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北方徴募兵団 ~使い潰される最前線で数字を見ても英雄にはなれなかった~  作者: 社畜太郎


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第二十六話 反撃の角笛

 北区の裏路地。


 レインは一人で歩いていた。


 昨夜から調査のことをずっと考えていた。


 北方互助会。


 地下水路。


 失踪した孤児。


 消えた冒険者。


 ヴァレニア残党。


 マルシア家。


 頭の中で情報を整理しながら歩く。


 そしてセリスのこと


 「はぁ」


 北区の空気は重かった。


 昼だというのに薄暗い。


 湿った石壁。


 汚水の臭い。


 その時だった。


「おい」


 女の声。


 レインが振り返る。


 リーネだった。


 肩で息をしている。


 額には汗。


 珍しく煙草も咥えていない。


「お前か」


「そこであんたを見かけてな、追ってきたんだよ」


 レインの眉が動く。


「何があった」


「広場」


「?」


「炊き出し場」


 短い返答。


 だが顔色が違った。


「ゴブリン」


 レインの目が細くなる。


「ガルク達もいる」


 一瞬。


 沈黙。


「場所は」


「北東区画」


 次の瞬間。


 レインは走り出していた。


「ちょっ――」


 リーネが呆れたように目を見開く。


「足速っ……」


 だがレインの背中はもう遠かった。


 ◇


「セリス!!」


 ガルクの叫び。


 3匹のゴブリンが向かってきている。


 1匹は捉えた、けど間に合わない。


 振り下ろされる。


 その瞬間。


 ギィン!!


 鋼鉄がぶつかる音。


 軍刀がゴブリンの刃をを受け止めていた。


 火花が散る。


 ゴブリンの首が飛ぶ。


 セリスが目を見開いた。


「……小隊長?」


 軍服。


 黒い外套。


 冷静な横顔。


 レインだった。


「なぜここに……!?」


 レインは軍刀について血をゴブリンの死体で拭う。


「北区を調べていた」


 軍刀を構える。


「途中で知り合いに会った」


「知り合い……?」


「騒ぎを聞いた」


 それだけだった。


 そして。


「状況を報告しろ」


 その声でセリスは我に返る。


 副官の顔へ戻った。


「ゴブリン多数!」


「地下水路から継続出現!」


「住民避難中!」


「ゴブリンサージェント一体!」


「ガルクさんが交戦中です!」


「了解した」


 レインは広場全体を見渡した。


 避難民。


 即席防衛線。


 荷車。


 地下水路。


 負傷者。


 戦力。


 数秒。


 それだけで十分だった。


「ここで止める」


 セリスが驚く。


「後退は?」


「却下だ」


 即答だった。


「ここを抜かれれば北区全域へ散る」


 セリスも理解する。


 路地へ逃げ込まれれば終わりだ。


「防衛線を維持する」


 レインが叫ぶ。


「荷車を前へ!」


「木箱を積め!」


「槍持ちは一列!」


「剣は二列目!」


 私兵達が顔を見合わせる。


 軍に従うべきか、このまま自分勝手に戦うのか。 


「……チッ」


 一人が立つ。


「荷車持ってこい!」


 次々と動き出した。


 防衛線が再び形になる。


 ゴブリンが突撃する。


「前!!」


 セリスが叫ぶ。


 槍が突き出される。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 倒れる。


 押し返せる。


 人間側が持ち直し始めた。


 だが。


「ギィィィィィ!!」


 サージェントが咆哮する。


 大鉈が振り下ろされる。


 荷車が砕ける。


 私兵が吹き飛ぶ。


 戦線が揺れる。


「テメェの相手は俺だろうが!!」


 ガルクが棍棒をサージェントめがけて振り下ろす。


 棍棒と大鉈。


 激突。


 轟音。


 ガルクが踏み止まる。


 だが押されている。


 誰の目にも明らかだった。


 長くは持たない。


 その時だった。


 遠くから角笛が響く。


 ボオオオオオオオオオオ!!


 全員が振り向く。


「道開けろォォォ!!」


 泥だらけの男が全力で走ってくる。


 ロイだった。


「来たぞ!!」


 笑っている。


「応援だ!!」


 大通りの向こう。


 盾。


 盾。


 盾。


 整然と並ぶ警邏隊主力。


 その先頭。


 グレインが剣を掲げる。


「盾を上げろ!!」


 ガン!!


「前進!!」


 ガン!!


 盾列が動く。


 ゴブリンへ向かって。


 さらにその後方から。


「仕事の時間だ野郎共!!」


 ドク率いる冒険者達が雪崩れ込む。


 斧。


 槍。


 剣。


 弓。


 北区の空気が変わった。


 押されていた戦場が。


 反撃へ転じる。


 レインは軍刀を構える。


「よく持たせた」


 静かな声だった。


 そして。


 軍刀の切っ先をゴブリンサージェントへ向ける。


「反撃開始だ」


 北区の戦いは。


 ここから人間側の時間になる

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