36 おやすみ3秒
ダーク・リザードを倒した後に隣の部屋へと出ると、塔の外周に出た。壁も無く、強い風が髪を攫って行く。中々のスリルだ。高所恐怖症だったら卒倒しそうな高さだな。
現在の階層は3階と言ったところか。だからと言って民家の基準とは違うので、相当な高さだ。しかし、階層が迷路での目安になるかもな。
壁伝いに歩いて行けば、部屋に入る出入口が見えるのでそこへ入ると、このダンジョンに来た時のような、クラリとした目眩を覚える。これは、別の部屋に飛ばされたな。
小窓から見ると、おそらく2階ほどの高さに下がったようだ。瓦礫の様子から見ると、今まで来た部屋ではない。
うーん、マッピングも苦労するな。しかし何回か同じ階層を歩けば、地図も完成していくだろう。……気の遠くなるような話では有るが。これで実の有るような物が拾えなければ虚しいなぁ。まあ、ダンジョンに入ったからって、必ずしも良い物が出るとは限らないか。
移動させられた部屋の裏から階段が伸びているのが見えたので、そこへ向かう。もう足がぱんぱんである。誰か休憩って言いださないかな……オレから言うのは、恥ずかしいじゃん。
後ろを見ると、ウィリスの息が切れていた。オレは、申し訳ないながらも胸をなでおろし、提案をする。
「階段を登り切ったら小休憩しよう。オレも疲れたし」
オレが言うと、ウィリス以外もホッとした表情をしていた。他の人も疲れてるのにオレが気づかないなんて、司令塔失格だ。自分の体力もだが、パーティー全体の体力を考えないと戦闘で力を発揮できない。オレが一番体力が無いと思ったのだが。
長い階段を登り切り上の階に着くと、程々の広さの部屋であった。他に出入り口もあり、他所の部屋に繋がっているので、ここからまた他の場所に行けそうだし中継地点としても良い。
それぞれ腰を下ろし、足をマッサージしながら飲み物を飲む。
「この先どうなるか分からないから、先に食事にしておこう」
オレはそう言うと、個人に飴を配る。
「疲れには、甘いものが効くって言うからな」
「セネカさん、お母さんみたいです……」
ウィリスがそう言うと、何故か一同がほんわかした空気が広がる。オレはお母さんじゃない。
固形食糧を食べながらマップを見て、通路から見える隙間から高さを計算し、紙を埋めていく。
「今日は、ここまでにしません?階段だらけは、きついですよ。先に進んだか戻ってるかも分かりにくいですし」
「そうだな。結構歩いたし、早目に休んでおこう。スープ準備するから、それを飲んだら就寝準備しようか」
各々個人用簡易テントを立ててから、焚火の方へ集まる。
ウィリスが小さい魔法を使って焚火のに火を点けてくれるので、便利だ。オレが火魔法使ってたらクレリックとしては怪しまれるから。使えるのに使えないフリと言うのは、裏切っているみたいで後ろめたい。
シシリアはこんな事を20年続けているのか。オレも武器だけにしておけば良かったかなー。まあ、届け出を出してしまったのだから後の祭りだ。気を付けて上手くやるしかない。
焚火をつつきつつ、お互いに乾燥した野菜などを投げ込んでスープを作る。このパーティーには特に料理上手が居る訳では無いので、普通に塩と胡椒で味を調えるだけだ。それでも具が入って暖かければ、少しはお腹も膨れると言う物だろう。
マグカップを持ち寄りより一杯ずつ飲む。これで少しは携帯食も食べれなくも無い……程度にはなった。カロリー重視なので、もちゃっとしていて、口の中がすっきりしない。食の改革が待たれる。
「じゃあ、今日も火の番をして明日も探索するかー」
鍋を水で洗ってもらって、畳んで鞄に仕舞う。折り畳み式の鍋って便利だね。水が有るからこそ使える訳だけど。
今日は、パティが一番最初に火の番をすることになっているのだ。
大抵パティとウィリスが一番眠れる最初か最後に番をし、間のオレ達は適当に決めている。
「おやすみなさーい」
パティが焚火をつつきながら手を振る。オレ達は個人テントに入ると、素早く寝る態勢に入る。社畜時代の特技のたまもので、おやすみ三秒で寝入ることが出来る。あの時はデスクの椅子を並べて台にするという悲しいベッドで眠りに就いていた。宿屋の固いベッドと比べても、どっこいどっこいだ。
「セネカさん、交代時間ですよー?」
そうして、体感10分で交代時間になって、パティーが軽くテントを揺さぶってくる。起きる時間は体が覚えているのだが、交代の番となるとなー。本当なら朝まで寝たくはある。冒険中は無理な話だけど。
「すごい早く寝入ってましたね?」
「早寝早起きが、体に沁み込んでるからな」
「すごいですね。まだ冒険者になってから三か月も経ってないのに、体壊してないですし」
「そうだな。徹夜には慣れているというか」
「良くないですよー、そういうの! 火の番を短くしてもらってる私達が言うのも何ですけど」
パティは、プンプンしてたかと思えば、ふと表情を和らげる。
「でも、セネカさんとアイクさんが入ってくれたから遠出が出来るようになったんですけどね」
ふへへっと笑う。
「とにかく、感謝してますということで!」
それだけ言うと、パティはさっさとテントに入って行った。




