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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
魔払い
63/277

レイ合流

夕日が落ち、サクラを空へ返したレイはしばらく町を注意深く観察しながら歩いていた。

ミリがいなくなってから、やはりというか、これといった問題はひとつも起こりはしない。

それだけに逆にそばを離れたオルフェ王子のことが気がかりでならなかった。


「問題なく魔払いを済ませてればいいが」


ベルモンティアならここから馬を飛ばせばすぐに駆けつけることが出来る。

いっそのことこっそり様子見でもしに行くべきかと思案していると、ベッツィが慌ててこっちに走ってくるのが見えた。

燃えるような赤髪に高身長なベッツィは人混みにいてもよく分かる。

レイは足を止めた。


「おぉい!!レイ!!」


ベッツィは息をきらせながら文句を言った。


「はぁはぁ、探したぞこの野郎」

「何か用か」

「何かって…」


ベッツィは呼吸を整えると不満顔になった。


「大体、ちょっとくらいお前も団体行動しろよ。外国だと一人じゃ何かあっても対処できないぞ」

「問題ない」

「またそれか。腕が立つからってそれじゃ出世しないぞ。大体フィズがいなくなってからお前更に俺たちと距離置いてないか?」


フィズはルーナ国で魔物男を捕まえた時に知らぬ間に魔物の傷を負っていたということにしてある。

この先どう転ぶのかが分からないので、ベッツィ達には一応清めが済めば戻ってくるとは言ってある。

レイはそのことを深く突っ込まれないようにわざと距離をとっていたが、そうでなくても元々他人と慣れ合う気はなかった。


「で、要件は?急いで俺を探しにきたほどなんだろう」

「そうだ。そうだった!!」


ベッツィはぽんと手を叩くと声を潜めた。


「ベルモンティアにいるソラン様からお前にすぐに来いと個人的に呼び出しがかかってるって団長が…」

「貴族騎士のソランが?俺個人に?」

「理由は告げられていない。ただ一刻も早くとのことだ」


ソランとは個人的な関わりはない。

それが名指しで来いということはオルフェ王子の指示の可能性が高い。

そしてわざわざ腹の探り合いをしている貴族騎士を介す時点で何かあったに違いない。


「あ、レイ!!」


レイは舌打ちを一つ残すと風のように走って行ってしまった。

ベッツィはあっという間に人混みに消えたレイをぽかんと見送った。


「よう、ベッツィじゃねえか。何してんだそんな所に突っ立って。今のレイだろ?」

「ビオルダさん…」


ベッツィは振り返ると頭をがりがりかいた。


「その、あいつ。ちょっと謎すぎません?」

「あいつって、レイのことか?」

「フィズといる時はちょっと変わった奴だなくらいにしか気にかけなかったけどさ。あいつ一人だと妙に人離れしてる感があるというか…」


ビオルダは呆れて言った。


「そんなこたぁ今更だろ。あの頭の良さと腕の冴え、体力と滲み出る品性はどれひとつ取っても年齢に合わん」

「それでもフィズといる時は…」

「フィズ、フィズって。お前はフィズしか見とらんから気付かんかっただけじゃないのか?」


ベッツィは真っ赤になると首を大きく横に振った。


「や、やめてくれよ!!変な意味に聞こえるじゃないか!!」

「わはは!!何を慌てとるか」

「もう、いいです!!レイだって別にどうでもいいし!!ビオルダさん、飲みに行きましょう!!」

「おぅ、そうしようか」


ビオルダは肩を怒らせるベッツィをなだめながら賑やかな町をぶらぶらと歩いた。


一方、飛ぶように人混みを駆け抜けたレイは町の馬小屋へと向かっていた。

本来なら団長に一言断ってからベルモンティアに向かうのが筋だが、自分はセスハ騎士団ではないので無視することにした。


騎士団の名で馬を半ば無理やり借り、ベルモンティアとの国境を目指す。

関所を通過する手間も省きたい所だがソランからの正式な呼び出しとあれば記録が残らないのはまずい。


「面倒だな…」


歯噛みしながら馬を飛ばしていると空から聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。

それは滑るように降りてくると馬と並んで飛んだ。


「サクラ!?俺は呼んでいないぞ!!」


サクラはレイの周りをせわしなく飛び回った。

それは明らかに何かを訴えている。

レイは馬足を緩めた。


「どうしたっ。今は無駄に付き合ってる暇は…」


サクラはレイの服を加えると何度も引っ張ってきた。

レイは見たことのないサクラの様子を軽視はしなかった。


「…ミリか?」


嫌な予感がして聞くと、サクラはレイの服を離し急くように鳴いた。

レイは馬上で頭を抱え込みたくなった。

王子からの奇妙な呼び出しと、ミリのSOS。

これが無関係とは到底思えない。


「…あの、馬鹿が!!」


レイは闇の中に一喝を落とすと手綱を握り返した。


「行け、サクラ!!案内しろ!!」


サクラはピィーと甲高く鳴くとレイを誘導するように飛んだ。




