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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
魔払い
62/277

ネイカの交換条件

気が付けば、私は見知らぬ泉のそばにいた。

外は真っ暗でやたら寒い。

ざわざわと近くで木が揺れる音も聞こえる。


「…んん」


体を起こすとすぐ近くから鋭い声がした。


「動かないで」

「え…」


振り返ると目の前に何かを突きつけられた。


「そのまま座っていなさい」


暗闇でシルエットしか見えないが、この声が誰なのかは分かる。


「…ネイカ?」

「そうよ。死にたくなければ大人しくすることね」


は?

意味が分からない。

とりあえずここはどこだ。


記憶を辿っているとがさがさとこっちへ近づいてくる足音が聞こえた。


な、なに。

なになになに。

びびっていると誰かが私の隣にどさりと座った。


「…起きたのか」

「そ、その声はファッセさん」


とりあえず知った顔にほっとしたがまだ状況は謎だらけだ。


「え…っと、確か私は魔払いを受けてどこかの部屋で休んでて…」


そうだ、ピアが来て逃げることになったんだった。

夕日のバルコニーに出て…それから??


「私があんた達を脱出させてあげたのよ」

「へ?」

「エアラを使ってね」


エアラ。

あのうつぼか。

そういえばあのバルコニーで何かに覆い被さられたような…。


「ピアさんは?」

「姉さんなら大丈夫でしょ。姉さんは私と違って皆にちやほや可愛がられてるから多少問題起こしても無罪放免よ」

「あんたねぇ…」


目が慣れてくると私に杖を突きつけながら睨んでくるネイカが見えてきた。


「ミリの言う通り、姉さんは確かに数少ない私の味方だわ。でもね、私は姉さんが昔から大嫌いなの。だってそうでしょう?姉さんは私より先に生まれたくせにエアラに取り憑かれなかった…。その上美人で頭もいいなんて不公平にもほどがあるわ」


これはやっぱり相当捻くれてるな。

ネイカはずっと周りに姉と比較されてきたんだろうか。


「一族も神殿の人たちも大大大大嫌いよ。だから私、いつかは神殿を抜け出してやるって決めてたの」


ずっと黙って聞いていたファッセが口を挟んだ。


「逃げ出してどうするつもりだ」


ネイカはふんと鼻を鳴らした。


「そんなこと、今から考えるに決まってるじゃない。何せ神殿を出たの自体今が生まれて初めてなんですからね」


ん??

何か引っかかったぞ今。

私は嫌な予感を抱えながら最初の疑問を口にした。


「あの、ここってどこ?」

「神殿から二つ先の村はずれよ。まだ一応ベルモンティア国内。もう少し山を越えたら国境」

「そんなに神殿から離れたの?」

「だって私は顔を見られたらすぐにバレるじゃない」

「…」


つまりあれですね。

ネイカは私たちを逃がすという口実をつけてずっと狙っていた脱走劇を実行したと。

気付いたのは私だけではない。

ファッセは立ち上がると怒り任せに怒鳴りつけた。


「お前の馬鹿な遊びに付き合っている暇はないぞ!!神殿から二度と出られないなどというのも嘘だったのか!?」

「嘘じゃないわ。あそこにいれば下手すれば今頃密かに殺されてたかもね」

「それを全て信じろと!?」

「信じないなら今すぐ戻ってみれば?次捕まったら私たちじゃもう助けられないわよ?」


ファッセはぐっと詰まった。

嘘だと決めつけて動くにはリスクがありすぎる。

ネイカは勝ち誇ったようにくすくすと笑った。


「ねぇミリたちはまたすぐにベルモンティアを出るんでしょう?そこに私も潜り込ませてよ」

「そ、そんなこと…」

「断ることは出来ないわよ。断ればミリの命に関わるんだから」


ファッセは警戒して私の前に立ったが、ネイカは暗い笑みを浮かべた。


「私は何もしやしないわ。ミリはまだそのまま放っておけば死んでしまう体だっていうこと」


ネイカは杖で私の左腕を軽く打った。


「あんたは平気で動き回ってるみたいだけど、魔払いにの後は本当に危険な状態なのよ。たとえ黒魔女でもね。しばらくの間はこうして癒しの力を注がないと命に関わるわ」


ネイカはただ私の方に杖を向けているだけだ。

なんかそれらしく光っていたり温かいものを感じたら納得もいくが、そういった変化はない。


「ミリ、これは交換条件よ。私はあんたが完全に回復するまで面倒を見る。代わりにあんたは私を連れて行きなさい」


私が返事をする前にファッセが舌打ちをした。


「イザベラ姫、こんな奴に構うことはない。さっさとオルフェ様の所へ戻るぞ」

「でも…」


ファッセは私の手を掴んだが、目が合うとパッと離した。

それから傍目にも分かりやすいくらい葛藤し始めた。

きっと黒魔女である私を王子の元に連れて帰るべきか悩んでいるのだろう。

しばらく低くうなり続けていたファッセは苦々しく言った。


「…イザベラ姫」

「はい?」

「オルフェ様は全て分かっていながらそばに置いているのだな?」


ここは下手に誤魔化しても仕方がない。

私ははっきり頷いた。


「はい。でもこれだけは言わせてください。私が黒魔女だとオルフェ王子が知ったのは、初めて王宮で会った時です。王子が私を側室の中でも特別扱いをするのは私を監視するためです」


