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北方徴募兵団 ~使い潰される最前線で数字を見ても英雄にはなれなかった~  作者: 社畜太郎


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第三十話 報酬の酒場

 ゴブリンサージェントが咆哮した。


 耳障りな叫びが北区の広場へ響く。


 大鉈が振り上げられる。


 その刃には血と肉片がこびりついていた。


 ドクは槍を握り直す。


 肩で息をしている。


 腕は重い。


 膝も笑っていた。


 若い頃ならとっくに決着を付けている。


 だが老兵には老兵の戦い方があった。


「しぶてぇな」


 吐き捨てる。


 サージェントが突進してくる。石畳が砕ける。


 大鉈が横薙ぎに振るわれた。


 ドクは槍で受け流す。


 衝撃、肺から空気が漏れる。


 身体ごと吹き飛ばされそうになる。


 それでも踏み止まった。


「まだだ」


 その横からグレイン達警邏隊が盾を構えて飛び込む。


「押せぇ!」


 盾がサージェントへ激突した。


 巨体が揺れる。


 だが倒れない。


 むしろ大鉈を振り上げる。


 次の瞬間、槍が飛んだ。


 ドク達が振り返る。


「ロイの槍だ!」


 サージェントの肩へ突き刺さる。


 化け物が振り向く。


 そして。


「隊長!」


 広場の入口からレインの声が響いた。


 その後ろにはセリス。


 ガルク。


 ロイ。


 ヴァルカ。


 地下水路組が戻ってきていた。


 泥だらけだった。


 だが全員生きている。


 グレインが叫ぶ。


「どうだった!」


「拠点は放棄済みです!」


 レインが答える。


「証拠は焼却済み、しかし報告は後では?」


 グレインは頷いた。


「そうだな」


 そして剣を構える。


「話は後だ」


 サージェントを見る。


「まずはコイツだ」


 レインも軍刀を抜く。


「了解」


 サージェントが咆哮した。


 まだ戦意は衰えていない。


 黄色い目がレインを捉える。


 次の瞬間。


 ガルクが飛び出した。


「今度はこっちだ化け物!」


 棍棒が振り下ろされる。


 大鉈が迎え撃つ。


 轟音。


 その隙を突いてグレインが盾で押し込む。


 後ろから矢が飛び、サージェントの左目を抉る。


「報酬増やしてよね」


 ヴァルカが鼻を鳴らす。


 サージェントの体勢が崩れる。


「今だ!」


 ドクの槍が脇腹へ突き刺さった。


 血飛沫。


 咆哮。


 だがまだ倒れない。


 化け物だった。


 その瞬間。


 レインが踏み込む。


 軍刀が閃く。


 脚。


 肩。


 首筋。


 浅い。


 だが確実に傷を重ねる。


 そして。


「セリス!」


 レインが叫んだ。


 セリスは迷わなかった。


 走り、踏み込む。


 借り物の剣を握り締める。


 サージェントの首筋へ叩き込んだ。


 刃が深く食い込む。


 化け物が絶叫した。


「終わりだ!」


 グレインの剣。


 ドクの槍。


 ガルクの棍棒。


 全てが同時に叩き込まれる。


 巨体が揺れた。


 そして、崩れ落ちる。


 轟音。


 街全体が震えた。


 一瞬の静寂。


 そして。


「討ち取ったぞォォォ!!」


 誰かが叫んだ。


 歓声が上がる。


 警邏隊。


 冒険者。


 私兵。


 避難していた住民達。


 北区に響く歓声だった。


 ゴブリンサージェントは死んだ。


 残ったゴブリン達は統率を失い、単なる烏合の衆となっていた。


 警邏隊が防衛線を押し上げる。


 冒険者が狩る。


 やがて、北区の戦いは終わった。


 ◇


 負傷者の搬送も一段落した頃。


 ヴァルカが大きく伸びをした。


「終わった?」


「終わったな」


 ロイが答える。


