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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
七章 シャーリィ
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七十六話 願い

明けましておめでとうございます。

そして、遅くなり申し訳ございません。


今年もちょくちょく更新していきますので、異界の欠陥魔法師をよろしくお願いいたします。

 日が半分ほど沈んだ頃、引っ付いているシャーリィが落ち着いたのを、文字通り肌で感じたミカはシャーリィの方を向く。


 見えるのは彼女の頭頂部だけ。


「落ち着いた?」


 表情が見えないのでミカは直接聞く。


 彼の問いかけにシャーリィはコクリと頷いた。


「そ」


 ミカはそれだけ呟き、また沈み行く夕日を眺める。


 しばし、沈黙。


「……何も聞かないの?」


 ポツリと、引っ付いているミカにも聞こえるか聞こえないか位の声で呟く。


「まぁ。言いたいんなら聞くし、言いたくないなら聞かない」


「……ミカって、優しいけど薄情よね」


「似たようなことを姉弟子に言われたことがある。『外面は優しい。けど―――』」


「―――相手を見ていない。とか?」


「細かくは違うけど、そんな感じの事を言われたかな。良くわかったね」


「日毎数刻ならともかく。何日もずっとそんな視線を向けられていたのよ。わからない方がおかしいと思わない?」


 そう言ってミカを見上げたシャーリィの表情は、どこか儚げであった。


「ミカは妾と主様の事をなんとも思っていない。ただの同行者で協力関係。利用しされるだけの関係。そう思ってる」


「……」


「ミカは城に来てから妾に、主様に、自らは会いに行こうとしていない。契約が果たされたから関係は終わった。だから会う必要もない。そう思ってる」


 ミカは何も言わない。


 否定を、しない。


 シャーリィは悲しげな笑みを浮かべてミカから少し距離を取る。


 ミカは夕日を、シャーリィは自分の脚を、それぞれ眺め、数秒沈黙。


「―――妾は魔法。役目を終えれば自然に帰る」


「……いきなりだね」


「ミカが言ったのよ?言いたいなら聞くって。妾は今、言いたい気分なの」


 唐突にシャーリィが語り始めた。


 急な事でミカは戸惑ったが、彼女自身の事について話始めたのだと気づいて、聞く体制を取る。


「ねぇ。ミカは覚えてる?妾と初めて会った―――ううん。初めて会話した時のこと」


「……そんな昔のことじゃないからね。覚えてるよ。お金を手に入れた日の―――名前がでないけど、ひったくり三人組に襲われたときね」


 流石女の子。話が跳ぶなぁ~等と思いながらもミカは答える。


「その時、妾が話した妾についての説明は?」


「えっと、確か、リリィの願いで生まれた……エア友達だったっけ?」


「……何よエア友達って。妾はちゃんと実在してる―――いえ、そこはどうでもいいわ。いえ、良くはないけど、置いといて。ミカの言う通り。妾は主様の願いで生まれた。内容は『一人になりたくない』という誰でも思うこと」


『一人になりたい』という願いもそれなりにあると思ったのだが口には出さず、ミカは黙って話を聞く。


「今の主様は一人だと思う?」


「思わないね。ここはリリィの家なんでしょう?デカイけど。なら近所とかに……近所、近くにないね。まぁ、周りに知り合いとかいっぱい居るんじゃない?家デカイし。家族も居るようだし」


「そう。もう、主様は一人じゃないの」


「……願いが叶った、と」


 そう。


 だから、彼女は消える。


 消えてしまう。


 自然なことだ。


 どの魔法も効果を発揮すれば消えてなくなる。


 魔法は願い。


 つまり、願いが叶ったから消えている。


 そして、彼女もまた魔法だ。


 リリィの魔法。


 そして、シャーリィを産み出した願い(魔法)は叶った。


 だから、消える。


 当然の帰結にたどり着く。


「一応の確認だけど。シャーリィはリリィの願いを叶えたかったんだよね?」


「ええ。妾はその為にここまで来たわ」


「だけど満足してない、と」


「……」


 シャーリィが言い淀む。


 言うか言うまいか悩んでいる、と言うわけではなく、自身が本当にそう思ったのか考えているといった感じだ。


 ミカは彼女が口を開くまでボーっと沈みきる直前の夕日を眺める。


「満足は、したわ」


 日が沈むと同時に彼女は口を開いた。


「確かに家族と再会した瞬間は端から見たら酷いものだったと思うわ。だけど、あの瞬間、妾は確かに満ち足りたの。それが、影の中で見ていただけでも。妾が何もしていなかったとしても」