決して邪な思いでイザベラ姫を側室にしたのではないと強調したが、ファッセはまだ疑り深く見下ろしてくる。


「では何故お前はオルフェ様に黒魔女だと明かした?」

「明かしたというより、バレたんです」

「会っていきなりあの悪魔を見せたのか」

「いえ。えと、なんて言うか…」


長い本名を名乗った途端そこに隠された黒魔女を指す名を看破されたんだけどな。

でもこれを言えば芋づる式に私が本物のイザベラ姫ではないことまで分かりそうだし…。


「えと、王族は教養の一環で古代文字とその文明を学ぶじゃないですか。そこからヒントを得て見破られたんです」

「…なるほど」


かなりぼかしたが、王宮育ちのファッセには大いに納得のいく理由だったみたいだ。

質問をやめるとまた何やら考え出した。

内心次に何を言われるのかとひやひやしながら待っていたが、ファッセは意を決し顔を上げた。


「分かった。オルフェ様自身に正当なお考えがあるのならば俺が口を出すことはない。お前もその女も王子に渡して扱いの判断はお任せする」


よ、よし。

やっと石頭なファッセを説得したぞ。

私があからさまにほっとしていると、ファッセは念を押すように言った。


「ただし、お前たちが魔の使いだという事実は常に俺の心に留めておくからな。王子含めお前たちが不穏な動きを見せたら黙ってはいないぞ」

「うっ、は、はい…」


こわいこわい。

石頭ってこういうのを言うんだなきっと。

成り行きを黙って見ていたネイカは私に一歩近づいた。


「話はついたようね。で?どうやってその王子サマと合流するつもり?神殿には帰れないわよ」


そうだった。

オルフェ王子は私を迎えにくるために今頃神殿にいるはずだ。


「どうにか私たちがここにいることを王子にだけ伝えられないかな」


向こうの動きが分からないだけに下手に近づくことは出来ない。


「俺が身を隠しながら行こう」


ファッセが提案したがネイカが止めた。


「無理よ。神殿まで戻れば流石に貴方でもバレるわ」

「その時はその時だ」

「あんた騎士のくせに無謀に動くことしか考えられないの?偉そうなのは態度だけね」

「貴様!!愚弄するか!!」


ネイカとファッセは激しく衝突し始めた。

まぁこの二人の気性を考えれば合わないわな。

それにしても本気で王子と連絡を取る方法を考えないと。

こんな時最も頼りになりそうな人を思い浮かべると、同時に名案が閃いた。


「そうだ…!!もしかしたら」


私は立ち上がり夜空を見上げると指をくわえた。

それから精一杯息を吸って空高く指笛を鳴らしてみた。


この時間なら、外に離されているはず。


夜空からは何の応えもなかったが、私は諦めずにもう一度指笛を鳴らした。

喧嘩をしていた二人は揃って怪訝な顔になった。


「指笛…?」

「はしたないぞ、イザベラ姫」


私は構わず指笛を鳴らし続けた。


おいで。

おいで、こっちだよ。

私はここ!!


ピィーと澄んだ指笛が風に乗り空を舞う。

しばらく経ったが、やはり空からは何の反応も返ってこなかった。


「全く、何やってんのよミリ…」


ネイカが呆れて言ったが、その時明るく光る月が一瞬陰った。

続いて甲高い鳴き声が夜空に響く。


「な、何…!?」

「あれは…!!」


鳥よりも鋭い羽音が星空から聞こえたかと思うと、それは一気に急降下してきた。

今度はさっきよりかなり近い場所で鳴き声が響く。

私は精一杯両手を伸ばした。


「…っ、サクラ!!」


名を呼ぶと同時に腕の中にばさりと音を立ててサクラが飛び込んできた。

サクラは嬉しそうに鳴きながら体全部で甘えてきた。

ずっしりと重い手応えが何だかすごく愛おしい。

だが喜びも束の間、サクラを抱いた私の体は熱を渦巻くと一気に魔力がサクラに流れた。


「あ…」


私は立っていられずにその場に崩れ落ちた。


「イザベラ姫!?」


ファッセが手を伸ばすもサクラが警戒して唸り私に近づけようとはしない。

私はぶっ飛びそうな意識を何とか保ちながら顔を上げた。


「あ、だ、だい、丈夫。いつものことだから…」

「何故ドラゴンがこんな所に!?」

「私が、呼んだから」

「まさかさっきの指笛か!?」


私は答えるのも億劫で、なんとかサクラの頭を撫でながら力を振り絞った。


「サクラ…。れ、レイを呼んできてくれる?」


サクラは首を傾げながら私の頬を舐めた。


「いい子。私の言うこと、分かるよね」


何とか笑いかけるとサクラはまた甘えるように私に頭をこすりつけた。

それから羽を広げると腕からすり抜けて空に上がった。


大丈夫。

サクラなら、きっと。


私はサクラの羽音が聞こえなくなるまでは空を見上げていたが、静けさが戻るとそのままぱったりと草の上に伸びた。

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