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北方徴募兵団 ~使い潰される最前線で数字を見ても英雄にはなれなかった~  作者: 社畜太郎


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第十八話 群衆

 数日後。 


 ギルドからの協力を受け、北東地区の警邏強化、情報収集が始まった。 


 警邏隊とギルドが連携し、治安回復に向けて動き始めた。


 軍からギルドへの正式な任務を発注。ギルドは冒険者の技量に応じた任務を的確に割り振った。


 これまで食えなかった者に、夜にスープを飲むだけの仕事は与えられた。


 少しずつギルドにも食い扶持を求めて冒険者が集まり始めていた。


―――

 本格的に冬が来るような寒さを感じる風が吹く日だった。 


 ラーゴス北東区画の昼過ぎ。


 警邏隊詰所の窓から、広場が見えていた。


 人が集まっている。


 二十人。


 三十人。


 やがて五十人を超えた。


 だが武器はない。


 怒号もない。


 掲げているのは粗末な布旗だけだった。


『税の見直しを』


『北方への補給改善を』


『物価高騰反対』


 レインは窓際に立ったまま、その様子を見ていた。


 隣ではセリスが書類を抱えている。


「集会許可は出ています」


「主催は」


「北東区画の商人組合“北方の民を守る会”です」


「……商人」


 酒と煙草の値上がり。


 消える行商人。


 貧困のふりをした商人。


 頭の中で線が繋がりかける。


 だがまだ弱い。


 確証には遠かった。


 広場では男が木箱の上に立ち、声を張っていた。


「王都は北方を見捨てている!」


 群衆がざわめく。


「冬が来ればまた飢えるぞ!」


「そうだ!」


「税ばかり取りやがって!」


 怒号というより、不満の吐き出しだった。


 レインは黙って見ていた。


 まだ、暴動ではない。


 その時、ロドガーが部屋へ入ってきた。


「始まったか」


「はい」


「どう見える」


 レインは少し考えた。


「本気で蜂起する集団には見えません」


「理由は」


「食えている人間が多い」


 隊長が片眉を上げた。


 レインは窓の外を見る。


「本当に追い詰められた人間は、あんな風に統率の取れた行動をしません。怒鳴る前に奪います」


 北方第七駐屯地で見てきた。


 限界を越えた兵士は、文句を言う気力すら消える。


 だから今の広場の群衆には、まだ余裕がある。


 ロドガーは短く笑った。


「現場上がりらしい答えだ」


 そして言う。


「警邏は静観。刺激するな」


「よろしいので?」


「暴れたら止める。暴れないなら見てろ」


 セリスが小さく言った。


「……随分、穏当ですね」


「暴動にしたい奴がいるなら、こっちが手を出すのを待っているとみていいだろう。」


 隊長は煙草を咥えた。


「乗る必要はねえ」


 ——


 集会は日没前に解散した。


 怪我人なし。


 逮捕者なし。


 広場には不満だけが残った。


 だが翌日。


 北東区画では別の話題が広がっていた。


「昨日の集会、炊き出しが出たらしいぞ」


「パンとスープだって」


「商人組合がやったとか」


 レインは巡回報告を読みながら、その話を聞いていた。


 炊き出し。


 金がいる。


 継続するなら、なおさらだ。


 ——


 三日後。


 レインはセリスとガルクと北東の広場を遠巻きにみていた。


 第二波が来た。


 今度は規模が違った。


 広場を埋める人、人、人。


 前回の数倍。


 しかも雰囲気が異常に明るい。


 鍋が並び、湯気が立ち、子供が走り回っている。


 吟遊詩人までいた。


 まるで祭りだった。


「……何だこれは」


 ガルクが一人呟く。


 炊き出しの匂いが広場に広がる。


 北東区画では滅多に見ない食事だった。


 人々の顔色が違う。


 疲れてはいる。


 だが笑っていた。


 木箱を積み上げて作られた壇上では若い男が演説している。


「王都は我々を見捨てた!」


「だが我々は助け合える!」


 歓声。


「北方は北方で生きるべきだ!」


 さらに歓声。


 レインは群衆を見ながら、小さく目を細めた。


「……変だな」


「何がです?」


 セリスが聞く。


「金が掛かりすぎている」


 炊き出しだけで相当な費用だ。


 しかも一日ではない。


 継続している。


 誰が出している。


 何のために。


 その時、隣にいたガルクが言った。


「ちょっと飯もらってくる」


「おい」


「潜り込んだ方が話聞けるだろ」


 そう言って、人混みへ消えていく。


 数分後。


 ガルクは木椀を片手に戻ってきた。


「……肉入ってんな、これ」


「話は聞けたか」


「少しな」


 ガルクはスープを飲みながら言った。


「炊き出しやってる連中、“北方互助会”とか名乗ってる。最近急に金回りが良くなったらしい」


「商会との繋がりは」


「あるっぽい。荷車に商会印があったって話を聞いた」


 レインは広場を見る。


 その時。


 人混みの奥に、見覚えのある男がいた。


 粗末な外套。


 だが革靴だけが新しい。


 以前、路地裏へ消えた“健康そうな貧民”。


 男は周囲を確認すると、裏路地へ入っていく。


 ガルクもそれに気づいた。


「……あいつ、前にも見たな」


「ああ」


 セリスが静かに言う。


「たまたま似た人では?」


 レインは答えなかった。


 たまたま。


 その言葉で片付けるには、同じ違和感を何度も見過ぎている。


 広場では歓声が続いていた。


 腹が満たされれば、人は集まる。


 希望を見せられれば、人は熱狂する。


 そして。


 熱狂した群衆は、誰かの意思で動く。


 レインはその光景を見ながら思った。


 ——これは、まだ始まりだ。

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