表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
七章 シャーリィ
80/111

七十三話 二限目 (異)世界史

12月になりました。もう一年が終わってしまいます。

一日は結構長く感じますが、1ヶ月、一年と長くなると短く感じるのは何故なんでしょう?


「あら?いつの間にか半刻過ぎてるわね。じゃあ続きを始めましょうか」


「……休憩を要求します」


 ククルが席に戻りながら言った言葉にミカが反発する。


 反発、と言ってもその声はベッドにもたれ掛かっている姿からも分かる通り、力ないものだが。


「さっきまでのが休憩でしょう?」


「だったら精神的に疲れるようなことしないでください。人のベッドであんなこと……」


「人の、人のって言うけど、それ、私が用意したのよ?」


「……そうっすね~。何でもできますね~。もうこれ天職ではありませんか~」


「もう……」


 ククルが立ち上がりゆっくりとミカに近づく。


 ベッドにもたれ掛かり、顔を毛布に半ば埋めている状態のミカはそれに気がつかない。


「……言うこと聞かないと、こうしちゃうぞ」


 ククルが子供っぽい楽しげな声を出し、ミカが反応する前にククルがミカの背中に体を押し付ける様にして寄りかかった。


 当然その様な事をすれば女性の象徴たる双球が彼の背中に押し付けられる。


 ミカは少し体を硬直させ、


「……いや、大人の女性が少女みたいな事を言っても、似合わないですよ?あと、ちょっと重い。ベッドと挟まれて苦しいんですが」


 ゴッ!と鈍い音が響く。


 ミカの言葉に対するククルの反応は後頭部への打撃攻撃だった。


 俗に言うグーパンである。


「……私も怒るのよ?」


「言葉より先に暴力とか、流石魔族」


 後頭部を擦りながらミカは立ち上がる。


 彼の瞳は涙で潤んでいた。


 もちろん、嬉し泣き等ではなく痛みによる涙だ。


 それでも彼女は、怒ると言いつつかなりの加減をしていたのだろう。


 何せミカの肩を握り潰せる程の怪力である。


 本気だったらミカの頭は陥没、いや、パンッ!と破裂していたかもしれない。


「というか、嫌がると思ったからやったのでは……いえ、何でもありません。真面目に聴きますのでその手を下ろして頂きたい」


 ぶつくさと文句を言っていたミカだが、彼女が拳を上げるのを見て態度をコロッと切り替える。


 実際にはしていないが、敬礼をしているような雰囲気をミカは纏っていた。


「……聴きやすい体勢でいいわよ」


 しばし、拳をどうするか悩んだそぶりを見せた後に彼女はゆっくりと拳を下ろす。


 加減はしていたが、怒っていたのは本当だったようだ。


 ミカは彼女の機嫌を損ねないようにきちんと椅子に座る。


 彼女は『よろしい』といった感じの笑みで頷き、口を開く。


「じゃあ、魔境門について話すわね。


 この世界と貴方の産まれた世界を繋ぐ鏡。


 魔王様も言っていたけど、作成自体はとても簡単よ。


 上位五属性。それぞれの頂点が魔力を込めるだけ。


 それで魔境門は完成するの。


 もちろん、複数の魔力属性に耐えうるだけの土台や鏡は必要だけど、そこら辺は案外何とかなるわ。


 厳しい条件はそれぞれの頂点っていう一点だけ。


 そこさえクリアすれば……そうね……一日で五、六個作れるんじゃないかしら?」


「そんなにポロポロ作れるのに、今はもう無いんですね」


「そもそも上位五属性の頂点が全員揃った回数は片手で数えきれる位だと言われているわ。前回は、初代魔王様の時代だから、一五百年から二千年くらい前になるわね」


 ミカは彼女の言葉からこの手段を手に入れるのは無理そうだな、と思う。


 例え、今ここに三人居るとしても無理だろうと。


 それだけ低確率なのだと、二千年という数字を聞いて実感する。


「上位五属性を混ぜて作る鏡。じゃあそれぞれどの属性がどういう働きをして異世界に移動しているんですか?」


 あくまでも、この(・・)手段では、だ。


 ミカは転移手段が理解できれば、他の手段を見つけることも可能ではないか?と思ったのだ。


 それに、上位五属性のうちいらないであろう属性があれば、運が良ければだが、一人探すだけで済むかもしれない。


 いや、この城に居る三人で作成が可能な可能性だってある。


 高望みし過ぎだとは思うが、0ではないのと0とでは行動が変わってくるのだ。


 それを判断する為にミカはククルにより詳しい仕組みを問いかける。


「ん~。まぁ、一応条件は達成済みだし、問題ないのよね」


「条件?この城の攻略ですか?」


 ミカの言葉にククルは首を横に振って否定を示した。


 その回答にミカは首を傾げる。


 他に自身が何かを達成した覚えなど無い。


「……まぁ、そうなるわよね。貴方、耐えてた訳でも、受け流した訳でも、まして、返した訳でもないもの」


