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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
七章 シャーリィ
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閑話八

今回、結構スラスラ書けた!と思ったのですが、前回の投稿から普通に10日以上過ぎてました。


これでスラスラ書けたと思っていたとか、ヤバイですね。

「……珍しいな」


 暗い、目が慣れなければ足元すら見えない程に暗い洞窟の中で男性の声が響く。


 周りには何も、それこそネズミ一匹、虫一匹すら居ない不気味な空間。


 そこに一人、男性が座っていた。


 彼の目の前には薄ぼんやりと光る水晶の玉が置かれている。


 何がしたいのか、彼は水晶の玉を撫でたり、叩いたりしている。


 彼が一言呟いてからおよそ十分後に水晶の光が明滅し始め、女性の上半身が水晶の上に映し出された。


『申し訳ございません。少々立て込んでいまして……』


(あね)さんが遅刻するのは珍しいな。何か問題でもあったのか?」


『……(あね)さんは止めなさいと何度言えば分かるのかしら?』


「そう言わなきゃ(あね)さん、ずっと堅苦しい言葉遣いしかしねぇじゃねぇか」


『私はメイドなの。堅苦しいのは当たり前よ』


 そんな男にとって何時ものやり取りをしていると、不意に少し遠くから声が聴こえた。


『ラナ?なにそれ?』


『お嬢様』


「お嬢様ぁ!?」


 男性の声がシンとしていた洞窟にこれでもかと響く。


 男は慌てて口を塞ぎながら横に置いてあったお香のようなものを確認する。


 そのお香―――魔除けの道具は正常に働いている。


 その事に一安心して、男は女性―――ラナの方へと視線を戻す。


 水晶の上にはラナともう一人、男もよく知っている顔が映っていた。


「おい、ラナ。何で誘拐されたアクリア皇女がそこにいる。というか、そこ何処だ?何時もの所じゃねぇよな?」


『ええ。ここは墓場の森です』


「は?アンデットの巣窟じゃねぇか。つうか、城からどんだけ離れてんだよ」


 墓場の森。


 アンデット系の魔物が恐ろしく多い森だ。


 右を向けばグールが、上を見ればゴーストが、左を見れば鬼火が、下を見ればスケルトンが、と言った具合に。


『ここなら誰も来ないでしょう?』


「……確かにそこなら人は来ねぇだろうな。内緒話にゃうってつけの場所だ」


 アンデット系の魔物は場による強さに統一性が無い。


 縄張り争いのようなものが無いため弱いものから強いものまで当たり前のように同じ場所にいるのだ。


 その為、討伐に出るような者も少ない。


「だが、何で人が来ねぇと思う?お前なら知ってるだろ?何でそこが墓場の森と言われているかを」


 アンデット系の魔物は互いに争うことはしない。


 その為に様々な強さのアンデットが同一の場に存在する。


 統一性が無いからこそ、他の依頼とは難易度が段違いなのだ。


 そして、基本的にアンデット系の魔物は月日が経てば経つほど強くなる。


 そこに存在しているだけでマナを吸収し、強さを増していくのだ。


 その上、強くなったからといって見た目が大きく変わることもない為に、見ただけでは強さが分からない。


 例外は元が強者だったグールだけ。


 グールは時が経つほどに技を喪っていくため、存在が強くなっても技量を喪い相対的に弱くなる。


 グールは一度完全に技量を肉と共に喪い、スケルトンになってから強くなる不完全な魔物なのだ。


 そんなアンデットだらけの危険地帯にわざわざ来るような者など、死者は天に召されるべきだと考えるような神職者位のものだろう。


 もしくは、大切な者にもう一度会いたいなどと考えるような、現実を認識しない愚か者か。


「いや、答えなくて良い時間が勿体ない。そんなとこに居るんなら要件だけ手短に話せ」


 アンデット系の魔物は基本的に索敵能力が低い上に、夜しか行動せず、人里に来ることも少ない。


 街中に死体が放置でもされない限り、被害が生じることもない。


 だからこそ、誰もが放置する。


 誰もが近づかない。


 結果、誰も勝てないようなアンデットにまで成長してしまう。


 だが、強さに反して被害はあまりでないために封鎖をされるだけで終わる。


 教会の者を呼べばすぐに終わるのだが、場所一つにかかる費用はそれなりのものとなってしまう。


 その為、被害は無いからと費用削減のために放置する街は多い。


 そして、放置されたアンデットはより強さを増していくのだ。


 そのようにして封鎖された場所の一つが彼女達の居る墓場の森となっている。


 封鎖するだけで済むということは、逆に、そこから離れれば安全とも言える。


 だから男は彼女達の安全の為に話を手早く終わらせようと急かす。


『私達を魔族領の前まで運んで貰えませんか?』


「……となると、アストラムか。とんぼ返りになるな」


『アストラム?あそこは魔族に占領されてしまった筈では?』


「情報が古いな?既にそこを納めていた魔族は倒れた。今はもう魔族は居ない。少なくとも表向きは」


 そこまで言って、男は怪訝な表情を浮かべる。


「本当に何があった?お前がこの程度の情報を得られないのはおかしいだろ?」


 男はラナの実力を知っている。


 彼女が冒険者をしていた頃、いかに優秀だったかを知っている。


 彼女はどこで仕入れてきたのか、魔物の情報や盗賊の情報、最前線の近くにいながらにして王都の様子をも知っていた。


 そこらにいる情報屋より余程詳しかった。


 そんな彼女が、既に噂としても流れている話を知らないというのだ。


 男はラナの言葉、態度から裏を読もうと考える。


 彼女が本物だというのはこの魔道具を使用できていることから判明している。


 捕らえられたのではないか?何か大切な者を引き合いに出されているのではないか?


 と、男が心配した時だ。


『こっちの準備は終わったぞ。そっちはまだか?』


 映像の向こう側、ラナ達の方から知らない男の声が聴こえた。


「おい、他にも誰か居るのか?」


 これで、城の兵士や護衛の一人だと即座に返答があれば心配事が減ったのだが。


『……えっと』


 ラナは言って良いのかと悩む仕草を見せた。


 隣のアクリア皇女も背後を気にするように視線を逸らしていた。


 男の視線が鋭いものに変わる。


 魔族領へと行くのはお前の意思なのか、と視線で問いかける。


 ラナは視線の意味を正確に理解した筈だ。


『……』


 彼女は一瞬視線を逸らした。


 男はこれだけで、二択にまで絞り込めた。


 一つは王、並びに近い立場の者からの命令だ。


 彼女が従わなければならない相手など王族位しかいない。


 が、その場合護衛の兵士無しでアクリア皇女が居るのが不自然だ。


 もう一つは、何かしら人質、並びに近しいものを交渉に使われた脅しに従っているか、だ。


 実質、選択は一つだろう。


 何せ、アクリア皇女は誘拐されているのだから。


(となると、アクリア皇女を救いに来て、捕らわれたか。相手はそれだけの実力者っつうわけか……。さて、どうする?)


