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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
七章 シャーリィ
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七十五話 三・四限目 課外授業

少し早いですがメリークリスマス!

来週はクリスマスですね。


皆さんケーキは買いましたか?チキンの準備は充分ですか?イベントアイテムは集まりそうですか?


私も一日ゲームをする準備は万た―――え?平日で出社?そんなご無体な!

「へぇ。魔族の国っていうから荒れてるとか思ってたけど、これは正直意外」


 バスから降り、魔族の街並みを見た率直な感想である。


 道は塗装されているのか、凹凸が見た目では分からないほど滑らかだ。


 石造りの建物も独特の冷たさ、武骨さなどを外見から感じることはなく、むしろ赤い日の光と合わせて暖かさや柔らかさを感じさせる。


 見た目だけでかなりの技術を用いて建てられているというのがわかる建物だ。


 日本のように高い建物は無いが、一つ一つの建物が大きい。


 恐らくだが、種族によって体格が違うため、あまり高い建物は作れず、また、ある程度行動するための広さも必要なためのものだと予想する。


 そして何よりミカが意外だと思ったのは街の住人だ。


 バッグを持った女性魔族が数人、道の端で雑談をしていたり、小さな魔族達がちょっと人間の子供には真似できないような動きでボール遊びをしていたり、それを男女の魔族がベンチに座って笑いながら眺めていたりと、普通の光景が広がっていた。


 いや、人間じゃない時点で普通ではないのだが、もしこれが人間であれば、日本でも良く見るような光景が広がっていたのだ。


 道にも建物にも不自然な傷はない。


 ミカは城に居たメンバーが好戦的な者ばかりだったので勝手に殺伐とした街をイメージしていたようだ。


「そっちは居住区よ。一般的な」


「……あれで一般的なの?」


「どの種族でも生活可能をコンセプトにした建物だもの。造るのにもそこまで時間はかからないわ」


 あの建物、案外住みにくいのよね。


 そう呟き、シャーリィはミカの袖を引っ張る。


「そんな事より、食事にしましょう?妾まだお昼食べてないの。あっちに幾つか良いお店があるから選んで」


「あれ?シャーリィって食事がいらないんじゃ?」


「……良いじゃない。ご飯を食べるのは好きなの。ラルバでミカ達が妾に食事をさせたりなんかするからよ?」


 あれはまた食べたいわね、とシャーリィは笑みを浮かべて答える。


 だが、ミカは彼女が一瞬固まった事を見逃さなかった。


 その一瞬、彼女がしまったと言いたげな表情を浮かべたのをミカはしっかりと見ていた。


「……そ。オークの黄金焼だっけ?探す?」


 だが、ミカがそれを追及することはなかった。


 言わないことなら言いたくないことなのだろうと判断したのだ。


 だから、ミカは何時も通りに対応する。


「いえ。こう言うのは食べ歩きの方が良いって聞いたわ」


「そりゃね、レストランとかだと時間食うし。でも行ける?食べ歩きってことはフォークもナイフもないかもよ?」


「その時はかぶり付くのでしょう?平気よそのくらい」


「なら良いけど」


「そうそう。良いの良いの。じゃあ行きましょう」


 ミカの返事を聞いたシャーリィがグイグイとミカの腕を引っ張りながら歩き出す。


 動きが子供っぽいな~、等と思いつつミカも彼女に合わせて歩き出すのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 最初に訪れたのは住宅街から歩いて十分程度の所にあった大型のショッピングモール。


 何故か入り口近くの目立つ所に誰かの銅像があったが、それをスルーしてミカ達は内部に入る。


 その内部でミカ達は串焼き(何の肉かは聞く勇気がなかった)やケバブっぽいもの、アイス等を食べながら回っていく。


 周りの装飾や雰囲気は意外なほど日本のものと酷似していた。


 エレベーターやエスカレーター完備。


 食品店や雑貨店、洋服店や装飾店、ゲームセンターや遊具店までもがあり、ここが異世界であるということを忘れそうになる。


 もっとも、パンチングマシーンを行ってる魔族が時折起こす振動でここが異世界であることはすぐに思い出すのだが。


 そんな中、シャーリィがクレーンゲーム機の前で立ち止まる。


 景品である、額に宝石のような物を付けた蜥蜴のような兎のようなよく分からない生物、を模したデフォルメ人形が欲しいようだ。


 彼女は期待するような目をミカに向ける。


 この日、ミカにクレーンゲームの才能が無いことが判明した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 次に訪れたのはショッピングモールからさらにバスで十五分程の所にあった商店街。