「……何の話ですか?」


 そう、ミカはあの時(・・・)耐えていた訳ではない。


 あの時(・・・)の彼の行動に、ただ気付かなかっただけだ。


 だからミカは、彼女の言っている意味がわからず首を傾げるしかない。


「上位五属性の働きについて、だったわね?」


 そして、ククルはミカに判断の内容を説明することの無いまま話を強引に戻した。


 少々不服ではあるものの、別段話していい相手の判断基準は重要でも何でも無いためミカも話を聞く体勢に戻る。


「……そうね。そもそもの原点から話しましょう。


 先ず、異世界に渡る鏡である魔境門は偶然出来上がった物なの。


 この世界の住人だって最初から異世界の存在を知っていた訳じゃないわ。


 本当に、偶々、ある者が最高傑作を作ってみたくはないか?と製作陣に問いかけたのが始まりだったらしいわ」



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 世界を渡る為に、何て大業な物ではなく、ただの通信の為に作られた鏡での話よ。


 初めは鏡と鏡を繋ぎ姿を映すだけの通信道具だった鏡。


 当時はそれでも重宝していたの。


 紙を持って映れば手紙のやり取りのような事を誰かに奪われる心配もなく行えたんだもの。


 製作出来るものも少なかったらしいわ。


 何せ光属性と闇属性の魔力が必要だったんだもの。


 ……あまり難易度が高くない、って思ってるわね?


 今と違って当時は上位五属性を扱える者がそもそも少なかったのよ。


 で、この光と闇が陰と陽、つまり、形を、実物を、存在を示しているの。


 同じ日、同じ時間、同じ場所で作成することでその鏡がペアになり、片方が魔力を込めることで、もう片方に姿を映す。


 この姿というのが光と闇―――正確には影でしょうけど―――で表されていたらしいわ。


 欠点は双方が魔力を通さないと相手に伝わったか分からないこと。


 自身の鏡に魔力を込めても相手の姿は見えなかったらしいわ。


 相手に自身の姿を映すだけ。


 声も届かない。


 ある時、それを不便と思った魔法師が改良を加えた。


 幻属性の使い手だった魔法師は鏡に映る者の口の動きから言葉を予測し、声を届ける仕組みを作ったの。


 もちろん、予測だったから間違った言葉が出ることもあったけれど、画期的だったわ。


 それから一時期、鏡を改良するのが流行ったわ。


 姿ではなく、声だけを届ける鏡。


 何も写さないけれど物を送ることのできる鏡。


 同じ場所、同じ製法で作られた鏡同士ならば幾つでも姿を映せる鏡―――は当時混線して上手く扱えなかったんだったかしら?


 まぁ、そんな感じで、改良・改造品が出回ったの。


 その中でも最高傑作だったのが、上位五属性の内四属性を込めた鏡。


 姿を映す事ができ、生物無機物問わず鏡より小さいものであれば何でも送ることができ、会話をすることもでき、しかも、他種族の言語を翻訳して伝えてくれる鏡。


 姿を映すのが光と闇属性。


 物を送る、声を送るのが空属性。


 翻訳、つまり、他者の言葉を翻訳し、幻聴として聞かせるのが幻属性。


 上位五属性を扱える者が少なかった状態で、贅沢にも上位四属性を合わせることで作られた鏡だった。


 それは神の領域に踏み込んだ品として、『天鏡門(てんきょうもん)』と呼ばれるようになった程よ。


 もちろん、神を信じている者たちにとってその行いは神への冒涜に他ならず、罰しようとしていたらしいわ。


 天罰、何て言いながら剣や魔法で殺しに来たらしいけれど。


 最初は十の冒険者チームが破格の金額で依頼されて、次に信者が五十の集団で、次にまたお金で高ランクの冒険者を雇って。


 内容は次第にエスカレートしていき、たった四つの命を刈るために戦争を起こせる戦力が集まり、国を滅ぼせると言われていた高位の儀式魔法まで扱われた。


 でも、彼等彼女等はそれらを全てはね除けた。


 鼻歌でも歌いながら、だったそうよ?


 そして、ある者が言った。


 ここまで来たら、最高傑作を作ってみたくはないか?と。


 彼等彼女等は勿論と頷き、唯一欠けていた時属性の魔力を持っているものを探しに出るの。


 まぁ、彼等彼女等も狂ってる者達だと思うわ。


 襲ってきた者達を全て殺しておきながらそんな事を言っているんだもの。


 ……もう分かっていると思うけど、私の言っている彼等彼女等が、当時の頂点よ。


 種族はバラバラで、どうして共に行動していたのか、そもそも、どうやって出会ったのかは分かっていないわ。


 図書館に行けばそこら辺の話は沢山あるから、リューリに聞くのが一番じゃないかしら。


 まぁ、全て創作なのだけど、参考にはなると思うわ。


 ……ええ。まだ、本を読める程言葉を覚えられていないのは知ってるわよ?


