39 わんわん大戦争
その後も狭い吹きっ晒しの細い外周や、途切れた階段を伝いながら、上に登って行くと、頂上らしき部屋に辿り着く。
シシリアが勢いそのままに扉を開けようとするが、止める。
「待った!」
「え?」
「また敵が居たら、今の消耗した俺達じゃ倒せないかも知れないぞ」
「ん~~、レベル上がってても無理ですか?」
「ダメだ」
只今のレベル、アイク17 シシリア達16、オレ15だ。レベルだけ見たら踏破のレベルに問題無いように見えるが、如何せん、基本的に階段などを昇って移動しているので、皆は太ももがパンパンだ。ヒールで癒してもいいのだが、そのまま突撃するにしても、全く疲れないようだとおかしいだろう。
しかし、レベル上げを兼ねていたとは言え、かなり上がったな。それに準じて皆も何かボロボロだが。
「取り敢えずヒールだけはかけておくから、後は休憩だ。『ヒール』」
「ほわ~、疲れた体に効きますね」
パティが、温泉に浸かったかのような声を出している。
「僕も、ここまで効くヒール浴びたのは初めてです」
「そ、そうか?」
手加減したつもりなのだが、効きすぎたのだろうか。
休憩の間にそれぞれウィリスに水魔法でタオルを濡らしてもらい、埃を落とす。魔法使いの居ないパーティだと出来ない事なので、贅沢と言えるだろう。
そして、怪しい部屋に突入する前に喉を潤しておく。
30分程休憩すると、声を掛ける。
「そろそろ行けるか?」
全員が頷く。
先にガードを掛けておいて、アイクを先頭にして部屋に入る。そこには何某かの豪華な装丁の箱を前にして、犬……というか、巨大な黒い番犬が居た。高さは3メートルこれは後ろの箱にも期待出来ると言う物だ。
「ウィリス、サーチ」
もうこちらも慣れたもので、オレの号令と同時に詠唱が終わっている。
「『サーチ』! 【ダークハンド】耐火 弱点、氷です!」
これにも瞬時に反応し、武器に付与魔法をしていく。
まず、シシリアがダークハウンドの目を狙う。それはうるさそうに首を振っただけで避けられてしまい、ダメージを与える事は出来なかった。しかし、それはフェイクで、アイクが足を狙って切り込みに行き、パティもそれに続く。
足を狙ったからと、すんなりダメージが通る訳は無い。なにせこの巨体だ、倒すのに時間もかかるだろう。
切りつけた後に離脱する二人に合わせて、オレはすぐに魔法の準備をする。
「『ホーリー・リング』」
詠唱と共に、背面に無数に弾を出現させ、横殴りの雨のように降り注がせる。
上から大きな力が降り注いで、流石のダークハウンドもたまらなかったらしい。たたらを踏ませる事に成功した。
「『瞬速』」
シシリアが三本の矢を、間を置かずに連射する。矢が通り過ぎた後に「ピィン」と音がする。シシリアの、音をも置いて行く技の名前の由来だ。流石にこうなると、全部避けるという事も出来ずに、瞼を傷つけたらしく「ギャンッ」と鳴く。
その視野が悪くなった所へ、すかさずウィリスが氷魔法を放って、右前足を凍り付かせることに成功した。ダークハウンドは何とか逃れようと体を後ろにぐいぐい引っ張って反対の手で削ろうとするが、中々削ることが出来ずに焦っている。
そこをパティとアイクが首を狙うが、そうするにはハウンドの方があまりに大きかった。
首まで凍らせることが出来ればいいのだが、今のウィリスには足一本で目一杯だろう。
うーん
オレが頭を悩ませていると、ハウンドが攻撃の合間合間にオレをチラチラと見ている事に気付いた。やだな、美味しそうとか思っているんだろうか。男だし美味しくないぞ。
いや、それよりは………
「シシリア、そこのドアを大きく開けろ」
「えぇ!? 既に全開ですが?」
「じゃあ、アイクに頼んで崩れた所を広げろ。パティ、5分だけ耐えろ」
「分かり、まし、た!」
ハウンドの足が凍ったとて、こちらへの攻撃が丸々無くなった訳では無い。それを一人で受けろと言うのは酷な話ではあるが。今はこちらの方が先だ。
「えい! 固いな! 本当に、なんでですか!?」
アイクは、オレの無茶ぶりに若干いつもの丁寧口調が抜けている。
「オレの予想が当たれば、万事オッケーだ」
「……外れたら?」
「死ぬ」
「えっ」と呆然としながらも手は動いていた。出入り口を大きくしない事には仕方ないのだ。四苦八苦して元々ぼろかった壁が半分崩れ。若干部屋のドアの辺りが脆くなる。
ーーーーーーーそろそろ約束の五分か。




