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北方徴募兵団 ~使い潰される最前線で数字を見ても英雄にはなれなかった~  作者: 社畜太郎


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第二十七話 地下へ通じる入口

  ゴブリンの群れが押し寄せる。


 灰色の身体。


 黄色い牙。


 濁った眼。


 地下水路の鉄格子から次々と這い出してくる。


 まるで底がない。


「第二波だ!!」


 誰かの叫びが響いた。


 先ほどまで押し返していた戦線が再び揺らぐ。


 警邏隊の盾列へゴブリンが殺到する。


 盾へ爪が食い込む。


 槍が突き出される。


 悲鳴。


 怒号。


 血飛沫。


 北区の広場は完全な戦場となっていた。


「前を向け!!」


 グレインの怒声が響く。


 隊長自ら最前列へ立っていた。


「下がるな!」


「ここを抜かれたら北区全体が戦場になるぞ!!」


 警邏隊員たちが歯を食いしばる。


 盾を押し出す。


 槍を突き出す。


 少しずつ。


 少しずつ。


 だが確実に。


 ゴブリンの波を止めていた。


 その一方で。


 広場中央。


 ゴブリンサージェントが暴れていた。


 巨大な大鉈が振り下ろされる。


 荷車が真っ二つになる。


 私兵が吹き飛ぶ。


 警邏隊員が転がる。


 怪物だった。


 ガルクが血を吐き捨てる。


 腕は痺れている。


 肩も痛む。


 それでも棍棒を構え直した。


「化け物が……」


 その時だった。


 レインが地下水路を見た。


 ゴブリン。


 ゴブリン。


 ゴブリン。


 終わらない出現。


 そしてサージェント。


 通常種には有り得ない統率。


 自然発生では説明がつかない。


 レインの目が細くなる。


「……そういうことか」


 セリスが振り返る。


「小隊長?」


「これは偶発的な魔物災害じゃない」


 地下水路を指差す。


「何かが地下でゴブリンを集めている」


 セリスの顔色が変わった。


 その言葉を聞いたグレインも頷く。


「俺もそう思う」


 隊長の目だった。


「レイン」


「はい」


「お前は真実を探れ」


 セリスが驚く。


「隊長!?」


「ここは俺が持つ」


 即答だった。


 盾列の向こうではゴブリンが吠えている。


 グレインは剣を握り直した。


「原因を潰さなければ終わらん」


 そして静かに続ける。


「俺は街を守る」


 レインを見る。


「お前は敵を見つけろ」


「了解しました」


 レインは即答した。


 迷いはない。


 グレインは満足そうに頷く。


 その横で。


 ドクが槍を肩へ担いだ。


 老人とは思えない足取りだった。


 サージェントを見る。


 巨大な体。


 大鉈。


 殺気。


「厄介なのがいるじゃねぇか」


 サージェントが咆哮する。


 ドクが笑った。


「よし」


 槍を回す。


「年寄りの相手は年寄りがしてやる」


 ガルクが叫ぶ。


「おいドク!」


「勝てるのか!?」


 ドクは肩を竦めた。


「知らん」


 あっさり言った。


「だが若い連中が帰ってくるまで死ななきゃ十分だ」


 そして笑う。


「年寄りは時間を稼ぐのが仕事だろ」


 ガルクが鼻で笑った。


「違ぇねぇ」


 その時。


 一本の矢が飛んだ。


 ゴブリンの左目を貫く。


 即死。


 さらに二本目。


 喉。


 三本目。


 膝。


 倒れたゴブリンへ警邏隊の槍が突き刺さる。


 無駄がない。


 ロイが振り返った。


「ヴァルカ!!」


 少し離れた場所。


 獣人の女が弓を下ろした。


 灰色の耳。


 狼の尾。


 皮鎧。


 面倒そうな顔。


「何」


「地下へ行く」


「嫌」


 即答だった。


 ロイが顔をしかめる。


「まだ説明してねぇ」


「面倒そうだから嫌」


「面倒だ」


「最悪」


 ヴァルカは本気で嫌そうな顔をした。


 地下水路を見る。


 レインを見る。


 セリスを見る。


 ガルクを見る。


 そして盛大なため息を吐いた。


「私の人生って何なんだろうね」


「行くのか?」


「断っても行かされる流れでしょ」


 弓を背負う。


「報酬二倍」


「分かった」


「酒と肉」


「分かった」


「帰れたらの話だけどね」


 そう言いながら前へ出た。


 その頃。


 サージェントが大鉈を振り上げていた。


 ドクが前へ出る。


「おい化け物」


 老兵が槍を構える。


「若い奴らは忙しい」


 サージェントが睨む。


「だから」


 ドクが笑った。


「年寄りが相手してやる」


 ギィィィィィィィッ!!


 咆哮。


 突撃。


 大鉈が振り下ろされる。


 ドクも踏み込んだ。


 槍と大鉈が激突する。


 轟音。


 石畳が砕けた。


 その背後で。


 レイン達は地下水路の入口へ集まる。


 レイン。


 セリス。


 ガルク。


 ロイ。


 ヴァルカ。


 五人。


 地下から冷たい風が吹いていた。


 腐臭。


 泥。


 そして。


 別の臭い。


 血だった。


 レインは軍刀を抜く。


「行くぞ」


 誰も反対しない。


 五人は階段を下りていく。


 闇の中へ。


 地上では。


 警邏隊が戦う。


 冒険者が戦う。


 グレインが戦う。


 ドクが怪物を止める。


 そして五人は北区の闇の底へ消えていった。


 地下から吹き上がる風は冷たい。


 腐臭の奥。


 さらに別の臭いが混じっている。


 血だ。


 そして。


 何かがいる。


 レインは足を止めなかった。


 その先で待つものが。


 ゴブリンだけではないことを。


 まだ誰も知らなかった。

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