46 UN〇!
前日にたっぷり体を休め、調査の為に、陽が暮れてから山小屋が有ると言われた辺りに行く。本来は木こりの斧や薪の準備をするものと、簡易的な毛布などの、緊急避難場所としても使われる小屋だそうだ。
依頼が有ってからは、陽の高い内にしか小屋は使われていないらしい。
「それじゃあ、声が聞こえるまで、ここで待機だな」
「はーい」
シシリアが元気に返事をしたかと思うと、何故か荷物をごそごそと漁りだした。
「じゃん!長期戦になった時の為に、カードゲーム持ってきました!」
カードを掲げ、楽しそうに言う。
「ホラ、UN〇持ってきたんです!5人いれば、かなり楽しめると思いますよ」
「自分、何しに来たん……」
「それ、私弱いからイヤ……」
「ままま、ウィリスもとりあえずやろうよ、アイクさん、意外に弱いかも知れないし!」
「いや、僕は強いですよ」
オレ以外は、やる気満々だ。ついていけないわぁ。
……仕方ない。
「やるなら静かにな。オレは外で、呪詛聞こえるか待ってるから」
他の人は遊んでいても、オレまで依頼を適当にする訳にいかない。逆に言うと、全員で番をする必要も無い。昼には聞こえないと言う話なのだから、昼間は寝ていても良いという事だ。
別に夜に起きていて昼に寝ていれば済む話なのだ。
「ふー」
一人で小屋の外へ出ると、外は暗闇。星だけが輝いていた。
延々魔法を使っているのも何なので、カンテラを持ち、薪を割るのに使う大きな切り株の上に座る。
小屋の中のUN〇の声以外は、虫の鳴き声さえ聞こえない。
ぼんやりと小屋の中の声を聞いていると虚無ってしまい、軽く小一時間くらい経っていた。
はっと気付くと、かすかに人が呻くような声が聞こえた。
これが呪詛と言われる物だろうか。
オレが小屋の中に入ると、小声ながらも勝負は佳境に入っていたようだった。歩調一致でカードをやりとりしていた動きがピタリと止まった。
「……もう、外に出るぞ」
オレの呆れに気付いたのか、各々、そそくさとカードを脇に揃えて置いていた。
小屋を出て、まず一番にシシリアが小声で言う。
「わ、本当に何か聞こえますね。早く行ってみましょう」
切れ切れに聞こえる、小さな呟き。ともすれば途切れてしまいそうだった。道は獣道に近いが、全く人が通らなかったという感じでは無い。
少なくとも一週間以内には誰かが通っている。
誰かの軌跡が残っているという事は、人間が通っている事になる。
声が聞こえ始めてから30分、足元が悪く疲れてきたところで、石造りの小さな小屋に行き当たった。
低い呻くような声は、ここから漏れ出ている。
「静かにしてくれ」
オレが小声で言うと、全員が静かに頷く。
小屋には木の扉が付いており、粗末な鍵が付いている。この程度なら『アンロック』を使うまでも無い。槍の切っ先を鍵穴に向けて突くと、アッサリと鍵が壊れた。
問題視されている割には脆弱な鍵だ。中から何かが出てしまうかも知れないのに、こんなにお粗末な鍵でいいのだろうか。
鍵を壊したところで、呪詛はピタリと止んだ。少なくとも、「音がした」という事によって自分が出すのを止めると言う知性が有るのかも知れない。
後ろに合図を送ると、ドアの中へ入る。
「誰……?」
そこには、やせ細った女の子が居た。年の頃は7歳程か。ベッドに乗って窓から外を見ていたらしいが、こちらを振り返る時に、長い髪がぱさりと宙を舞った。
部屋の中には鉄格子が有り、少女はそこに閉じ込められている。この檻には外の杜撰な鍵とは比べ物にならないくらいの強力な鍵がしてあった。物理の鍵の他に、魔力でロックしてある。
これなら小屋の外の鍵が適当なのも納得だ。この頑丈な檻には大抵の人間は手が出せないだろう。
「オレ達は村の人から、毎日声が聞こえて怖いから調べてくるように言われたんだけど、君は知ってる?」
少女を刺激しないように「呪詛」という言葉は使わなかった。しかし、オレの言葉を聞いて、少女がサーッと青ざめる。
「…………なの」
「ん?」
「……なの」
「え?」
「お歌なの!!」
なのー!
なのー……
のー……
歌……って歌? あの呪詛のような物が?
もしかして:音痴
あまりのショックに硬直してしまったが、それだけなら、こんな場所に閉じ込められている説明にはならない。オレはあくまでも、優しく聞こえるように接する。
「どうして、こんな所に居るの?」
それを聞いて、少女の細い肩がビクリと震えた。