 そう明るい事を言いながらも、彼女の視線は下を向き続け、表情も暗いままだ。


 ミカは彼女の言葉を黙って待つ。


「……でも、それはその瞬間だけだったの」


 シャーリィはミカの事を見ることなく話を続ける。


「満ち足りた気分は、すぐに、まるで何かに抜き取られているみたいに空っぽになった。妾は魔法だからこのまま消える、というのがなんとなくわかったわ。そしたら、どう思ったと思う?」


「『消えたくない』じゃないの?」


 先ほど泣き叫んでいた内容を思い出してミカは答える。


「『死にたくない』って思ったの」


 ミカには違いがよく分からなかった。


「妾は生物ではなく魔法で、待っているのは死ではなく消滅の筈なのにそう思った。命の無い妾が死ぬことなんてあり得ないのに」


 だが、それを聞く暇もなくシャーリィは語り続ける。


「妾はあの時、初めて一人を感じたわ。主様も側に感じられなかった。主様の孤独を紛らわす為に生まれた妾にとって、本当に、生まれて初めての孤独。怖かった。でも、それが自分の役割なのだからと受け入れようとした」


 彼女はその時の事を思い出したのか、体を震わせ、足までベンチにのせた体育座りという行儀の悪い姿で縮こまる。


「結論はここにいるからわかると思うけど、無理だったの。妾は恐怖に勝てなかった。だから、妾は主様の影から出た。いや、違うわね。妾は逃げたの。あのままいたら消えてしまうから」


