八十話 デスサイス
大変遅くなってしまい申し訳ありません。
二週間以上も開けてしまいました。
お仕事が忙しくて忙しくて・・・。
愚痴になっちゃいますね。ごめんなさい。
本日本編80話目です。
正直言って、終わりが見えません。
こんなに長くなるとは・・・。
翌朝と呼ぶにもまだ早い夜中の時間帯にミカは目を覚ました。
早朝の鍛練、という訳ではない。
ただ、部屋の中という近距離で僅かに音がしたために目が覚めたのだ。
ミカは寝起き特有の気だるさを感じている様子もなくスルスルとベッドから出て立ち上がる。
何の音か、本当に鳴ったのかも疑わしい程に小さな音。
だが、ミカは警戒して部屋を見渡す。
そして、寝る前には無かった筈の異物を見つけた。
「うわ、マジか」
ミカは机の上に置かれている異物―――数枚の紙を手にとって呟く。
十中八九リューリティティ作の説明書だろう。
本当に朝までに終わらせた事に凄いと思うも、同時に、職場・魔王城は魔王の名に恥じないブラック企業なのかと戦慄するミカであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時間は早朝。
ミカは再度目を覚ます。
「あふぁ~~ふぅ」
夜中とは打って変わったけだるけな態度と表情でのそのそとベッドから這い出る。
ミカが一度起きたのは鍛練をするにも早すぎる時間だった。
だからミカは当然のように二度寝をしていたのだ。
「っあ~、キッツ」
何とかベッドから這い出た彼は体を起こし一度大きく伸びをする。
少しだけマシになったが、まだ彼の瞳は眠たげだ。
「……行きますか~」
寝癖は酷く、寝間着に着ていた甚平 (のようなもの)も大きく着崩れしていたが、それに気づく様子もなく、彼はベッド脇の剣を手に持ち部屋から出ていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ピュッ!と風を斬る音が中庭で響く。
振るわれた刃は空を舞い、朝日を反射して様々な光を見るものに写させる。
刃は何度も翻り、光の色が都度変わる。
幻想的な舞が十を越え、二〇を越え、ピタリ、と唐突に止まる。
いつの間にか光も消えていた。
刃が音もなく鞘に納められていたのだ。
剣の持ち主は足を肩幅より少し大きく広げ、腰を落とし―――
―――いつの間にか刃が抜かれていた。
ミスリルと呼ばれる物でできている薄い水色の刃がキラキラと朝日を反射している。
剣の持ち主―――ミカはその刃を一度クルリと手首で回し、静かに鞘へと納める。
「……あぁもう。音が漏れる。今のは良いと思ったんだけど、何がダメなんだろ?この剣が刀じゃ無いから?それとも鞘が悪いのかな?」
ミカは一人でブツブツと呟き、頭を横に振った。
寝癖は少々マシになった程度だが、服装はちゃんと整えている。
廊下を歩いていれば流石に目も覚めてきて、道中で直しながら中庭に来たのだ。
「……わかってる。自分の技量不足。そもそも家の刀で何年もやってようやくできるようになったんだから。それをたかだか十数日でできるようになるわけがない。あぁ。やっばいなー。ヘビに会ったら笑われるよ、これ」
はぁ~。とため息を吐きながら腰を下ろす。
そのまま剣からも手を離して、ポケーっとした表情で空を見上げる。
「……そもそもあの剣に慣れたら家の刀でできなくなりそうだよね~。あ、でも、ヘビが使うんだからそっちでも良いのかな?」
「さっきの技の話?」
ヒョコ、とククルの顔が頭上から現れる。
「……あぁ。そんな時間か~」
ミカは一瞬驚いて固まったが、それ以上大きな反応をすることもなく、返答になっていない返答をククルへと返す。
「ええ。朝食よ。たまには部屋で待っててくれてもいいんじゃない?」
「これは日課ですから諦めてください」
ミカはそう言って立ち上がり、座っていたことで付いた汚れを手で軽く叩くようにして払う。
「わかったわ」
ミカの言葉にククルがあっさりと承諾した。
その事にミカの警戒心が上がる。
振り返れば、微笑んでいるククルの姿が。