「じゃあ報酬」


「何だ」


「酒」


 指を一本立てる。


「肉」


 さらに一本立てる。


「あと酒」


「増えてるぞ」


 ロイが呆れた。


「命懸けだったんだから当然」


 ヴァルカは尻尾を揺らした。


 そしてセリスを見る。


「ほら行くよ」


「え?」


 セリスが固まる。


「何で私も」


「女の子だから」


「意味が分かりません」


「可愛いから」


「もっと分かりません」


 その時だった。


「私は報告書が――」


 セリスが言いかける。


 グレインが遮った。


「今日は休みだろ」


 セリスが固まる。


「え?」


「今日の分の仕事は後でつけとけ」


「休みに働くほど仕事が好きか?」


 そして腕を組む。


「セリス今日は働いたな」


「十分にな」


 珍しく柔らかい声だった。


 セリスは少しだけ目を見開く。


 グレインは視線を逸らした。


「だから休め」


「命令だ」


 ガルクが笑う。


「聞いたか」


「隊長命令だぞ」


「いや、でも……」


「逆らうのか?」


「違います!」


「よし飲むぞ!」


「肉」


 ヴァルカが即座に乗る。


「肉だな」


 ガルクも頷く。


「酒も」


「酒もだ」


 ロイが吹き出した。


 ◇


 酒場は騒がしかった。


 生き残った人間達が酒を飲んでいる。


 笑い声。


 歌声。


 泣き声。


 北区らしい夜だった。


 そして。


「肉!」


 ヴァルカが叫んだ。


「肉!」


 店主が苦笑する。


「聞こえてる」


「酒!」


「それも聞こえてる」


 皿が並ぶ。


 肉。


 肉。


 肉。


 そして酒。


 ヴァルカの目が輝いた。


「最高」


 早速食べ始める。


 ガルクも負けていない。


 ロイも酒を飲む。


 セリスだけが居心地悪そうだった。


「ほら」


 ヴァルカが隣へ座る。


「飲む」


「飲みません」


「飲む」


「飲みません」


「飲む」


 ヴァルカの黒い瞳がセリスを見つめる。


「……少しだけ」


「よし」


 勝った顔だった。


 数杯後。


 ヴァルカは出来上がっていた。


「セリス可愛いね」


「やめてください」


「可愛い」


「やめてください」


 肩を組まれる。


「離れてください」


「やだ」


「離れてください」


「やだ」


 ロイが吹き出した。


 ガルクは腹を抱えて笑っている。


 レインだけが黙って酒を飲んでいた。


 その時、ヴァルカが肉を齧りながら言った。


「そういやさ」


 レインが顔を上げる。


「何だ」


「南門の倉庫街」


 その言葉でレインの動きが止まる。


「最近変なんだよね」


「変?」


 セリスが聞いた。


「夜中の荷馬車が増えた」


 ヴァルカは口に残った肉を酒で流し込む。


「商隊っぽくない」


「あと臭い」


「臭い?」


「獣が嫌がる臭い」


 狼獣人の耳がぴくりと動く。


「野犬も近寄らない」


 酒場の喧騒は続いている。


 だがレインだけは静かだった。


 地下で見た焼け残り。


 移送完了。


 第七貨物。


 北門経由。


 全てが頭の中で繋がり始める。


「他には」


 レインが聞く。


「さぁ」


 ヴァルカが肩を竦めた。


「でも嫌な感じがする」


 その言葉だけは酔っていても真面目だった。


 レインは酒杯を置く。


「明日」


 全員が見る。


「南門倉庫街を調べる」


 セリスが頷く。


「了解です」


 酒場の窓の外では夜風が吹いていた。


 北区の戦いは終わった。


 だが。


 地下で見たもの。


 運び出された何か。


 そして南門倉庫街。


 闇はまだ終わっていない。


 レインは静かに夜の街を見つめていた

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