 何故か入り口付近に誰かの銅像があったが、それをスルーしてミカ達は商店街でウィンドウショッピングを楽しむ。


 ここはショッピングモールと違い、魔族の民族衣装のような物や武器防具、怪しげなアイテムや薬等々。


 日本ではお目にかかれない物ばかりが売られており、武装している魔族もそれなりの数が歩いていた。


 話の内容も、戦闘関連のものが多く、異世界であるということを実感しやすい場所だ。


 あまり経験をしたことの無い雰囲気にミカも楽しみながら回ることができた。


 途中で、地下なら武器の試し振りOKの武器屋を見つけた二人は迷わず入店。


 ただやってみたいという理由だけで大鎌を手に取り、シャーリィも扱ったことがないという事で魔導銃と『近づかれた時用の武器がないと』というミカの一言で短剣を手に取り、互いに武器に振り回されながら模擬戦を楽しんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 模擬戦で思ったよりも時間を使ってしまったミカ達は時間的に次が最後という話になった。


 その最後に訪れた場所は商店街からさらに十分と徒歩五分、城から見たら横方向に移動した先にある広場だった。


 ミカ達は広場にあったベンチに二人並んで腰掛ける。


 広場の中央辺りでは地面に空いた穴からリズミカルに水滴が吹き上がる仕組みになっているようで、小さな子供がそれを追いかけたり、穴を足で押さえたりして遊んでいる。


 そして、その中心にはショッピングモールの入り口近くや商店街の入り口辺りにあった銅像と同じものが。


「あれ、どこ行っても見るんだけど。何?」


 三度目にしてついにスルーできなくなったミカが問いかける。


「この街を興した初代様の銅像よ。城にも飾られてるわ」


「初代魔王のね。それなら銅像があるのは納得できるけど、多すぎない?どんだけ好かれてるんですか」


「あれは初代様本人が命令して造らせた物よ。習ったでしょう?初代様は自分大好きだったって」


「……あぁ。そう言えば言ってた気がする。街、武器、城に自分の名前を付けるほどって」


 ククルから習ったことだが、初代魔王は元々貴族でもなんでもない家庭出身で、サタンという名らしい。


 そう、サタンだ。


 あの城の名も、この街の名も、現魔王の称号であるミドルネームも、魔王の扱う剣の名も全てサタン。


 これらは全て初代魔王サタンが決めたことらしい。


 それだけでもよほどのナルシストだと思うのに、街の至るところに銅像を立てさせてもいたようだ。


「……生きてるだけで楽しかったんだろうなー」


「ミカは生きてて楽しくないの?」


 ミカはふと思ったことを口に出し、それを聞いたシャーリィが不思議そうな表情でミカを見る。


「まぁ、ね。基本的に人生って嫌なことばっかじゃん?」


「……そんなことは」


「わかってる。嫌なことは良く覚えてるからそう思うだけなんだって」


 ミカは吹き上がる水滴を目で追いながら、シャーリィを見ることなく、淡々とした口調で話す。


「人は……人だけじゃないか、生き物は危険から身を守るために嫌なことを良く覚えるようにできてるってのは何かの番組で見たから納得はしてるんだけどね」


 ミカは過去の事を思い出す。


 妹が傷つけられた時の事を、妹が病室で眠っていた時の事を、家族の葬式の時の事を、お金が入ると分かったときの親戚の対応を。


 ミカは片手を顔に当ててため息。


 自身が思い出した内の大半が妹関連だった事に自分でちょっと引いたのだ。


「もう。そんな暗い話しないでよ。妾達は楽しい思い出を作りに来たんだから、楽しまないと」


 シャーリィが沈んでしまった雰囲気をどうにかしようと明るく振る舞う。


 ミカは手のひらを頬に押し付け、肘を太ももに付けた頬杖を付いているような体勢で、上から下まで往復するようにしてじろじろとシャーリィを眺める。


「……え、っと」


 シャーリィはその視線を受けて、恥ずかしそうに視線をさ迷わせる。


 ミカはここが異世界である事を感謝すべきだろう。


 もしここが日本であれば警察沙汰である。


「……思い出。そう。思い出、ね。楽しい思い出を、作りに、ねぇ」


「っ」


 冷水を浴びせられた。という表現があるが、彼女が一瞬浮かべた表情はまさにそれが当てはまるだろう。


 ミカの言葉に紅くなっていたシャーリィの頬がスッ、と何時もの色に戻る。


「えぇ。別におかしくないでしょう?」


 表情、口調は優しいが、彼女の瞳は何かを見極めようとしているかのように鋭い。


「おかしくはないんだろうね。僕にはわからない感情ではあるけど。要するに、忘れないで欲しい(・・・・・・・)んでしょ?」


 その視線を正面から受けたミカは何時もの表情で、軽く言った。


 その内容に、シャーリィの顔色が悪くなる。


「……、から」


「ん?」


「いつから……」


 シャーリィは信じたくないと、そんな表情でミカから距離を取る。


 一方そんな態度を取られたミカは何時も通りの態度で言う。


「違和感を覚えたのは城を出る前かな」


「そう、妾が泣いたから……」


「いや、その前。僕が立ち止まってシャーリィがそれに合わせて立ち止まった時。あの時少し引っ張られたけど、その力が弱すぎた気がしたから」


「え?それだけで妾の状態に気づいて……」


「いや、違和感を覚えたのはって言ったじゃん。タイミング的に止まる事自体がおかしかったわけじゃないから、何に違和感を覚えたのか自分でもわからなかったし。確信したのはバスから降りたあと、僕の体を引っ張ってた時」