「その代わり、ちょっと聴きたいことがあるのだけど」
「そうですか。では、自分を部屋で待たせるよう努力でもしてください。もしかしたら、があるかもしれませんよ」
彼女の問い方に嫌な予感しかしなかった。
ミカは前言を撤回しながら、逃げるように中庭を後にする為に足を動かす。
「貴方が今練習していた技、『デスサイス』よね?」
が、それは数歩で止まった。
『デスサイス』
ここに来る前に靄が放った技。
ベルン流の『虚に惑う死の一閃』と同じ技。
ミカとしても気になる単語だった。
だから、止まってしまった。
「やっぱり」
背後で小さくそんな声が聞こえた。
ここで振り返れば負けた気がするが、好奇心には勝てずに振り返りながらミカは問う。
「何で知ってるんです?」「何で知っているの?」
二人は同時に問いかけ、互いに驚き、相手の驚いた顔を見てさらに驚く。
距離がそこそこあるのに互いが見つめ合っているとしか言えない状況でしばし沈黙。
「貴方はこの世界に転移してきたばかりのはず。なのに、どうしてこの世界の技、しかも魔族の技を、そんなに高水準で扱えるのかしら?」
先に問いを続けたのはククルの方だった。
ミカの反応を考えていなかったククルの方が、したり顔で笑っているだろう、と思い込んでいたミカよりも早く復帰したのだ。
「いえ、さっきの一閃は高水準何てものじゃないわね。魔法で偽らなければならない筈の剣技を貴方は魔法無しで扱っている。私が貴方に放った『デスサイス』より技術では明らかに上ね」
「は?……ぇ?今のが、高水準?」
「……え?」
ミカは困惑したままだが、困惑したままだからこそ今のが素なのだとククルにもわかった。
だが、ククルはミカの言葉を理解できなかった。
聞き間違いだと思っていた。
「立ち止まっての一閃ですよ?それで音が消えてないんです。これじゃあ、技にすらなってません。高水準どころか最低限にすら至ってないのですが?」
ミカはククルが固まった理由がわからなかった。
「そんなの当たり前じゃない。音もなく剣を抜くなんて、魔法がなければまず不可能よ」
ククルはミカが当然のように言う言葉に納得ができなかった。
「いや、まぁ難しいとは思いますよ?でも不可能は言い過ぎです。この技、数年―――人によっては十数年かかるかもですが―――練習すれば誰でもできることでしょう?実際に私の父親も弟も音無の一閃は放てましたし。魔法の無かった世界で」
「デスサイスは幻属性魔法を扱うことが前提の技よ。技量でどうこうできるようなものじゃないわ。貴方の周りが特別なのよ」
「魔法があるからこその練習不足でしょう。まぁ、気持ちはわかります。あの練習、地味ですから。嫌がる人は多いと思いますよ?」
魔法があるからこそ。
そう言われてしまえばククルには反論できない。
実際にデスサイスの肝は幻属性の魔法をいかに不自然なく見せることができるかだ。
当然、練習も魔法よりのものになる。
デスサイスは剣技ではあるが、重要なのは剣ではなく魔法だ。
剣を扱ったことの無いリリィですらデスサイスは放てる。
幻属性の適性が高ければ誰でも扱える技であり、そもそも剣である必要すらない技なのだ。
「にしても、魔法前提の剣技、か。そっか……聞いてみるものですね」
黙したククルを見てミカは一人納得したように頷く。
「何のこと?」
「いや、私の知っている技とククルさんが知っている技。たまたま似ていただけの技だったというのがわかったじゃないですか」
「……たまたま」
「そ。たまたま。偶然です。デスサイスは魔法前提なんでしょう?なら、そもそもの前提が違います。私の知っている技はそんなもの無いのが前提です。当然ですよね。魔法なんて無い世界の産まれなんですから」
「……それは、本当に偶然なのかしら?それで、同じような技に行き着くもの?」
「そもそも、我が家のベルン流は、たぶん、産まれて百年経ってないですよ?家の祖父が創ったみたいです。年期が違います。もちろんベルン流が若すぎるという方で、ね」
ミカはそう言ってクルリと反転する。
