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北方徴募兵団 ~使い潰される最前線で数字を見ても英雄にはなれなかった~  作者: 社畜太郎


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第三話 数字で人を救う

夜警兵が持ち場で倒れたのは、レインが第七駐屯地へ来て一ヶ月が過ぎた頃だった。


 原因は過労。


 三日、まともに寝ていなかったらしい。


「またか」


 周囲の兵士が言った。


 誰も驚かなかった。


 倒れる順番が回ってきただけだからだ。


 レインは担架で運ばれる兵士を見ていた。


 二十代前半。だが顔色は死人に近い。唇は乾き、目は半開きのまま閉じなかった。


 担架を運ぶ兵士たちも、疲れた顔をしている。


 誰も余裕がない。


 その夜。


 レインは夜警配置の日報をバルドから借りた。


 そして、三ページ読んだところで気づいた。


 ――この配置、壊れている。


 兵士の数字と配置にかける人の数字が合わない。


 特定の名前だけが、何度も繰り返されている。


 ページをめくるたび、その偏りははっきりしていった。


 古参兵の第二班が、連続して夜警に入っている。


 十日。


 十五日。


 二十日。


 休みが、ほとんどない。


 一方で別の班は飛び飛びだった。


 理由は帳簿の端に小さく書かれていた。


 ――新人班、訓練優先。


 レインはその文字をしばらく見つめた。


 新人は育つ前に死ぬ。


 だから古参に負担が集まる。


 古参が潰れる。


 現場が崩れる。


 そしてまた、新人が送られてくる。


 ぐるぐる回っている。


 まるで、人間を薪にして燃やし続ける炉だった。


 レインは粗末な紙を取り出し、書き始めた。


 巡回路の短縮。


 班ごとの休憩時間の分散。


 新人を古参へ混ぜる形での仮眠時間の確保。


 大きな改革ではない。


 今ある人員のまま、少しだけ配置を変えるだけだ。


 夜が明ける頃、ようやく書き終えた。


 翌朝。


 レインはその紙を班長のもとへ持っていった。


 班長は一瞥し、眉をしかめた。


「新人が口出すな」


「このままだと夜警班が崩れます」


「もう崩れてんだよ!」


 怒声が飛ぶ。


「お前みたいな青二才に何が分かる。現場を三日も知らずに机の上で——」


「夜警班の日報の記録を見ました」


 班長が止まった。


 レインは続ける。


「古参の第二班、今月二十三日連続で夜警に入っています。昨日倒れた兵士もその班です」


「次に倒れるのは——」


「うるさい」


 低い声だった。


 怒りではない。


 疲れ切った声だった。


「……分かってる」


 班長は顔を覆うように額を押さえた。


「分かってて、どうにもならないんだ」


 沈黙が落ちた。


 その時。


 近くで聞いていたバルドが口を開いた。


「試すだけ試せばいい」


 班長がバルドを見る。


 バルドは壁へ背を預けたまま、視線も向けなかった。


「どうせ、このままでも潰れる」


 それだけ言った。


 班長は長く息を吐き、舌打ちした。


「……勝手にしろ」


 紙をひったくるように受け取った。


 三日後。


 夜警中に倒れる兵士は出なかった。


 たった、それだけだった。


 誰も褒めない。


 記録にも残らない。


 魔物が来れば死者は出る。


 補給不足も続いている。


 北壁の亀裂も放置されたままだ。


 世界は何も変わっていない。


 だが朝。


 交代で戻ってきた兵士たちの顔は、少しだけ違っていた。


 目が開いている。


 足取りに、わずかに力がある。


 食堂で、その兵士の一人がレインの隣へ座った。


 何も言わない。


 ただ黙ってスープを飲み、食べ終えると立ち去っていった。


 昼。


 バルドがレインの横を通り過ぎながら、ぽつりと言った。


「次は補給帳簿だ」


 レインは顔を上げる。


 バルドは歩みを止めない。


「あっちの方がひどい」


 その背中を見ながら、レインは少し黙った。


 夜警だけで、この有様だ。


 補給まで壊れているなら——。


 第七駐屯地は、いったい何で動いているのだろう。


 レインは初めて、そんなことを考えた。

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