30 新人歓迎したい
明日もお昼目安です。
「じゃあ、慣らしついでに、どこか行きましょうか。最近、人気のダンジョンが有るんです!」
シシリアが手を叩きながら、弾んだ声で言う。
人気のダンジョンって何だ。
「そういう場所って、混んでるものじゃないんですか?」
アイクが眉根を寄らせて言う。
確かに、混んでいたら競争率も上がるし、宝箱やドロップアイテムも減るんじゃないか?
「それが、ダンジョンが人を飲み込んで、他のパーティーとぶつからないらしいんですよ!」
「そ、そんな怖いとこ行きたくないよ……」
ウィリスがオロオロしながら言うが、無理からぬ事である。
「そもそも飲み込まれたなら、その後の消息とか分からないだろうし、どうやってそんな事が分かるの?」
パティがストローでレモンティーをかき回し、氷をカロンカロンさせながら言う。
「それが、帰って来てるパーティーも居るんだー。しかも、結構良いアイテムとか、装備を手に入れて!」
『うさんくさい』シシリア以外の全員が、そう思っているだろう。
「それって帰ってこれるのか?」
「え、分からないですけど」
オレの質問に、シシリアがケロリとして答える。
「分からない場所に、仲間を連れて行こうとするなよ……」
オレのボヤキは、シシリアに黙殺されてしまった。
「でもでもー、美味しいらしいんですもん。行くしかないでしょ!」
強引で自己完結するのは、シシリアの悪い癖だ。
「とにかく、行くにしても、せめて情報くらい集めてくれ。仲間の命がかかっているんだぞ」
「はーい! ギルドで噂を超集めてきますね!!」
シシリアはそう言って、風のように去って行った。
「あの、彼女っていつもあんな風なんですか?」
アイクが不安げにしている。不安はごもっともである。
「思い込みが強い所が有るけど、一応腕は立つから、そこまで心配しなくていいよ」
シシリアに目を付けられたのが運の尽き。どういう過程で声を掛けられたのかは知らないが、まさか、ここまで押しが強いとは思わなかったのだろう。
ここに連れて来たのも、口先でまるめこまれたのに違いない。
その後、夕方待ったのだがシシリアは戻ってこなかった。あいつの事だから、片っ端から人を捕まえたりしているのだろう。分別くらいは有ると思いたいが、さて。
17時に一応解散という事になって、オレとアイクは宿から出る。シシリアの居る宿屋からは正反対だったので、アイクの宿屋の名前だけ頭に入れて別れた。
オレは帰り道に魚のフリットと箱に入ったペスカトーレを買い、自分の部屋に戻る。果実酒も忘れない。今日は帰ったばかりなのに、いきなりシシリアに拉致られたので、まともな飯を食っていなかった。だが、飯を食う前に小奇麗にせんとな。体にクリーン魔法をかけつつ更に手をおしぼりで拭く。
白身魚のフリットにナイフを入れると、『サクッ』っと衣が音を立てて、口の中に入れるとジュワリと魚の美味さと爽やかなレモンが香る。疲れた体に酸味が効くな。
サクサクとフリットを食べつつ、魚介の入ったトマトソースのパスタ、ペスカトーレを食べる。くるくるとフォークに巻き、大きな口をあけてバクリと食べると、トマトの風味が口いっぱいに広がった。まことに美味い!!
果実酒を飲みつつご飯を食べていると、あっと言う間に腹に消えて行った。
何でご飯って食っちゃうと無くなっちゃうんだろ言うね。当たり前だけど。
オレは食べた後のゴミを纏めると、寝る準備を始める。上着を脱いで楽な格好になると、布団に潜り込んだ。既に自分の家感が有るな。この宿は、更に一か月更新しよう。
相変わらず毎日同じ時間に目が覚め、体を軽くほぐす。流石のシシリアも今日は来ないだろう。ダンジョンから帰ったばかりのオレを労わって欲しい。
一階に降りて、生ハムとモツァレラのチーズのバゲットサンドをコーヒーでもぐもぐとゆっくりと咀嚼して、のんびりとして平和な朝を満喫する。
そんなのんびりとしたオレの平和な朝の静けさを、乱す声が入り口からやって来た。
「センパイ、センパイ、センパーイ! 調べてきましたよ!」
朝の爽やかさが、一瞬で台無しになった。
「明日にしてくれ。今日はもう出ない」
「あ、そういえば、昨日帰って来たんですよね。まだアイクさんに声掛けて無いし、やっぱり、明日集合にします!」
じゃ! と手を掲げ、入って来た騒がしさそのままに嵐のように出て行く。
「何なん、あの子……」
オレの口からは、そんな言葉が漏れた。
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