49 夜に紛れて
明日もお昼更新です。
次の朝、馬車乗り場で集合すると、女子達は、それはもうニコニコ顔であった。
馬車の中はオレ達しか居ないので、シシリアが席に着くや否や、紙袋をガサガサしだす。
「じゃん! どうですか、これ。可愛いでしょ?」
それは全体的に淡い蒼色で、フードの付いた長袖のケープであった。洋服の部分も白いシャツは大きめであり、肌を隠せるだろう。パンツが同じく淡い蒼色で、靴は長靴を用意されてた。
ボロボロの、元は白であっただろうワンピースに、裸足だったあの時からは、想像も出来ないくらい程に奇麗になる筈だ。
「髪を切る用の挟みも準備してきました……」
ウィリスがニッコリと鋏を持って笑う。最近ウィリスはバイオレンスなイメージが付いてしまったので、刃物を持たないで欲しい。
そして三人は、さっとクッションを出してそれに尻を乗せた。あっちに行ったら、ほぼとんぼ返りだからね。今回は必要な装備だったのだろう。
そして、途中で山賊に襲われてウィリスが血祭りにあげた以外はスムーズに着いた。
ここからは前の村に寄らずに、例の石造りの建物に直行する。
既に鍵の壊れた建物に入ると、前に会った時よりも若干顔色が良くなった少年が居た。
「お兄ちゃん! ちゃんと来てくれたんだね!」
「おー、男に二言は無いぞ」
さて、問題のカギだが。まずは魔法で作られた術式を解除しなければいけない。これはいくら何でも魔法を使わないと無理だな。
「コンセレーション」
魔法の式がパキッとした音がして砕ける。
ガラスが砕け散ったかのように、光がホロホロと散った。
問題の物理の方の鍵なのだが、散々考えて、いかにもなアンティーク調の鍵を買ってきた。流石にこれを針金一本で開錠させたと誤魔化せはしないだろう。
鍵を差し込むと、案の定引っ掛かって、それ以上は進まない。
『アンロック』
オレはコッソリと唱える。
カチャリ
鍵はあっさりと開く。
「え、今の鍵なんですか。こんなに丈夫な錠前で、誂えてもいないのに開くなんて」
アイクの質問に、更に嘘を重ねる。苦しい! 何でこんなに嘘を重ねなきゃいけないんだ。
「ふふふ、一回きりのアーティファクトだ」
「はえー、すごいんですねぇ」
パティに、用意してきた言い訳をする。
ボロっ
あんなに丈夫な錠前が、役目を終えたとばかりに、土になって崩れて行った。これはただの鍵じゃない。本当にこんな田舎に住んでいる者が使える物なんだろうか。
扉をガチャリと開けて、ウィリスが中へ入った。
立ちすくんだままの少年に、ウィリスが腰を落とすと目線を合わせて言う。
「鍵は開いたから、もう出られるんだよ。良かったねぇ」
まだ呆然としていたが、その兎のような赤い瞳に、みるみると涙が貯まっていく。
声を出さないように耐えているが、しゃくりあげるのは止まらない。ウィリスは抱き寄せて、そっと背中をゆるやかなリズムで叩き始めた。
20分程経って、ようやくスンスンと鼻を鳴らすまでに落ち着いた少年は、鼻も赤くなっていた。
ちなみにウィリスの服はべっちゃりであるが、仕方無いね。後でクリーンしてあげよう。
太陽が傾く頃に、ようやく母親が来た。多分、このくらいの時間でなければ、村を抜け出せないのだろう。
檻の錠が外れているのを見て、口をわななかせた後に、体を九の字に曲げる。
「あ、有難うございます、有難うございます……!」
母親が号泣しだすと、少年が母親の所へ走って行く。
「お母さん、僕出れた! 出れたんだよ!!」
「ふふふ、本当に良かったわね」
母親は涙を流して、鼻声のまま、抱きしめた少年へ笑いかけていた。
「感動の御対面な所に水を差しちゃうけど、この子の髪って切って平気ですか? 長いと、どうしても目立っちゃうし、オーソドックスな茶色の染料も持ってきたから、水の有るところで染めちゃいたいんです」
オレ達が決めてきた事を、シシリアが代表して言う。
「はい、目立たないのでしたら、何でも……」
母親が少年を抱っこすると、胸に顔をうずめた。今までは抱っこ出来る環境ですら無かったから、その時間を今からでも取り戻して行けばいいだろう。染料で新しい服が染まるのは困るので、全員で近くの川に移動すると、まずは石鹸で髪を洗って、梳いていく。ろくに髪の手入れもされていなかったらしく、櫛の通りも悪い。それを、何度も何度も丁寧に母親は塊を解していく。
ウィリスの風魔法で髪の毛を乾かしてから、ショートカットに切って行く。80センチほども切っていたので、今までどれだけ切る事が出来なかったかは、可哀想で考えたくない。
切った髪は残しておくわけにいかないので土に埋め、次は染料を付けながら櫛で梳いて、時間を置いて洗い流した。
元々髪に色が付いていなかったので、暗めの茶色とシシリアは言っていたのだが、明るめの茶色になってしまったな。それでも、このくらいなら、そこら中に居るような髪の色なので、紛れ込みやすいだろう。
更に髪の毛を乾かして服を着せると、どこにでも居る、可愛らしい子供になった。環境的に年齢より華奢に見えるが、小柄だと言えば、誤魔化せるだろう。
これで日の出を待って馬車に乗り、街へ脱出だ。
これからの人生は、楽しい事ばかりになって欲しい。