ーーーーーーーー




サクラを待つ間、私はファッセの怒涛の尋問により干からびていた。


「だから、何故お前がドラゴンを操れる!?あれはアルゼラの少年のドラゴンか!?」

「ふぁえ…?」

「ええい、応えぬかこの黒魔女めが!!起きろ!!」


サクラに力を根こそぎ持っていかれて気絶しそうなのになんだこの容赦のなさは。

ネイカは私に杖を向けたまま頭元に座り込んだ。


「私ドラゴンなんて初めて見たわ。あれはミリのペットなの?」

「ふぇ…?」

「いいなぁ。私もあれ欲しい」


ファッセは邪魔そうにネイカを軽く手で払った。


「どけ。俺はこの黒姫にまだ話がある」

「何よ、偉そうに」

「なんだと!?」

「役立たずのくせにほんと態度ばっかり偉そうなんだから」

「貴様がそれを言えるほどか!?」


二人は火花を散らしながら睨み合い、また喧嘩を始めた。


うう…やめてくれ。

こっちは力尽きそうなんだ。

尋問も喧嘩も勘弁して。


吹き抜ける夜風は肌寒い。

このままじゃ風邪を引きそうだ。

でも体は動かないし、誰も気遣ってくれないし…。

結局私は一人体を丸めてサクラが戻るまで耐えに耐えるしかない。

ファッセとネイカが息を切らせながら一通り悪態をつき終え、一体いつまで待たなければならないのかと思い始めた頃、遠くからさっきと同じ鳴き声がした。


「あ…サクラ!!」

「戻ってきたようだな」


サクラの声が近くなると、馬蹄の音も聞こえてきた。

それはみるみる私たちに近づくと嗎をあげて止まった。


「ミリ!!」


待ち続けていた声が聞こえると堪えていたものが一気に緩んだ。


「れ、レイぃ」

「ミリ、どうした!?」

「大丈夫…これは、サクラに魔力持ってかれてひっくり返っただけだからぁ」


レイは馬から飛び降りると横向きで寝転がる私をごろりと仰向けにした。

脈と呼吸、体の冷え具合と顔色を一瞬で確認するとざっと辺りを見回す。

とりあえず今すぐ緊急を要することはなさそうだと判断すると、レイは小さく吐息をこぼした。

ファッセはサクラが連れてきたのがただの少年従者だったことに眉を吊り上げた。


「これは、どういうことだイザベラ姫!!こんな従者一人連れてきたところでどうするつもりだ!?」


レイはファッセの顔を確認すると一礼した。


「これは貴族騎士のファッセ様。俺の顔をもうお忘れですか」


言われてファッセは改めて目を凝らしてレイの顔を見た。


「お前は…あの時のケイド・フラット一族の小僧!!」

「覚えて頂き光栄です」


ケイド・フラット一族…?

白聖女の何とか一族とか、大貴族の何たら家とかもうややこしくて覚えられないって。

ぼやける頭でそんな事を考えているとレイに力任せに体を起こされた。


「ミリ、魔払いはちゃんと済んだのか?なぜこんな場所にいる」

「魔払いは、い、いちおう終わった…」

「一応?どういう事だ」


レイには全て話したい。

でも体が言う事をきかない。

口だけぱくぱくしていたが、レイは今聞き出すことを早々に諦めると私を横抱きに抱え上げた。

それから見知らぬ少女に向き直るとはっきりと顔をしかめた。


「おまえが誰なのかは知らんが、これ以上厄介なのはいらん。去れ」

「な…」


ネイカは怯みそうになった手に力を込めた。


「わ、私が今離れたらミリは死んじゃうんだからね!!」

「ミリが?」


私はレイに見下ろされて力なく頷いた。

ファッセは低い声で捕捉した。


「この女はイザベラ姫が魔払いで負った精神ダメージを癒す役割を担っているそうだ」


レイは疑り深く二人を順に見た。

私はレイにきゅっと掴まった。


「今、神殿にオルフェ王子がいるけど、わ、わたしたち、事情があって、神殿に、戻れなくて…」


ぜぃぜぃ言いながら懸命に伝えていると、レイは私を抱え直した。


「分かった。とにかく休息が先だ。どこか落ち着ける場所に移るぞ」

「うん…」

「神殿には近づかない方がいいんだな?」


これはファッセへの確認だ。

ファッセはレイが信用できないのか、しばらく躊躇いながらも頷いた。

レイは少し考えてからまずサクラを空に返した。

それから西の方向に目を凝した。


「村はずれに小さな集落もある。そこまで下って部屋を借りれるよう交渉する」

「この俺に…田舎の民家に宿泊しろと!?」


ファッセが怒りを見せたがレイは鼻であしらった。


「ここで朝まで野宿したいのであればご自由に」

「この…」


レイはファッセを無視してネイカを振り返った。


「馬には跨がれるか」

「…手綱を持っていてくれるならね」

「充分だ」


レイは先に私を馬上に押し上げるとその後ろにネイカが乗れるように調整した。

ネイカはかなり嫌そうだったがしぶしぶ私と二人乗りになった。


「ミリを支えてやれ。ミリ、少しの辛抱だ。落ちるなよ」

「は、はぁい…」


レイはきびきびと動くとさっさと歩き出した。

やっぱりレイがいると心強い。

私は馬に揺られながらすっかり安心して目を閉じた。

そしてついに力つきそのまま意識を失った。

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