八十二話 お話を聞く前に
皆々様お久しぶりです木崎咲です。
連絡もなく一月も開けてしまい申し訳ございませんでした。
GWでストックができていればよかったのですが……。今後も不定期更新が続きます。ごめんなさい
シャーリィ延命措置から半月が経過した。
広い城にもようやく慣れ、廊下で迷子になることも減ったころ。
ミカは城の主である魔王に呼び出された。
場所は当然王の間だ。
既にそれなりの期間この城に居るミカはこの城の住人としての登録をしており、王の間への仕組みを解くことなく移動することが可能となっていた。
可能とはなっていたが、そもそも呼び出された事がこの城に来たときの一度しかなく、その時もリューリティティの転移によって訪れていたために実際の場所はわからない。
なのでミカはリューリティティの居る図書館へと向かっていた。
前回のように転移で送ってもらうために。
「ん?」
その図書館までもう少し、といった所で見覚えのある顔を見つける。
顔の作りはそっくりだが、肌の色、髪の色が違うために間違うことはない。
シャーリィだ。
彼女の姿を見てミカは少し驚く。
たった半月前まで歩くどころか立つこともできなかった少女が、一人で廊下を歩いていたのだ。
「ミカ!」
少しして彼女もミカの事に気がついたらしく小走りで駆け寄ってくる。
ふらつく様子もなく、殆ど普段通りに動けているようだ。
ミカは彼女に片手を上げるだけの軽い挨拶をして、そのまま素通りしようと思っていたのだが、彼女の方からミカにぶつかってきた。
そのままガシッ、と抱きつかれ、身動きを封じられる。
「今、妾を無視して行こうとしたでしょ?」
「遅れるわけにはいかない用事だからね。下手したら死ぬ」
「……この半月来なかったのは?」
「忙しかったから」
ボスッと腹を殴られた。
距離が近いので大した威力はない。
「それで?用事って何?」
先程まで不機嫌そうに顔を膨らませていたのだが、今は少し嬉しそうに笑みを浮かべてミカに話しかけてくる。
表情がコロコロ変わるなぁと思いつつ、ミカは抱きついてきている彼女を自身の体から引き剥がす。
ミカの力で引き剥がせたことからわかる通り、完全に復調した訳ではないようだ。
「魔王様からの呼び出し」
もしくはこの一言に驚いて力を抜いてしまったのかもしれない。
そう思ってもおかしくないくらいの表情を彼女は浮かべていた。
「……間に合わなかった?いや、体は動かせる。問題無いわ」
「何の事?」
「何でもないわ。妾は用事があるから。頑張ってね。ミカ」
「頑張る?」
何を?とミカは思ったのだが、それを口にする間もなくシャーリィは小走りで何処かへと行ってしまう。
彼女の言葉を聞いて何か大切なことを忘れているような気がしたミカだが、時間は刻々と迫って来ている。
正直余裕はあまり無い。
ミカはとりあえず考えるのを後回しにして図書館の扉を開いた。
彼はこの時の事を思い出す度にこう告げる。
『避けられないとはいえ、せめて思い出しておくべきだった』と。
◇◇◇◇◇
今、ミカの目の前には二つの異形が立っていた。
場所は王の間中央。
周りにはギャラリーのようにして魔族の方々が興味深げに覗いている。
「さぁ。選ぶといい」
ミカの目の前、その片方、二メートル近くの獅子が二足で立っているような存在が、その好戦的な瞳でミカを見下ろしながら、
「儂等はどちらでも構わんぞ?」
もう片方、三メートル近くの巨体で黒い肌で額に二本の角を持った存在が、まるで何かを見極めるかのように赤い瞳でミカを見下ろしながら問う。
そんな視線にさらされ、ミカは憂鬱な表情でため息を吐く。
ミカとしては当然どちらも嫌だ。
だが、話を聞くためにはここで立っていないといけないらしい。
つまり、彼らのどちらかと闘えと言われているのだ。
情報を得たいのならば力を示せ、ということだろう。
ミカは忘れていた。
ここの王は会話を始める前に、余興として戦闘を行わせる狂った存在だった事を。
ミカは逃れられない現状に深くため息を吐く。
どうやってもここに来た時点で闘わないという選択肢は無くなっていたのだ。