「……ぁ」


「あの時、何か失言をして、それを誤魔化そうと無理やり引っ張ってたでしょ?結構力を入れたつもりで」


 ミカは彼女が弱っていることを住宅街から移動する際のやり取りで確信したのだ。


 これはミカが彼女の事を良く見ていたとか、理解していたとかそんな難しい理由で確信したわけではない。


 ミカは自身の力を理解している。


 大剣を持ち上げることのできない貧弱なものだと理解している。


 そんな人間が、片手で軽く大剣を持ち上げることのできる存在に引っ張られて本来なら抵抗できるわけがないのだ。


 実際、前の町では彼女に引きずられながら宿探しをしていた。


 本来なら彼女がグイグイ等と表現できるような引きかたをすればミカは彼女が引っ張った方へ倒れてしまう筈なのだ。


 それなのに、子供っぽいな~、等と思った事が、思えた事がおかしい。


 本来ならそんなことを思う余裕などあるわけがないのだから。


「じゃあ、今日、付き合って、くれたのは……」


 シャーリィが消え入りそうな、今にも泣き出しそうな声で呟く。


 ミカは何も言わず、彼女の言葉を待つ。


「同情……から……」


 ついに泣き出してしまったシャーリィの方を見ないように正面の方を向いたミカが口を開く。


 発せられる肯定の声に脅えるようにシャーリィが震え、


「するわけないよ」


「……え?」


 予想していなかった否定の言葉に間の抜けた声を上げる。


(……むしろ羨ましいし)


 ミカは彼女が驚いてる間に、誰にも、隣にいるシャーリィにも聴こえないほどの小声で呟き、不思議そうに見つめてくるシャーリィへともう一度、前の台詞をはっきりと言う。


「別に同情なんてしてないって言ったの。普通に、何時も通りに、この街を楽しんでた」


「……それはそれで、その、ショック何だけど」


 シャーリィはミカの言葉に悲しげな表情で言い返す。


 ミカの言葉はシャーリィの事をなんとも思っていないと受け取れる内容だったから。


 あー、と言いながら視線を逸らすミカにむー、と言いながら視線を向けるシャーリィ。


 しばし、そんな他愛のない事を行い、


「ねぇ。満足できたの?」


 唐突にミカが問いかけた。


「え?」


「寿命なのかーとか、何か理由があるのかーとか、そこら辺はわかんないけど、死ぬ……いや、消えるって言った方が良いかな?まぁ、良くわかんないけど。そんな感じでこんなことをしたんでしょ?」


 そんなこんなと曖昧な表現ではあるが、ミカの声音は真剣なものだ。


 ただ、シャーリィの方を向かない。


 彼の視線は前方の空へと向いていた。


「で?満足できた?」


 ミカの問いにシャーリィは何かを堪えるように下を向く。


「死んでも良いと思えるほど堪能した?それとも、死んでも良いと思えるほど現実に失望した?」


 ミカの言葉にシャーリィが首を横に振る。


 だが、彼女の態度など知ったことではないとばかりにミカは問いを続ける。


「望みは叶った?それとも、望みは叶わないと悟り、諦めた?」


「……ぃ」


「自分の中にそうだと言い切れる物はできた?」


「……ない」


「やりたいことをやりきって、やりたいことをできないと割りきって、生きるのはもう充分だと、そう思えた?」


「思えるわけないじゃない!」


 遂に堪えきれなくなったシャーリィがミカの服を強く握り、ミカを見上げながら叫ぶ。


「妾だって消えたくて消えるわけじゃない!もっと皆と、ミカと一緒に居たかった!いろんなところを回りたかった!ううん。ここだけじゃない……っ!もっといろんな国を、町を見て回りたかった!だけど……どうしようもないの……っ!主様の願いが叶ったから……。嬉しい事の筈なのに、グスッ、辛くて……ど、どうして良いかわかんなくて……うぅ」


 シャーリィはミカの服に顔を埋めて泣き出してしまう。


 ミカは何も言わない。


 日は既に沈み始め、今帰らねば日の出てる内には城に着かないだろう。


 だが、ミカはシャーリィが泣き止むまで何も言わず、ただただ、夕日を眺めていた。


目が良くても、動体視力が高くても、クレーンゲームが上手いとは限らない。


何気に高度な技術が要りますよね、クレーンゲーム。


あんなふにゃふにゃアームで何ができるというのかっ!


まぁ、簡単に取れたら儲からないからそうしてるというのは理解しているんですけどね。

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