wake up
事件当日の朝──
目が覚めた。
もう朝か、そう思いながら時計を見ると起きる予定の時刻よりも30分ほど早く目覚めたようだ。
まだ少し眠いがここで寝てしまうとほぼ間違いなく寝坊をすることになるだろう。
「ふぁ………」
仕方ないが起きることにし、まだ寝ぼけてる頭を無理やり起こしながらリビングへと向かうことにした。
「あ、おはようございます。暁くん。早起きですね。」
リビングへ行くと、普段より早く起きたにも関わらず既に朝食の用意がされていた。
「あともう少しで用意できますから座って待っていてください。」
「すみません。ご迷惑をおかけします。」
「いえいえ。やりたくてやっていることですから。」
そう言って彼女は台所へ向かっていった。
このやけに気の利く女性は、鞘師薫さん。我が刀間家で家政婦をやってもらっている。
我が、と言っても自分1人しかいないのだが。
母親は自分が生まれてすぐに亡くなったらしく、父親は物心がつく前にどこかへと消えてしまった。
そして天涯孤独の身となってしまった自分のところに来たのが薫さんだった。
どうやら父親は名家の出であるらしく、が親とは仲違いしており、しかし子どもを一人にするわけにもいかず、といった経緯だったようだ。
とにかく刀間家は家主刀間暁である自分と、家政婦鞘師薫さんの二人で成り立っているのである。
そして家事がてんでダメな自分にとって薫さんはとてもありがたい存在なのだ。
「さぁどうぞ。朝ごはんの用意ができました。」
「いつもありがとうございます。」
目の前にはこれぞ和食といったメニューが並んでいる。
薫さんは和食料理がとても得意で、その味はプロに引けを取らない。
たまには洋食も食べたくなるが──作ってもらってる身だ。そんな贅沢は言えない。
「「いただきます。」」
白米を口に入れる。相変わらず丁度い炊き加減だ。
なんだかんだ言って薫さんの料理を食べなければ一日が始まらない。
「そういえば、最近物騒になってきてますから、気を付けてくださいね。」
「何かあったんです?」
味噌汁を飲んでいると、薫さんが話を切り出した。
うん、今日もいい出汁がでてる。
「私も詳しくは知らないんですが………。何やら通り魔事件が多発してるらしいですよ?」
「ふーん。この平和な街でねぇ。」
自分の住んでいる街はそういった事件や事故とは縁遠い場所だ。
平和すぎて交番のお巡りさんは書類仕事が得意になったと愚痴を言うほどだ。
「ん、ごちそうさまでした。今日も相変わらず美味しかったです。」
「はい、お粗末様でした。」
まぁ自分には関係ないだろう。
「あ、そうだ。今日帰りに道場に寄ってもいいですか?」
「構いませんよ。今日は子ども達も来ないですし。」
薫さんは近所にある道場で剣道の師範をしている。
自分も運動不足解消も兼ねてたまに稽古をつけてもらっている。
ちなみに薫さん、めちゃくちゃ強い。
「………よし。」
制服へと着替えて登校の準備を進める。
「はい、お弁当です。忘れ物はありませんか?」
「ありがとうございます。特にないと思われます。」
「もう、暁くんったら。先程も言いましたけど、気を付けてくださいね。」
「はーい。」
薫さんに見送られながら、扉を潜る。
今日も何気ない日常が始まる。




