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北方徴募兵団 ~使い潰される最前線で数字を見ても英雄にはなれなかった~  作者: 社畜太郎


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第三十一話 南区倉庫街

 翌日。


 レイン達は南区へ来ていた。


 同行者はセリス、ガルク、ヴァルカ。


 北区の騒乱は終息へ向かっている。


 だが地下水路で見つけたものは始まりだった。


 移送完了。


 第七貨物。


 北門経由。


 焼け残った紙片の文字が頭から離れない。


 南区はラーゴス最大の物流拠点だ。


 荷車が行き交う。


 倉庫番が怒鳴る。


 労働者達が荷を担ぐ。


 活気はある。


 だから人も荷も多い場所は隠し事にも向いている。


 レイン達は朝から聞き込みを続けていた。


 しかし成果は薄い。


「何も出ねぇな」


 ガルクが頭を掻いた。


「出る方がおかしい」


 ヴァルカが欠伸をする。


「違法な荷物運んでる奴が『はいそうです』って言う訳ないでしょ」


「お前やる気あんのか」


「ない」


 即答だった。


 ガルクが額を押さえる。


 セリスが溜息を吐く。


 その時だった。


「昨日はお疲れ様、軍人さん」


 聞き覚えのある声。


 レインが振り返る。


 路地の壁にもたれている女がいた。


 煙草。


 長い黒髪。


 リーネだった。


「何をしている」


 レインが聞く。


「それはこっちの台詞」


 リーネは肩を竦めた。


「警邏隊が南区をうろつくなんて珍しいじゃない」


「仕事だ」


「何の?」


「警邏隊の仕事だ」


「答えになってないね」


 ガルクが吹き出した。


 レインは無表情のままだ。


 リーネは煙草を咥え直す。


「で?」


「何を探してるの」


 沈黙。


 セリスが横目でレインを見る。


 少しだけ考えた後。


 レインは言った。


「昨日の地下水路の件だ」


 リーネの動きが止まる。


 ほんの僅かだった。


「地下水路?」


「ある組織が活動していた痕跡を発見した」


「へぇ」


「既に放棄されていた」


 煙が流れる。


 リーネはしばらく黙った。


「なるほどね」


 そう言って煙草を摘まむ。


「じゃあ別料金なら知ってる事で話せる事を教えてあげる」


 ガルクが笑う。


「何だよそれ」


「昨日は助けてもらった礼もしないとね」


 リーネが言う。


「だから少しだけ教えてやる」


 そして。


「でも商売上の取引だ」


「この先有料?」


 ヴァルカが小さく吹き出した。


「嫌いじゃないね、そういうの」


 リーネは鼻を鳴らした。


「南区の三番倉庫区画」


 全員が顔を上げる。


「あそこは少し変」


「変とは」


 セリスが聞く。


「夜だけ荷車が出入りする」


「帳簿に載らない荷物もある」


「倉庫番も口が堅い」


 レインが聞く。


「見たのか」


「見た」


 リーネはあっさり答えた。


「仕事をしてれば嫌でも見えるし、うちのお客はその筋の人ばっかりだからね」


 妙な説得力だった。


「それに」


 そこで後ろを見る。


「ほら」


 小さな影が柱の陰から顔を出した。


「ひっ」


 目が合った瞬間引っ込む。


 ミアだった。


「出てきな」


「は、はい……」


 恐る恐る姿を現す。


 以前より身なりは整っている。


 だが相変わらず人前は苦手らしい。


「お久しぶりです……」


 小さく頭を下げる。


「元気そうだな」


 レインが言う。


 ミアは慌てて頷いた。


「は、はい……」


 そこで終わる。


 言葉が続かない。


 リーネが苦笑した。


「昨日は孤児ども追い回してたくせにな」


「お、追い回してません」


 ミアが慌てる。


「危ない場所に入ろうとしてたから……」


「怒鳴ってたじゃん」


「怒鳴ってません……」


 声が小さい。


 だが以前よりは少しだけ強くなっている。


 リーネは煙を吐いた。


「で、こいつも見てる」


 ミアがびくりとする。


「み、見ただけです……」


「何をだ」


 レインが聞く。


 ミアは視線を泳がせた。


「夜の荷馬車です」


 小さな声だった。


「三番区画の方へ……」


「何度も来てました」


「中身は」


「分かりません」


 首を振る。


「でも」


 少し迷って。


「普通の商人さん達と違いました」


「どう違う」


「皆……周りを気にしてました」


 レインとセリスが顔を見合わせる。


 ヴァルカも耳を動かした。


「怪しいね」


「だな」


 ガルクが頷く。


 リーネが煙草を捨てた。


「案内してやろうか」


「条件は?」


 セリスが聞く。


 リーネが笑う。


「今度酒を奢れ」


「安いな」


「昨日の借り分だからね」


 そう言って歩き出す。


「行くなら今、昼の内だよ」


 レイン達も後に続く。


 南区の奥。


 三番倉庫区画。


 石畳の先には古い倉庫群が並んでいた。


 そしてその中に。


 誰にも気付かれぬよう息を潜めるような一棟があった。


 レインは足を止める。


 何かがある。


 そんな予感がした。


 十年前から続く闇へ繋がる何かが。


 その倉庫の中に。

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