51 幕間
明日もお昼更新です。
最近の冒険で体力が付いてきているとは言え、まだまだ全盛期には程遠い。社畜時代に失った物は、多いのだ。体力が、その最たるものである。
昼食をとった後は、買ってきた新聞を読みながらベッドにごろごろとする。
新聞は、この辺りの情報を拾うのに、うってつけの物だ。
政治の問題や法律の記事。時事問題など。
「うー……ん、うん?」
その隅に、気付かない程小さな、尋ね人の欄の記事が有ったのだ。
『夕方の時計塔の下で、いつまでもあなたを待っています』
ストーカーじゃなければ、何故相手の家に行かないのであろうか。
もしくは、ギルドに依頼するなりしないか?
オレは、好奇心を刺激された。
時計塔に夕方に居るのなら、試しにギルドで依頼が出ていないか見てこよう。
休養の日としているのに何をやっているのかと思うが、社畜で培った休みと言う物は、人を落ち着かせなくさせるものだ。
ギルドに入って依頼ボードに目をやると、先ほどの新聞で見た、尋ね人の依頼が有った。依頼料はハッキリ言って安い。冒険者の収入にしてみたら、受けるやつはいないだろうな、という程度だ。
まあ、所詮は暇つぶしだ。
依頼書を見ていると、後ろからにょっと首が伸びてくる。
「セーンパイ、何見てるんですか?」
「うおわぅ!? シシリア!」
オレは驚いて一メートル後ずさった。
「そんなに驚く事ないじゃないですか?」
「休養日に、こんな所に居るとは思わないじゃないか?」
「それはお互い様ですけどね」
シシリアは、オレが見ていた依頼書を見ると「ふぅむ」と唸る。
「依頼者の名前がかすれてますね、古いのかも?」
「そんなに長い間解決しない依頼だったら、破棄されてそうなものだけどな」
「ま、面白いから受けてみましょう。すみませーん」
「おい!」
シシリアは、オレの返事も聞かずにカウンターに行ってしまう。
依頼書を見た受付嬢は、依頼書を見て胡乱な瞳で軽く睨む。
「これは……随分と古い依頼書ですね」
「え?」
「少なくとも私が処理した覚えは無いです。依頼ボードは、朝必ず全部チェックするのですが」
「センパイ、これやりましょうよ」
シシリアが、にへーっと悪い笑みを浮かべる。
「何で? 見物には来たけど、依頼受けようとか、そういうので来てないよ」
依頼ボードにへばりついたオレを、シシリアがひっぺがす。
「面白そうだからです。どうせセンパイだって手持無沙汰だったんでギルド来たんでしょ?」
そうだけどさぁ。
要するに、オレ達は休むのが下手になってるのだろう。オレは両手で腕を擦った。くわばら、くわばら。
「取り敢えず、依頼書の通りに時計塔に行くんで良いですよね?」
ここまで来たら仕方が無い。どうせ時計塔は遠くないし、依頼者が居るかもしれない。
てくてくと20分くらい歩くと、街の西の城壁に近い所に来る。
時計塔は高さが30メートルほど。まあ、大した高さでは無い。てっぺんに登れば辛うじて街全体が見えるか見えないかと言う程度だ。
時計塔の前は公園になっており、憩いの場となっている。時刻は丁度夕刻。
もし依頼者が居るとしたら、このくらいの時間だろう。
公園では少年たちがサッカーしたりしていたり、ベンチで老夫婦が和やかに話をしていたのだが、ちょっと暗くなっている時計の下を見てみると、十代後半~二十代前半程の女性が、静かにたたずんでいる。
オレ達は、その女性に話を聞く事にした。
まずは警戒されないように、同性であるシシリアに話を聞きに行ってもらった。
「すみません、私達ギルドでこの依頼を見て来たんですけど、あなたの事ですか?」
「依頼……あ、そうですね。私のです」
女性は低めの身長で、ハニーブラウンの髪を、三つ編みにして肩へ流している。寂し気なアイスブルーの瞳は、どこかぼんやりとしていた。長めのブルーグレーのワンピースがサラサラと風に舞っていた。
「依頼が出てたのがかなり前って聞いたんですけど、そんなに古い依頼なんですか?」
「古い……そうですね、古いかも知れません」
女性の話し方はどこか頼りなげで、危うげな雰囲気だ。ここは、オレも話に参加した方が良いか。
「新聞に依頼を出してたけど、相手はこの国に居るのか? 他所の国に出たりして新聞を見てない可能性は無いのか?」
「そうかも知れません。でも、私には待つしか出来ないので」
そこまで聞いて、オレは相手をよくよく見てみる。
「おい、シシリア」
オレは手招きをして、シシリアの耳に囁く。
「目を凝らして、その女性をよく見てみろ」
「んもー、何ですか……あれ?」
そう、人間なのは輪郭だけで、辛うじて形を保っている、天に還る事が出来なくなっている魂だ。
どうしたもんか。”あなた死んでますよ”などとは、デリカシーが無さ過ぎて口に出来ない。
オレとシシリアが頭を突き合わせて悩んでいると、そこへ男性が歩いてきた。
「すみません、そこの場所を譲っていただいていいですか」
男性は今、まさに女性がいる足元に花束を置いた。
「すみませんね。今日は俺の彼女が亡くなって10年で、どうしてもここに来たかったんです。よく待ち合わせをしていたここに」
男性は一息に言う。
「10年……10年前に時計塔の事故が有りましてね、彼女が下敷きになったんです。それからずっと泣き暮らしてて……でも、来るのが怖くて。10年経ったので、ようやく思い出に変えようと思ったんです」
女性はここに確かに居るのに、男性には見えていない。魂だけで実態が無いのだから。オレとシシリアは静かに聞いていた。
「すみません、見ず知らずの方々に。何か、人に話したかったみたいです」
男性はそれだけ言うと、街の方へ戻って行った。
女性の方はと見ると、儚げに笑っていた。
「ふふ。10年も引きずるなんて、優しい人」
それに対して、シシリアは首を傾げる。
「それでも、引きずって欲しかったんでしょ?」
女性は目を瞑って噛みしめるように言葉を紡ぐ。
「そうですね。あの人の傷になっても、覚えていてもらいたかったのかも知れません」
魂だけなのに、ワンピースの裾がひらひらと舞う。
「私も、もう行かなきゃですね」
女性は、幸せそうに笑うと光となって消えた。
「天に還ったな」
「良かったですねえ、仕事以外で魂と関わる事あんまり無かったんですけど」
「解決したから帰るか」
オレがぐいーっと伸びをすると、シシリアが「あ」と言う。
「結局、依頼を出したのって、どうやったんでしょうね」
「………………………………」
オレはその問いに対する答えを持ち合わせていなかった。
夢咲って実はバッド物が好きなのか?と悩んだ話です。