 リューリに気に入られてるんだから、読んでもらえば良いじゃない。


 ……まぁ、嫌なら無理強いなんてしないけど。


 話を戻すわよ?


 彼等彼女等は時の頂点を見つけ、早速鏡作成に取りかかったの。


 何時もと同じように、何時もの感覚で、プラス一人を加えて作成された鏡。


 けれどそれは、セットにならなかった。


 一つの鏡に魔力を込めると、鏡二つではなく一つを持って気付けば別世界、貴方の世界に彼等彼女等はいたの。


 もう一度魔力を込めると戻ってきたらしいわ。


 これが、魔境門の誕生。


 異世界への転移を行うための魔道具が産まれた瞬間よ。


 なに?あっさりしすぎ?


 言ったでしょう?偶然出来たって。


 何度も試行錯誤していたならともかく、ポッとできちゃった物なの。


 そこにドラマチックな事なんて何一つ無いわよ。


 で、そこから彼等彼女等はさらに三つの鏡を作製し、それぞれ一つずつ鏡を持ち色々遊び―――もとい、実験をして、その過程で喧嘩でもしたのか、各々一つずつ鏡を持って散ったらしいわ。


 そして、各々が決めたルールに基づき、その条件を満たしたものにのみ代々、敢えて口頭で伝えてきたそうよ。


 正しい話が伝わらないように。


 この話もきっと、とこかが間違っているのでしょうね。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「ここまでが、私達魔族に初代魔王様から伝えられている内容よ」


 ククルはそう締め括り、長話で疲れた喉を紅茶擬きで潤す。


「はぁ。彼等が地球で何をしてたか、とかは伝わって無いんですか?」


「ええ。何でも『やり過ぎた』とだけしか伝わっていないようなの。これは他の所でも同じみたいね」


「なにそれ怖いんですが」


 たった四人で戦争を起こせる存在。


 そんなのが一時期地球上に存在し、その上、何をしたかは分からないが『やり過ぎた』と言っている。


 実は彼等に滅ぼされた国があったのではないだろうか?


 物語に良く出てくる、不運にも天災で滅びた国とか、凄く当てはまりそう。


 ミカはそんな事を思う。


「まぁ分からないことはとりあえず置いときましょう」


 口では怖いと言っていたが、所詮は過去の話。


 そこまでの興味も関心もない。


「話に出てこなかったんですが、時属性の意味はなんですか?もしかしてその鏡―――好きな時間に跳べるんですか?例えば、過去とか」


 あくまで他人事ならば。


 ニコニコと笑みを浮かべ、口調も軽いままだったが、ミカの瞳に怪しい光が宿ったようにククルには見えた。


「ええ。可能よ」


 その光に危ういものを感じたククルだが、それでも正直に答えた。


 知ったところで何もできないと、いや、()()()()()()()()()()()()と知っているから。


「へぇ。じゃあ―――」


「ええ。貴方の思っている通り、過去を変える、なんて事を実行した者が居るわ」


「……結果は?」


「過去の出来事は、未来から過去に来た者の行動を含めた結果だった、というのが分かったわ」


 これまでの歴史、今に至るまでの全ての出来事は、未来から来た者の行動すらも含めている結果だ。


 だから、過去が変わることはあり得ない。


 過去にあったことを考慮して、それを変えるために行動した結果、そうなってしまう。


 まるで、運命に決められているかのように。


「そう……」


「貴方の過去に何があったのかは知らないし、何を変えたいのかも知らないけれど、諦めなさい―――と言っても、諦めないわよね」


「やる前に諦めた人、居るんですか?」


「……いないわね」


 ククルは肩を上下させ、しょうがないとでも言いたげに呟く。


 そう、過去に戻れば喪った者を取り戻せるかもしれない。


 それは無視をするにはあまりにも魅力的に過ぎた。


 確かに現実は変わらないし、変えられないのだろう。


 死んでしまった人を助ける事なんてできるわけがない。


 ミカもそんな事は理解している。


 だが、話を聞いてミカは思ったのだ。


 ―――過去との矛盾がないのなら可能ではないか?と。


 そう、彼女の死体は見つかっていない。


 なら、神隠しのようにこの世界に連れてくれば、いや、つれてきていたとすれば、何ヵ月探しても彼女が地球上で見つからないのは当然ではないか?と。


 もしそれができるのならば、また()と生活できるのではないか?と。


 この話から、ミカにとって鏡を得ることの優先順位がはねあがった。


 弟との再会よりも、優勢度が高くなってしまう程に。



ちょっと説明が足りなかったので補足します。


ミカ達兄弟が異世界の言語を日本語として聞き取れているのは例の鏡に込められている幻属性の魔法の効果です。

日本語に聞こえている言語は幻聴によるって聞こえたもので、口の動きも違和感のない幻覚を見ている結果です。


本当なら本文で説明しないといけないのですが、私の技量が足りずできませんでした。

ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