「では、両方同時にお願いします」
ミカはしっかりと二人を見据えてそう宣う。
「…何?」
「…ほぅ?」
その言葉に魔族二人は視線を鋭くした。
舐められている、とでも思ったのだろう。
周りの魔族もミカの事を笑うものばかりだ。
「強がるのは好感が持てるが、止めておけ。死ぬぞ?」
「若い頃に無理をするのは構わんが、限度があろう?ましてや、お前さんは人という脆い種族。ここで無理することはなかろう」
本来であればこのような強者相手、片方を選んで適当に負けて終わらせるところなのだが、今回ばかりはそうはいかない。
今回の情報は弟に関することなのだから。
「いえいえ。無理はしていません。二人なら勝てますよ」
普通、二対一より一対一の方が戦いやすい。回避も攻撃も相手一人に集中できるのだから当然だ。
だが、ミカはその当然が当然ではない。
彼等はミカより強者だろう。ミカにとって一対一では勝率が低い。
だから二人を同時に相手する。
これは勝利を諦めたからアピールの為に、等ではもちろんない。
ミカにとって、二人を同時に相手することが、最も勝率が高いのだ。
ミカは彼等に勝つ気でいる。
それが彼等にも分かったのだろう。面白い、と言いたげに好戦的な笑みを浮かべている。
「良いだろう。相手を認めるときは名を名乗ると聞くが、俺に名はない。この城では獣種の大半を束ねてる。他の種族からは獣種のリーダーや獣種の隊長と呼ばれてるから、好きな方で呼べ。一応加減はするが、死ぬなよ?」
「儂はロウ。同じく同族の大半を束ねておる。加減はちと苦手でな。恨まんでくれよ?」
「これはどうも御丁寧に。自分はミカと名乗っております。死なないよう頑張らせていただきます」
それぞれが名乗りを終えて構える。
三人ともが武器を身に付けているにも関わらずそれに手をかける様子がない。
ミカには素手が一番戦いやすいスタイルだからだが、魔族二人は武器という重石を背負った状態で戦うというハンデを付けているつもりのようだ。
ミカはそれを感じて少しだけ構えを弛める。
これは相手に合わせて手加減をするつもり、というわけではない。一撃食らえば終わりなのだからミカにそんな余裕はない。
武器を扱わないということは自ら近づくことなくカウンターが狙えるということ。相手にこちらの行動を回避されないよう、より深く踏み込ませる為にわざと隙をつくっているのだ。
「では、始めよ」
頭上より魔王の声が王の間に響く。
それを合図にまずロウが飛び出した。
五メートルほどあった互いの距離をたったの一歩で詰めミカへとその拳を振るう。
速度ではなく体重を乗せた一撃。彼にとって五メートルという距離はただの踏み込みで埋められるものらしい。
その事に改めて相手の非常識さを認識しつつミカも一歩、ロウの方へと踏み込む。
そのままロウの前腕部を両手で掴み、力の流れに逆らわないようにして少し引き、くるりと半回転。
中腰のロウの片腕に抱えられているような姿でこちらに向かってきている獣種のリーダーと向かい合う形になる。
獣種のリーダーは避けられた時の時間差攻撃を狙っていたようだ。
「っ?」
ミカはぐるりと視界が変わったことに混乱しているロウの鼻っ柱に裏拳を入れ、全ての指を弾くように、デコピンの要領で目潰しも同時に行う。
上手いこと人差し指と小指が両目に当たったらしく、怯んだ隙にスルっとロウの腕から抜け出る。
直後に獣種のリーダーによる、前宙によって勢いを着けた踵落としが襲ってくるが、それをスレスレで回避し、肘打ち、ローキックと連撃を叩き込み、全力で横に跳ぶ。
少し遅れて獣種のリーダーも背後に跳び、直後に二人がいた場所にとっさに振るったのであろう乱雑なロウの拳が振るわれる。
「……ははぁ。なるほどな。武器を持ってたら俺は今ので終わってたって訳か」
「武器を持っていたらそもそもあの構図にはなりません」
「……ほぅ。儂は武器として扱われた、というわけか。なるほど。お前さんが同時に相手することを選んだ理由がこれか」
ロウの問いかけにミカは笑みを浮かべて問い返す。
「さて。続けますか?」
