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38 マガ・スパイダー

「ふんふふ~ん、ふんふふ~ん」


 シシリアが鼻歌を歌いながら後ろから着いてくる。ここは一応ダンジョンなんだがなあ。敵がおびき寄せられてこないことを願う。かなりの階層を昇って来たので終わりが近そうで、機嫌が良いのだろう。


 ここまで来たのは良いが、”何か良い”ドロップがどこで落ちるかも分からないのだ。ここまでの道筋でも、これと言った収穫は無い。


 ともかく、何が楽しいのかというシシリア以外は、もくもくと歩く。ここまでの道程で結構疲労している。少々休みたい所だが……。


「あ、扉みーっけ。開けますねー」


「おいっ!」


 オレの返事を待たずして、シシリアはドアを開けてしまう。そうしてドアに入ってしまった。慌ててオレも続くが、その部屋の主を見た。ーーーー見てしまった。


 熊程の大きな蜘蛛を。そいつは紫の胴体に禍々しい目のような模様が三つ付いていて、部屋に巣を作っていた。



「うわー!! 『ホーリーバレッド』! 『ホーリーバレッド』!! 『ホーリーバレッド』!!!」



「センパイ! 蜘蛛ですよ、蜘蛛! 足が8本までは大丈夫って言ってたじゃないですか。しかも、当たってません」


「ばっか、良く見ろ! 大きい足の隙間に二対生えてるじゃないか! 足は12本だわ!!」


「些事じゃないですか!」


「些事なワケないだろ!!」


 シシリアは3メートル後ずさったオレに反して皆に号令を出す。


「ウィリス、サーチして」


「うん『サーチ』! レベル16、マガ・スパイダー。弱点は……すみません、分かりません」


 ウィリスのレベルの方が低くて、弾かれたか。


「オレは今回は前線に出れん、指示だけ出す」


『サーチ』

 

 オレはこっそり魔法を使った。初級魔法だが、オレの方が強いのだから訳も無い。さっきはビビっただけである。しかし、前にはとてもではないが出たくもないが。


「頭と胴体の隙間を狙え」


 オレが言うと、パティが不思議そうな声を出す。


「え?頭とか胴体の目みたいな部分を狙えば良いんじゃないですか?」


「そんな簡単に、自分の弱点を晒す訳無いだろ」


「なるほど」


 なるほどと言いつつも、怪訝な様子でパティは剣を構え直す。


「昆虫っぽいから火の魔法で行こう。最悪でも巣が燃やせる」


 オレは後ろから目を逸らしながら指令を出す事にした。 


「一歩離れて下さい、『ファイヤー』!」


 ギィヨェェェェェ!


 蜘蛛は頭よりやや後ろに魔法が当たり、金属を引っ掻いたような悲鳴を上げた。


 ウィリスは続いて火魔法を武器に付与し、後方に下がる。パティとアイクは巣に切り込み、スパイダーの体を守る糸を焼き切って、その体が丸裸にした。そこへシシリアが胴体の隙間に矢を連射して次々に命中させていく。


 それだけでかなりのダメージが有ったのかと思ったが、マガ・スパーダーは怒りながらも、威嚇しながらこちらを威嚇している。思ったより、傷が浅かったか。


 フシュと音をさせると糸を吐き、前衛二人を絡めとる。人質を取られたら、こちらは身動きが取れなくなる。何より、大切な前衛だ。こちらから威嚇する事も連携する事も出来なくなった。


 これはやむを得ない。近づきたくはない……近づきたくは無いが。


 槍を構え、着実に弱点を見据える。撃つ寸前に目を瞑り、せめて見ないようにする。

 ぷつっと糸を切るような弾ける音がして、マガ・スパイダーは緑の体液をまき散らしながら足をジタバタとさせだす。その隙にアイクを助け出し、アイクにパティの糸を切らせた。


 オレはそれが終わると、さっさと後ろに下がる。これ以上近くに居てたまるか。


 暴れているマガ・スパイダーの頭と胴体の繋ぎ目に、二人が今度こそ差し込むように剣に体重を乗せる。


 ギュブッ


 今度は鳴き声を上げたが、途中から口の中から体液を吐きだし始めた。動きが鈍くなった所を返す刀で足を切り落とす。


「センパイ、足が8本以下になりましたよ!」


「くそ! ホーリー・リング!!」


 聖なる輪は軌跡を描いて剣で切り込みを入れた所へ差し込まれる。


 スパイダーは最後のあがきか、やたらと糸を吐いたが、やがて動かなくなった。


「あ、蜘蛛の巣の裏に、何か有ります」


 剣で蜘蛛の巣を切りながらアイクが進む。

 ーーーー剣の切れ味悪くなったりせんか?


 出て来たのは、槍で、十文字槍と言う、いわゆる先が十字型になっている槍であった。


「サーチしてみますね。『サーチ』【瑠璃十文字】レベル20、槍の部分が十文字になってるだけあって、切った場合も剣のようにダメージを与えられるみたいですね」


 ウィリスは「今度はサーチが弾かれなくて良かったです」と胸をなでおろしている。マガ・スパイダーの時に魔法が弾かれたからな。


 そんな様子のウィリスを他所に、槍を見ているオレの後ろから、シシリアがヒョイと覗き込んでくる。


「珍しくセンパイの武器が出ましたねー。この調子で、もう一個くらい何か持ち帰りたいもんですね」


 シシリアは腕を組んで、ニヤッとこちらを見て笑った。

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