22 トラウマな目玉焼き
「ウィリス、サーチ使ってみろ」
オレは出入り口の無い謎の部屋をサーチするように促した。正直、オレがやっても良いが、何事も経験だ。
「は、はい『サーチ』」
しばし、時間が流れる。瞬きを何度かしているので、おそらく、深く見極めようとしているのだろう。
「何か……小箱? 小箱が有るみたいです」
目を瞑りながら、唸る様に言葉を紡ぐ。水色の髪が頬に張り付いている。既にダンジョンで2日泊ってるし、ここまでの戦闘で疲れてるんだろうな。
「あと、大きい動物……というか、多分、敵が居ます」
よし、ボス(仮)が守る部屋にあるような宝箱は、良い物が入っている……と、本で読んだ。
「周りに入れるような所が無いか、探そう」
オレがそう指示を出すと、シシリアが駄々をこねた。
「えー、一部屋くらい良くないですか?早く8階層行きたいのに。こんなもん探してもしょうが……な!?」
ガコン!
壁に体重をかけて文句を言っていたシシリアを、扉は音を立てて飲み込んだ。
……というより、ただの回転扉だった。複雑に考えて、下を調べたりもっと難しい仕掛けがあるかと勘違いして、探していた自分が恥ずかしい。壁をよくよく見ると、回転するだけあって、確かに少し隙間が有った。こんな事に気付かないとは。
「後に続くぞ!!」
オレの言葉に後ろの二人が頷く。
回転扉を力強く押すと、目の前にシシリアが棒立ちになっていた。
「うわ、ぶつかるだろ、何でそんなに近くに立ってるんだ」
「いやー、アレに一人で飛び込むのは良くないと思いまして」
指差す方向を見ると、壁と天井の隅に脈打つ、スライムと目玉を合体させたような、赤黒い生き物がいた。
血管のような物がどくんどくんと脈打ち、これが「生き物」だと伝えてくる。
しかし、敵が生きていても死んでいても、冒険者のやる事は決まっているのである。
ーーーーーー狩る!
「シシリア、ちょっとあの目玉の中心狙って矢を射ってみろ」
「んもー、そんなに簡単に行きますかね……『迅速』!!」
矢は寸分違わずという軌道で向かい、必中! するかと思われたが、目の前30センチメートルほどで目から光線が出て焼き込げた。
これは、手厳しい。
シールドを張って近接攻撃にして、ウィリスに付与魔法をかけさせてシシリアの弓で遠隔攻撃をするか。
属性は何が苦手なのかは分かりずらいが、ウィリスにサーチをさせてみる。
「レベルは13、ゲイザーの亜種みたいですね。弱点は雷みたいです」
「よし、シールドを張るから、各自集まってくれ」
「わ、私は付与魔法を使いますね」
各自魔法をかけ終わった後に、全員が位置に着く。
「いくぞ!」
オレの掛け声と共に、シシリアが横にステップして雷属性の付いた矢を無数に雨のように射る。
敵は、それを全て目玉から発射した光線で正確に撃ち落として行った。
無数の矢は、先ほどと同じように光線が出て、蒸発している。
だからと言って、全てを落としきれたという訳では無く、数ある中の一本が、目玉に当たると、「ビギュ!」という音がして、付与魔法をかけられた矢からダメージを受け、その傷からバチバチと小さな雷が起きている。
シールドを張ったパティが壁を翔けて、雷をまとった剣で目玉を切り付けた。
敵は目玉から「うぞっ」と液体をたらし、ボタボタと崩れていく。
その傷口から新しく小さな目玉が生み落とされ、ぶくぶくと泡のようになった。そこからボトリ、ボトリと天井から塊になって落ちて来た。
「げっ……」
シシリアが呻くが、激しく同意である。
「ほら、ウィリス、魔法」
「は、はい、『サンダー』!」
目の前をいくつかの雷が光となって走り、遅れて音が衝撃となってダンジョンを揺らす。
レベル10の割には、ウィリスは腕が良いようだ。
敵は移動が出来ないので逃げる事が出来ずに、直接的な魔法は効果覿面だったようだ。体が完全に崩れて、どろどろとした変色した目玉焼きになってしまった。……暫く目玉焼きは食べたくないな。
「あ、何か宝箱出てきました!」
パティが剣の柄で、小箱をつんつんする。多分、デロデロしてるのを触りたくないんだろうな。
「わあ、楽しみですね、センパイ!」
……ん?
三人が、わくわくした顔で、オレに視線を注いでいる。
オレが開けろと申すか。
「ふう」とため息を吐くと、クリーンの魔法を使って、箱の外側を奇麗にする。
箱には鍵穴が付いているが、当然鍵など無い。
鍵を解ける者もーーーーー表面上では居ない。
これは誤魔化すか。
オレは鞄の中の荷物からピンを一つ出すと真っすぐにする。
それを差し込んで軽くカチャカチャとさせると、小声で呟いた。
『アンロック』
カチャン!
弧気味の良い音を出して、宝箱の蓋が開いた。
「これ、何ですか?」
パティが困惑した声を出す。見た目は鳥が羽ばたいてるように見えるブローチだ。エメラルド色に宝石をカットして土台を作り、長い尾羽は小さくカットしたしたシトリンのような石が鎖のように連なっている。
「ウィリス、サーチで分かるか?」
「えとえと、『サーチ』……あ、弾かれちゃいました……」
6階層とは言え、隠し部屋に合った宝箱だけ有って、ウィリスのサーチを弾いたか。
『ブレスド・アイズ』
神に使える者が使える、サーチの上位呪文だ。
周りに聞こえないように唱えると、オレだけに見える情報が頭に流れてくる。
【セイモスのブローチ】魔力と俊敏さが上がる。
ふむ。まあ、オレが今調べた事を言っても面倒な事になるので、後でシシリアにだけは伝えておこう。多分売りに出さないで装備したいだろうからな。
「ギルドの鑑定にでも出した方がいい、街だと買いたたかれるぞ」
小箱をぽんとシシリアの手のひらに乗せると、閉じられた部屋から這い出る。
7階層は足早にやり過ごして、八階層に行かないと、ダンジョンに三日間はちょっとつらいな。埃っぽいし、息が詰まる。
「ほら、7階層行くぞ」
早く地上に戻って、上手い飯が食いたいね。