 彼女はミカの腕を掴んで、くいっ、と引っ張る。


 ミカはその軽く震えている手を軽く見て、シャーリィの方へと視線を向ける。


 彼女は額を膝につけ、ミカには表情が全くわからない。


「……これが今の妾の全力」


「……これが?」


 ミカは自身の腕力の無さには―――悲しいことに―――自信がある。


 だが、彼女が全力と言った今の力はそのミカよりも弱い。


 大体ではあるが、十才に満たない小学女児と同レベルの力だった。


「影から出る判断が遅かったのか、それとも、出たペナルティなのかはわからないけど、今の妾はエルフの腕力と同程度の力しかないわ」


 と、そこでシャーリィはふと何かに気づいたかのように顔を上げ、ミカの方を向く。


「そう言えば、ミカにはエルフの魔力が混ざってるのよね?」


「らしいね。信じられないけど」


「ミカの力が無いのって、そのエルフの影響を受けてるからじゃない?」


「エルフって種族的に力無いの?」


「エルフの筋肉は衰えない代わりに、かなりつきにくい体質らしいわ。数年鍛えてようやく一般的な二、三日分だとか。思い当たる節とか無い?」


 ミカは自身の腕を擦って考える。


 撫でただけでも分かるほど柔らかい、固さを感じない二の腕。


 ミカは家主が(一応)剣術等をやっていた家庭の生まれだ。


 当然、剣を振るう練習等もしたし、その為に鍛えたりもした。


 今だって定期的に筋トレはしているし、実物の剣を振るってさえいる。


 だが、その二の腕はふにふにと、とても柔らかい。


 思い当たる節がありまくりだった。


「……え?じゃあ、何?今までの筋トレってキツいだけでほぼ無意味だったの?……やばっ、辛」


「そ、そんなこと無いわよ……えっと、持久力はきちんと付くから」


 今度はミカが暗い表情で俯き、それをシャーリィが慰める。


 だが、その声に何時もの明るさは感じられない。


 やはり、彼女は自身の事で不安を抱えているからだろう。


「……まぁ、この話は後日じっくりするとして。話の続きは?」


 ミカは自身の事を一旦棚に置いて、話の続きを促す。


 この行動はシャーリィの気持ちや気遣いに答えているように見えるが、実際は、深く考えると自分が立ち直れそうにないと思ったからだったりする。


「……ううん。なんか雰囲気もおかしくなっちゃったし。続きはまたの機会にしましょう?」


 いつの間にか日も沈みきってるみたいだし。


 そう言ってシャーリィはベンチから立ち上がる。


 彼女は本当に気づいていなかったようで、空の色を見て少し驚いていた。


「……またの機会に。そんな日、あるの?」


「……」


 ミカの呟きに、いや、わざと聞こえるように呟いた言葉にシャーリィは何も答えない。


「……それとも、『もういつ消えるかわからないから思い出作りをしに来た』っていう僕の予想は間違ってた?」


「……」


「まだ、生きていたいんでしょ?消えたくないないって言ってたよね?」


「……そうね。妾はまだ皆と居たいわ」


 彼女はミカに背を向けたまま、夜空を見上げて呟く。


「でも、これはどうしようもないの。どうにかできるものじゃないの。……受け入れるしか、ないの」


「……」


 いろいろと言ったが、ミカもそれを解決できる手段に心当たりはない。


 当然だ。


 魔法の無い世界に居た人間が魔法効果の延長方法などわかるわけがない。


 魔法があれば大抵のものはなんとかなるものだと思っていたが、魔法そのものである彼女ができないと言っているのだ。


 本当にできないのだろう。


 だから、ミカは黙るしかない。


 生きていたいと思っていながらも自身の死を受け入れる、等という行為が認められないと思っていたとしても。


「―――可能」


「っ!」


「っ!ビビったぁ~」


 シャーリィの背後、ミカの真横から唐突に聞こえた別の声に二人揃って、ビクッ!と反応する。


 先ほどまでシャーリィが座っていた場所に、何の前触れもなく、気がつけばリューリティティが座っていた。


「いつの間に。っていうか、何でここに?」


「ジャーダから聞いた」


「……はぁ。何を?」


 ミカの問いかけに彼女はスッとシャーリィを指差し、


「あと六日。それが限界。と」


 そう言った。


「……」


 シャーリィは何も答えない。


 リューリティティの言葉は正しいと態度で示していた。


 ミカもそのような状態でもなければ、このような強引な行動に出ないと思っていたので納得する。


「だから、途中から覗いてた」


「なっ!?ど、どこから!?」


「……ストーカーは褒められた行為ではありませんよ」


 が、続いた彼女の言葉に、シャーリィは酷く狼狽え、ミカは呆れる。


 そして、リューリティティは二人の反応をそれぞれ見て、ポン、と自身の掌に自身の拳を当てる。


 何故主であるリリィではなく、ミカと過ごしたのか、それを理解したといった風だ。


 シャーリィは何か嫌な予感にでも刈られたのか、異常なほどにリューリティティを警戒する。


「そう。最後は好きな―――」


「にゃあああぁぁぁあぁ!!!!!!」


 何かを言いかけたリューリティティへと奇声を発しながらシャーリィが飛び掛かる。


 が、シャーリィの手がリューリティティへと到達する前にリューリティティが消え、


「―――ふぎゅう!」


「っ!とぉっ!わた!」


 リューリティティへと伸ばした手は空を切り、勢い止まらず、顔面からベンチの背もたれに直撃した。


 ベンチは地面に固定されているタイプでは無かったようで、そこに座っていたミカごと後ろに倒れる。


(いっ)たぁ~。いきなり何?」


 ミカはぶつけた後頭部をさすりながら何とか立ち上がる。


 横を見れば顔を真っ赤にしたシャーリィの姿が。


「き、聞いた?あれの言葉?」


「聞いたってどこの―――」


「ち、違う。違うから!妾は、その、そんなじゃ、魔法なのよ?だから、違うの。無いの。あり得ないわそんなこと。そもそも、そ、そんな感情を持つのは種が、あああ、あれして、そうするためで―――」


「ストップストップ。なに言いたいのか全くわかんない」


 シャーリィは顔を真っ赤にして、手をわたわたと振り回しながら言う。


 何かを伝えようと必死なのは分かるが、それが文章になっていないのでミカには理解ができなかった。


 なので、一度落ち着かせる為にシャーリィの振り回している両手を掴む。


「わ、わ、わわわ、わら、わらら」


 彼女はさらに顔を赤くして、もはや単語すら言えない状態になった。


「……壊れた。リューリさん。彼女に何言ったん―――」


「聞くな!」


「え。あ。うん。わかった」


 ミカがリューリティティに問いかけようとしたら、シャーリィが大声でそれを遮る。


 あまりの必死さに、ミカは頷くしかなかった。


()いな!お前も話すでないぞ!絶対だからな!」


 よほど言われたくないのか、彼女はかなり強い口調で、先ほどまでシャーリィが立っていた場所にいるリューリティティにも釘を刺す。


 リリィの口調に近くなっているのは、そうすれば聞き入れる可能性が高いと直感で思ったからだろうか?


 何はともあれ、リューリティティも頷いたのを確認したシャーリィは少し落ち着いた。


「……話を戻しますが―――」


 またあの話をする気か、とシャーリィがミカの事を睨むが、その話ではない(筈な)のでミカはスルーする。


「先ほど『可能』と言ったのは、シャーリィの延命ができる、という事で間違ってませんか?」


「そ。可能」


 本人がどうしようもないと、そう言って諦めた事を、何の気なしにリューリティティは言いきった。


ここはどうするか凄く悩みました。


結果、なんかグダッてる気がしますが、暖かい目で、気楽~に読んでいただけると幸いです。

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