 男は彼女達を救えるか考える。


 ラナは自身より強者だ。


 そんな彼女が敗れた相手に勝てるとは思えない。


 で、あるならば、不意を突くしかない。


 と、色々と考えを巡らせていると、


『おぉ。すげぇ。立体映像じゃん』


 誘拐犯と思われる男が、何の警戒心もなく顔を見せた。


「は?」


『もうすぐ終わりますから。アキラ様。焚き火、は起こしているようなので、スープを暖めておいてください』


『えぇ~。何で俺だけ』


『私も手伝うわよ?』


『お嬢様。私が誰のメイドか忘れていませんか?メイドはお嬢様を働かせたりはしません』


『どーせ俺は平民ですよー。差別だ差別だー』


『いえ、アキラ様を蔑ろにしているわけではありません。できることならアキラ様にも休んでいて貰いたいのですが……』


『俺がやっとくと言ったが、その分は今終わったんだぞ?何で俺だけその会話に混じれない……あ、もしかして……逢瀬の邪魔したのか?』


『はぁ!?違っ!違いますからね!そんなことはあり得ません。絶対に!コレとは腐れ縁みたいなものです!本当ですからね!』


 男は唖然として彼女達の会話を聞いていた。


 予想していたものとは全く違う、楽しそうな会話である。


 だが、それよりも予想外なのはラナの態度である。


 アキラ、と呼ばれた男に必死になって否定の言葉を並べ立てる彼女の姿からはかつての凛々しさが見受けられなかった。


『……そこまで言うなよ。そいつが可哀想だろ。とりあえず、スープ作っとくわ。できたらまた来る』


 アキラはそう言って映像外に消える。


『ほ、本当に違いますからねっ!』


『ホイホーイ。分かってますって~』


 しばし、アキラの消えた方を見て唸っていたラナだが、男が軽く咳払いをすると、はっ、として男の方へと視線を戻した。


 男は視線で問いかける。


 どういうことか、と。


『さて、多分私達の状況は貴方が考えているものと大差はないと思います』


 ラナは何事も無かったかのように話を進めようとしていた。


「……マジで?(あね)さんが惚れた男に付い―――っ!?」


 男は先ほどの会話の風景から、その前までに考えていた可能性が全て吹き飛んでしまい、思ったままを口にしようとして、とっさに体を後ろに倒す。


 殺気の様なものを感じて咄嗟に回避行動を行ったのだ。


 少し長めだった前髪がハラリと落ちる。


 視線を戻して見ると、そこにはラナの姿が剣を振り切った姿勢で映っていた。


『ちっ。外したか』


「……は?おい、待て。何で斬撃が?ただの映像、だよな?」


『愚問だな。もしもの備えも無しに私が魔道具を渡すとでも?』


 彼女は冷たい瞳を向けて男を見下ろしていた。


 隣のアクリア皇女が怯えた目でラナを見上げているのだが、それに気づく余裕は男にはなかった。


「何をしたんだ?」


『映像に斬撃を込めた』


(あね)さん、人間止めたのか?」


『……そうか。死にたいのか。もっと近寄れ。その首、跳ねてやる』


「いや、仕組みが気になっただけだ。だから、ほら、剣を仕舞おうぜ?な?」


 男は魔道具、というより、ラナから距離を取る。


 ああ言われて近づく人間などいないだろう。


『……私の魔道具は少々改造されてるんだ。この魔道具との通信で映った者が―――誰かに渡すつもりはないから私だろうが―――何かを、魔力を込めた状態かつ一定以上の速度で振るうと映像の方にも斬撃を模した魔力が宿り、相手を裂く。宿るのは斬撃で固定されているから、棒でも、拳でも、平手でも斬撃として相手を裂く』


 そう言って彼女は足下にあったらしい木の枝を拾って振るう。