もう話すことはないとばかりに。
「待って、貴方の祖父、もしかして―――」
「お腹空きましたー。ご飯食べたいですー」
それでもなおククルは話を続けようとしたようだが、ミカはわざとらしい棒読みで無視をする。
ミカは一度も振り返ること無く中庭をあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(偶然?そんなわけ無い。魔法という別の技術前提の技と魔法無し前提の技は動き、考えから違う、と思う……たぶん。なのにデスサイスは虚に惑う死の一閃と全く同一の技だった)
ミカは一人、廊下を歩きながら物思いにふける。
朝食を取る少し前の時間帯のため廊下にはそれなりの人影があったが、それに気づく様子もなくミカは廊下の真ん中を歩いている。
(ベルン流にはふざけた説明のもの技が多かった。できる筈の無いものが幾つもあった)
ミカの家、三神家にあったベルン流剣術。
ミカ達兄弟はあの奥義書を見てどう思ったのか。
―――バカじゃないのと思うほどにふざけた技であり、現実離れしたもの、と思っていた。
それを本気で練習していた父をどう思っていたか。
―――中二を卒業できなかったのだろう、と思っていた。
だが、本当に魔法がある世界ならどうだろうか?
(ククルさんも言いかけてたけど、たぶん、家の祖父がこの世界の出身)
そう考えれば自身がこの世界の魔力を持っていることに納得ができる。
親族がどうだったかを思い返せば確信が持てるのだろうが、あいにくと思い出したくもない相手である上に、そもそもどちらの親族か、等と聴いたこともない。
(確か、異世界、人間、エルフ、と魔族少々だっけ?魔族はリリィとして、祖父と祖母がそれぞれ人間とエルフだったってとこかな?敵対してる種族同士だし、異世界に行ったのはここが二人にとっては居づらい世界だったから、とか?)
その為、ミカは一人空想する。
何故、自身が異世界の魔力を持っているのか。
何故、異世界の剣技を祖父が知っていたのか。
頭の中で勝手に設定を組み立てる。
「ご主人様?」
空想しながら歩くこと十数分。
正面から聞こえた声でミカは空想から現実に帰って来た。
「……タマモ?どうしたの?こんなところで」
「こんなところ?えっと……私が今給士隊で働いている、というのはご存じですよね?」
「うん?まぁ、知ってるよ。というか、王との会談の後結構すぐに話さなかったっけ?」
「はい。お話ししました」
「それがどうかしたの?」
「えっと……」
タマモは軽く周りを見渡す仕草をする。
その仕草に釣られてミカも周りを見渡す。
普通である。普通の、城の廊下である。
タマモが何故言い淀んでいるのかわからずミカは首を傾げる。
「その……ここ。給士隊の休憩室近くなのですが……。ご主人様こそ、どうしてこちらに?」
「ん?え?マジで?」
「はい」
「……」
ミカは背後に視線を向ける。
すぐ近くにはT字路があったので、一旦そこまで戻って左右を見渡す。
どちらも城の廊下が長く続いていた。
「……マジか」
ミカは呟きタマモの前に戻る。
「……タマモって僕の部屋知ってたよね?」
とても言い難そうに、視線を逸らしながらの問い。
ミカは完全に道に迷っていた。
「はい。覚えてます。案内しますよ?」
「うん。お願い」
ミカは少し恥ずかしそうにしながらも、先導するタマモの後を追って歩き出すのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方。
声をかけられる雰囲気ではなかった為に、あえて時間を開けてからミカの部屋へと向かったククルは。
「……どこ行ったのかしら?」
先に向かった筈のミカが部屋に居ないことに首を傾げたものの、子供じゃないんだから帰ってくるでしょうと、特に心配することもなく朝食の準備を開始した。
ちなみに、ククルは空いた時間で軽くミカの真似事なんかをしてました。
音が出ないように鞘から剣を抜くやつです。
剣や鞘は鉄製ではなく土(魔法)で創ったもので、無理でしょ…と呟きながら。