「「当然!」」
「うわい即答」
ミカがそうぼやいたときには既にロウが目の前に、そして、獣種のリーダーは背後に回ってきていた。
彼らの瞳から強者特有の慢心が消えている。
武器を手にしない事から手加減は継続するつもりのようだが、油断は消えたようだ。
思ったよりも早い切り替えにミカは焦りを感じる前に感心する。
戦闘狂のような言動でスルーしていたが、彼等は一応隊長だ。
冷静な判断をする程度の頭はあると考えて然るべきだった。
御しやすいと舐めていたのは自身だった、と反省しミカも意識を切り換える。
彼等は先ほどとは違い連携を取ってミカへと襲いかって来た。
ロウの拳を避け、獣種のリーダーの足蹴を避け、直ぐ様襲ってくるロウの拳を再度避け、獣種のリーダーの噛み付きも避ける。
時には位置を入れ替えながら襲ってくる攻撃にミカは回避をし続ける。
「どうした!逃げるだけか?」
攻撃が掠りもしないことに堪えきれなくなったのか獣種のリーダーがミカを挑発し始める。
「では、失敬して」
そう言ってミカは獣種のリーダーの回し蹴りを下から蹴り上げる。
が、ミカの力では彼の蹴りを止める事などできない。それは当然のこと。
なので、ミカの攻撃は回避と同時だ。蹴り上げは獣種のリーダーの射程から逃れるよう後ろに跳びながら放ったもの。
本来の実力でさえ止められないのに後ろに跳びながらで威力の下がった蹴り上げだ。獣種のリーダーにとっては小石を蹴った程度の誤差でしかなく、ミカの胸スレスレ辺りを通過する。
そして、獣種のリーダーの回し蹴りに足を当てたミカは当然その運動エネルギーの一部を受け取ることになり、自身の足に引っ張られるようにして空中で半回転。
それでも何とか地に足を着けたミカだが、直後に体が黒い影に覆われる。ロウの拳による降り下ろしが迫って来ているのだ。
直ぐ様ミカは獣種のリーダーから受け取ったエネルギーを失わないよう回転し、獣種のリーダーを蹴った足とは逆の足でロウの腕を蹴りつけ、ほんの少しだけ速度の落ちた拳をギリギリで回避する。
(あっぶなぁ……。まだ読みが甘かったか、な?)
想定よりも近い位置を通過した拳に冷や汗を流したミカは直ぐ様しゃがむ。
その頭上に背後からの回し蹴りが放たれ、ミカの真上で踵落としに変化する。
それを前方に転がるようにして回避。
回避した先、その正面には既に拳を構えたロウが、背後でも追加の蹴りを加えようと溜めを作っている獣種のリーダーがそれぞれミカへと止めの一撃を放とうとしていた。
タイミングは完璧だ。
ミカは両者に掌を向けられるよう横を向き、片足で地に立つ。
案山子のような間抜けな構え。だが、突っ込むものは誰もいない。そもそもそんな暇はない。
構えた直後にはミカへと両者の攻撃が迫っていたのだから。
「奇怪の独楽」
ミカはロウの手首と獣種のリーダーの足首を同時に掴み、両者の攻撃の勢いを利用して若干斜めに回転。
ロウを地に叩き付け、その上に獣種のリーダーを叩き付ける。
「グッ!」
「ガアッ!」
奇怪の独楽は両相手の手首(足首も可)を攻撃の勢いを殺さないようにして掴み、片方を地に捨て、もう片方を上から叩き付ける裏神月流の技。
上の相手が武器を持っていた場合は下の相手の背中へ上の相手の武器を突き刺す殺し技に変わる。
今回は獣種のリーダーが武器を持っていなかったが、ロウはトゲ付きの棍棒を背負っていた。そこにかなりの勢いで獣種のリーダーを叩き付けたのだ。
両者共に大きなダメージを与えた筈だ。
ミカは『もういいでしょ?』という視線を魔王に向ける。
「そこまで」
試合を止めた魔王の声は、平坦な、楽しくなかったとでも言いたげな声だった。
~一月もかかってしまった言い訳~
止めの一撃で相手の拳を片方の手で受け、逆手でもう一方の相手に衝撃をそのまま通して吹き飛ばすというものを想定していたのですが、ふと気付いたのです。
ミカ、162cm
獣種、210cmほど
ロウ、300cm無いくらい
体格差がかなりあるから腕届かなくない?と。
戦闘シーンほぼ書き直しました。
以上
言い訳でした




