に近い。
大事にしてくれていた主人の屋敷に土足で踏み込んでくる不埒者に、こいつらにしてみれば鉄槌を下しているんだ。主人が帰って来たら、きちんと生活できるように、屋敷の安全を守ってるってワケ」
「なるほど……」
アイクは頷くが、まだ剣を構えている。
その手を押さえ、オレは続けて宙に話しかける。
「屋敷の主は、事故で亡くなった。もうここへは帰って来ない。他の人間が管理するしかないんだ」
ウソ……ウソ……!!
光はぶるぶると震え、激しく点滅する、先ほどのように何かが壊れる事は無いが、空気が戦慄いている。
オマエモ ヤツラト オナジカ!!
影が「ぐおっ」と集まり、オレの喉に突き付けられる。しかし、オレには既にシールドが張られ、毛の先ほどの傷もつけようがない。
オレは槍の先に光を集めて、それを押し返す。
「無理矢理消してもいいが、屋敷を守ってきたお前らを消すのは忍びない。外に放って新しい家を探すか、ここで消えるか選べ」
空間がキィンと響くのが分かった。




