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北方徴募兵団 ~使い潰される最前線で数字を見ても英雄にはなれなかった~  作者: 社畜太郎


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第十一話 北方警邏隊

 北方都市ラーゴスは、雪の色が汚れていた。


 王都の白い石畳とは違う。


 泥。


 煤。


 血。


 人が生きる匂いが、路地に染み付いている。


 レインは城壁門の前で立ち止まり、都市を見上げた。


 北方最大級の交易都市。


 魔物素材、鉱石、木材、毛皮。


 北方の物流が集まり、王都へ流れていく場所。


 同時に。


 盗賊、密輸、難民、魔物被害も集まる場所だった。


「新任か?」


 門前の衛兵が声をかけてきた。


「はい。王立士官学校卒業、レイン・アルヴァードです。ラーゴス市警邏隊へ配属されました」


 衛兵は一瞬だけ眉を上げた。


「士官学校卒業で警邏隊か」


 その反応には、もう慣れ始めていた。


「詰所は中央通りの奥だ。隊長が待ってる」


「ありがとうございます」


 レインは頭を下げ、街へ入った。


 ——


 ラーゴスは騒がしかった。


 荷車が行き交う。


 怒鳴り声。


 商人の呼び込み。


 冒険者らしき武装集団。


 酒臭い傭兵。


 王都とは違う意味で熱気があった。


 だがレインの目は、別のものを見ていた。


 痩せた子供。


 壁際の浮浪者。


 護衛付きの豪商。


 衛兵の少なさ。


 積まれた木箱の量。


 荷車の車輪跡。


 人の流れ。


 どこに金が流れ、どこが止まっているのか。


 それを無意識に見ていた。


「……変なところ見てるな、兄ちゃん」


 声をかけられた。


 振り向く。


 長身の男だった。


 黒い外套。


 無精髭。


 背には大剣。


 典型的な北方冒険者だ。


「観光客じゃないだろ」


「配属です」


「軍人か」


 男はレインの荷物を見た。


「新人にしちゃ、妙に周り見てる」


「癖です」


「嫌な癖だな。長生きするぞ」


 男は笑った。


「ガルクだ。冒険者やってる」


「レインです」


「知ってる」


 レインは少し眉を動かした。


「士官学校首席卒業の平民。なのに警邏送り。昨日から酒場で噂だ」


 噂が広い。


 都市部らしい速さだった。


「歓迎されてるわけじゃなさそうですね」


「北方は結果しか見ねぇよ」ガルクは肩を竦めた。「役立つなら歓迎される。使えねぇなら埋もれる。それだけだ」


 嫌いではない価値観だ、とレインは思った。


「忠告しとく」


 ガルクが少し声を落とした。


「この街、外から見るより腐ってる」


「……どこもそんなものでは」


「いや。ここは深い」


 冒険者はそこで笑みを消した。


「気をつけろ。特に“上”をな」


 その時。


「レイン・アルヴァード少尉ですね」


 後ろから女の声がした。


 振り返る。


 黒髪。


 雪のように白い肌。


 北方警邏隊の軍服。


 二十代半ばほどだろうか。


 整った顔立ちだった。


 だが印象に残るのは、美貌よりも静けさだった。


 感情の波が見えない。


 凪いだ湖のような目だった。


「私は副官のセリス・アイヴァーンです」


 女は静かに一礼した。


「本日より、あなたの補佐を務めます」


 ガルクが口笛を吹いた。


「おいおい。新人に随分な副官付けるじゃねぇか」


 セリスは冒険者を見もしなかった。


「隊長がお待ちです。こちらへ」


 事務的だった。


 だがレインは、その声に違和感を覚えた。


 感情が薄い。


 いや。


 感情を“整えすぎている”。


 そんな話し方だった。


 ——


 警邏隊本部は、古い石造りの建物だった。


 中へ入った瞬間、空気が変わる。


 疲労。


 紙。


 酒。


 血。


 現場の匂いだった。


「遅かったな」


 奥の机で、男が書類を見ていた。


 大柄。


 白髪混じり。


 片腕に古傷。


 歴戦の兵士だとすぐ分かる。


「隊長のグレインだ」


 男はレインを見た。


「士官学校首席殿」


「レイン・アルヴァードです」


「硬ぇな。どうせここじゃ肩書なんか意味ねぇ」


 グレインは書類を放った。


「お前の担当地区だ」


 地図だった。


 ラーゴス北東区画。


 貧民街。


 倉庫街。


 外壁沿い。


 問題の起きやすい場所ばかりだった。


「新人にしては重い区域ですね」


「死人が多いからな」


 グレインは平然と言った。


「魔物被害、失踪、密輸、難民暴動。全部そこだ」


「……随分集めましたね」


「お前が“現場を見る”奴だと聞いた」


 老士官から情報が来ているのかもしれない。


「だから一番腐ってる場所を任せる」


 グレインは椅子にもたれた。


「できるか?」


 レインは地図を見た。


 人の流れ。


 物流。


 外壁。


 倉庫。


 警邏配置。


 全部が頭の中で繋がっていく。


「まず見ます」


「何を」


「どこで人が死んでいるのかを」


 数秒、沈黙。


 それからグレインが笑った。


「なるほど。確かに変な奴だ」


 セリスだけは笑わなかった。


 ただ静かに、レインを見ていた。


 その目だけが妙に冷たかった。


 まるで。


 もっと先を知っている人間のように。

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