 あれも斬撃になるということだろう。


 残念ながら見た目では分からないし、自身が受ける気もないので本当かは分からないが。


『欠点は射程が短いこと。斬撃は映像に宿っているので映っている範囲しか届かないからな。あぁ、当然、実際の映像より範囲は広いぞ?だいたい私が手を伸ばした指先からさらに二メートル位といったところか?』


 映像に触れられる程の近距離で話す人なんて居ないだろ。とラナは笑う。


 ラナは美人なのだが、残念ながらこのタイミングでの笑みは恐怖にしか映らなかった。


『あと、もう一点。これはさっき気づいたんだが。私が見ているのも当然映像だから、距離感が分からない。普段なら外さないのに』


「外さなかったら俺の首がポーンだったんだが」


『鈍ってるな?今の軌道だと首ではなく頭部が飛んだ筈だが』


「比喩だよ。そのくらいわかるわ」


 男は笑みを作りながら受け答えをする。


 彼女の目が本気だった。


 何とか先ほどの会話を、冗談として流さなければならない。


 そう思い、わざとらしく明るく振る舞う。


「それより話を戻すが、俺が思っているのと大差ないってのは?こう言っちゃあれかも知れねぇが、さっきのやり取りを見てるとそうとは思えないんだよなぁ。実は国が皇女を逃がすために雇った、とかじゃねぇのか?」


『正真正銘、アキラは誘拐犯だ。国が雇った訳でもない』


「……にしては随分仲が良いよな」


『私も最初に見たときは驚いた。だから、お前の気持ちはわからなくもない』


「俺が言ってんのは(あね)さんの態度なんだが?」


『そこはほら。合流したらわかる』


「合流しなくてもわかる。春が来たんだなぁ~。あの(あね)さんに。年下か」


『……合流したら久々に稽古をつけてやろう』


「マジですんませんでした‼」


 バッ!と効果音が付きそうな勢いで男は頭を下げるが、頭上からの回答は冷たいものだった。


『合流地点はハナード北西の森。日の入りまでに来い』


「分かりましたから前言の撤回を―――ってもう切ってるし!」


 顔を上げてみれば、もう先程までの映像は消えていた。


「マジかよ死にたくねー。あぁ、せっかくバカみたいに儲かったってのに使えずに死ぬとかあり得ねーんだが」


 男は、はぁ~、と長い溜め息を吐きながらもてきぱきと道具を片付けて洞窟を出る。


 空には雲一つ無い満天の星空が広がっていた。


「幸運にも大会の上位三名を乗せる奇跡に恵まれたのは、この先、不幸しかないからか?……ヤッベー帰りてー」


 男はぼやきながら、武闘大会の送迎でも使用していた自身の大型魔動輪に乗り込んでいった。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「ラナ、貴方、そんな話し方もするのね。ちょっと驚いたわ」


「え?あ」


「別に私が相手だからって固くなる必要はないからね?楽な話し方で良いわよ?」


「わ、忘れてくださいお嬢様」


「何かさっきのラナ。格好良かったわ」


「か、からかわないでください」


「えー。格好良いわよ。(あね)さん」


「お嬢様!」


「スープできたぞ~」


「はーい。行きましょ。ラナ」


「絶対に話さないでくださいね。お嬢様」


「フフっ」


「お嬢様!」


上手く書けなかったのでここに追記しますが、アキラ達は墓場の森で何の問題もなく、普通に一夜を明かします。


アンデット系の魔物が襲ってこなかった理由については、後々に説明予定です。


大分先になりそうですが……。

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