3 とりあえず出発
次にお昼に来ます
試験を受けて合格した後、仕事の引継ぎをしてから三日後、いざ準備をして上司との待ち合わせ場所に行くと、こちらに気付いた上司が、吸っていた煙草を携帯灰皿にぐっと押し付けて消す。
「おー、来たね。時間10分前。いやー、感心、感心」
ここは天界の出入り口で、地上へはここからでしか出入り出来ない。門番が扉の前に居て、厳格に管理をしているのだ。
「これ、地上の貨幣ね。贅沢しなければ、約一ヶ月分くらい有るよ。後は、働いて現地調達するように。それとコレ」
上司は洋服を持ってきて、こちらにズイと渡してくる。
「コレは?」
「地上の一般人の服ね。これで、一般市民に化けられるよ。天界の服じゃ地上の民に怪しまれちゃうでしょ」
「化けられる、って」
オレは渡された洋服に物陰でさっさと着替える。
「さ、準備は出来たね。君は地上の様子をよく見ていたし、何とかなるでしょ!」
上司は、バシバシとオレの背中を叩く。
痛い痛い!
「さあ、ここの扉を通って。街の近くに降ろすからね、僕は心配してないよ。じゃあ、よき休暇を」
扉ををくぐると、足を滑らせたかのような、ぐおっと落下している感覚がする。天界って物理で上に有る訳じゃないだろ!? 地面にぶつかる! と受け身を取ろうとしたところで、ふわりと着地した。
「過去イチ驚いたわ……」
キョロキョロと辺りを見ると、近くに湖が有ったので水面を覗いてみる。
「ふむ……」
プラチナの髪にエメラルドの瞳。元々の、角度によって違う色を見せる天使の目の色は、隠されているようだ。
プラチナと言うのは少々珍しくは有るが、人間に無い色では無いので、紛れる事は問題無いだろう。
髪は、元々の肩近くの長さで一つ結びのままだ。バカンス前に散髪に行っておくべきだった……。
「さてと」
立ち上がると、眼下に広がる大きな街を見下ろす。
「あの街に入れば良いんだな」
オレは、横に落ちていた荷物に付いた土をぽんぽんと払い、肩に担いだ。
門へ向かうと、列が出来ていて、門番に金を払っている。これはマニュアルで見た、「街へ入る為の税金」というやつだろう。門番に、銀貨一枚を払う。これは、庶民の4人家族が半月ほど暮らせる額らしい。
手渡された金額から言うと、中々の出費である。あまりに安いと、誰でも入る事が出来るようになって犯罪率が上がるらしい。逆に街を出るのはタダなので、そちらは取り締まりも緩い。
身分証も無いので、どうやら高めに取られたらしい。身分証が有ったのなら少し安く入れたらしいが、仕方ないか。
そして、まずは今夜の宿を決める。地上での初宿泊だ!オレは露店のパン屋や果物屋などで商品を買いながら聞き込みをする。何軒か聞いて回って、一番評判が良い宿に決める。オレは店のドアを開けて、大きな声で言う。
こういう所は粗野な人間も多いと聞くし、舐められたら終わりだから、ぶっきらぼうな話し方でいいだろう。
「おかみさん、今夜は部屋泊まれるか?」
「いらっしゃいませ、二階の突き当りの部屋なら空いてますよ。一晩銅貨50枚ね」
「じゃあ、とりあえず一週間頼む」
今のやり取りで、おかしい所は無かっただろうか。周りを目だけで見まわすと、こちらに注意を向けている人間は居なかったので、オレの態度に不審な所は無かったらしいと安心する。
上司には心配していないと言われたが、流石に画面を挟んで見るのと現地に行くのとは、訳が違う。
「ふぅー」
鍵を貰って二階へ上がり、言われた部屋を開けてサイドテーブルに荷物を乗せる。
どさりと体を預けると、ベッドがギシッと悲鳴を上げた。
「固い……」
生活レベルが違うのは分かっていたので、こればっかりは慣れるしかない。天井を見ながら、これからの事を考える。
オレが就こうと思った職業は、「冒険者」。
一つ所に留まらず、街から街へ、国から国へと旅をする。もちろん、気に入ったら一か所に留まってもいい。
明日には噂の「冒険者ギルド」に登録をしにいく。マニュアルを見ていて、お勧め職業にも上がっていたし、オレが見ていたチャンネルでも、活気づいている者が多かった職業だ。
「冒険者ギルド」に登録すれば、色々と恩恵も有るらしい。
何はともあれ、明日から始動だ。
ぐーっと伸びをした後に下の食堂に降りたが、頼んだシチューが、やけに塩っぽかったことを付け加えておく。
……食にも慣れておかないとな。
飯代を払い、自分の部屋に戻る。慣れない環境に疲れたのか、下の酒場の喧騒さえBGMに感じながら眠りについた。




