六十九話 魔鏡門
お久しぶりです。木崎咲です。
遅くなり申し訳ございません。
近頃中々時間が取れず、積み本ができ、大好きなゲームも週一でしかできてません。
あぁ、学生に戻りたい・・・。
「改めましてククルと申します。先ほど拝聴いただきましたように、これからミカ様の身の回りをお世話させていただくことになります。ご用の際はいつでもお申し付けください」
ククルはミカへと丁寧なお辞儀を見せながら挨拶をする。
目上の相手への挨拶としては完璧に近いのではないかというほどの挨拶だった。
完全にミカが上の立場ということになっている事を除けばだが。
「いやいや、ちょっと待って。意味わかんない」
「何だ?ククルが側に付くのは不満か?」
ミカが口にした言葉に魔王がそう尋ねる。
それだけなら良かったのだが、前を見れば、ククルが涙目でミカを見上げているではないか。
十中八九演技だと思うのだが、実質会って数時間程度では確信が持てない。
「あ、いえ、そういうわけではなくてですね、というか、これのどこが罰なんですか?」
この流れで彼女に関して理解していないまま何かを答えるというのは何かがそうなってしまうのではないか、と冷静ではない頭が考え、とっさに話題を変えようとする。
表面上それなりに落ち着いてるように見えるが、現在ミカは自分で自分が何を考えているのかわかっていないパニック状態だった。
「端的に言えば降格だ」
「・・・一段?」
「余の側近から最下層へだ」
「もはや都落ちレベルなのですが・・・」
ミカは魔王の言葉を聞いてククルへとちょっぴり同情のこもった視線を向ける。
ククルから妖艶な笑みが返って来た。
「ククルさんはそれでいいんですか?」
「はい。構いません」
即答であった。
ここまでキッパリと言われてしまうとミカに言えることはもうない。
「これ、荒れるんじゃね?」
「まぁのう。ちょっかいをかける者が出るであろうな」
「我ら自身、隊の全てを見切れているとは言えん。魔王様は炙り出しにククルを使うつもりか?」
ククルに与えられた罰に他の魔族も驚いている様子である。
驚いている様子ではあるが、決定に文句は無いようだ。
「・・・とりあえずククルさんの件は納得しておきます」
もはやククルの罰に巻き込まれることは止められないだろうとミカは諦める。
ククルの件がどうでもいいわけではないが、それよりもミカには優先すべき事があるのだ。
「それよりも、魔王様に聞きたいことがあるのですが、構いませんか?」
「何だ?」
「あの鏡についてです」
そう、元々ミカはあの鏡について知るためにリリィに協力したのだ。
あの鏡について知れば、弟がどこに跳ばされたのか範囲がわかるかもしれない。
「成る程、元の世界に帰りたいということか」
「いえ、別に」
ミカは魔王の問いに即答する。
帰る方法についてはただのついで。
元々ミカには帰らなければならない理由など無いのだ。
「何?」
この返しは魔王も予想外だったようでミカに説明を求めるような視線を向ける。
「帰る方法を知らなくてもいいと思っているわけではありませんよ?知ってた方がいいだろうなーとは思ってます」
帰るつもりはないと言っただけでそんな反応をされるとは思っていなかったミカは言い訳をするように言葉を続ける。
「ではお前は何を知りたいのだ?」
「?ですから、あの鏡についてです」
「・・・言い方を変える。何のために知りたいのだ?あれは世界を渡ることしかできん。他の使用用途など思い付かんのだが?」
そこまで言われてミカはようやく魔王が何を言っているのか理解した。
「・・・」
理解したが、ミカは魔王に答えを返さない。
鏡について知ろうとしているのはその原理から弟がどこに飛ばされたのかを予測するためだ。
だが、それを言ってもいいものかとミカは悩む。
魔王は話をする前に戦闘を行わせるような存在だ。
そんな存在に弟の事を話してしまえば、弟に要らぬ危険を招いてしまうかもしれない、と疑心に刈られたのだ。
だからといって、原理も知らずに闇雲に捜していては弟と合流するのに何年かかるか分からない。
下手をしたら一生合流できないまま終わるだろう。
いや、世界の広さを考えれば合流できない確率の方が圧倒的に高い。
(それにここは日本じゃない。魔物が居るんだから合流が遅れる方がリスクは高い、か?)
車や命に関わる害虫等、日本も完全に安全だと言い切ることはできない。
だが、それを物差しに出したとしても、魔物等という化け物のいるこの世界の方が日本より遥かに危険だ。
「捜している人が居るんです」
その事を考慮にいれると、多少リスクを負ったとしても合流を早めた方がいい。
ミカはそう判断し、ようやく口を開いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「―――というわけで、あの鏡について知れば弟が跳ばされた範囲を絞れるのではと思い、聞いたのです」
ミカはこの世界に来る前、自宅前での戦闘からこの世界に来てリリィを助けた所までを説明した。
そして、改めて思い出したこともあった。
(これ、そういえば一週間前だったな~。マジか~)
この世界に来てミカはまだ7日程しか経過していなかったということを。
(何かここでしばらく休んでもいいんじゃないかな?とか思えてきた)
と、ミカが話の内容とは全く関係ない事を考えていたところで、話を聞いていた魔族達が口を開いた。
「魔王様。其奴の言い分は出鱈目だ。人間が単身でコクロウに勝った等と」
「俺も正直あり得ねぇと思う」
蛇女の魔族と三眼の魔族が否定の言葉を、
「・・・矛盾はない。事実だろう」
エルフの男が肯定の言葉を、
「ほう?見た目ではわからんのう」
「強者ほど強さは分からないという。是非ともやりあいたいものだな」
黒鬼と獅子の頭を持った魔族が武器をちらつかせながら、と三種類の反応を見せる。
「あ、いえ、別に勝った訳ではありませんから。ただ彼の身に付けていた鏡を割っちゃっただけですから」
今までの事を思い出し、もう戦闘はお腹いっぱいな気分のミカはそう言って好戦的な視線を向けてくるエルフ以外の四名から逃げようとする。
「ミカとやら、残念な話がある」
それを魔王がこの一言で止める。
どういう意味だとミカは魔王の方へと向き直った。
「あれはお前の世界とこの世界の往復限定ではあるが位置を自由に選択可能だ。人物場所問わずな。世界、国等という大雑把な指定も可能であり、その場合はその範囲内でどこに出るかはランダムだ」
「いえ、十分でしょう。異世界等という場所に行くのにランダム帰還に何てするはずがありません。ならば必然的に自らの拠点か、それに近い場所でしょう」
「そうだな。だが、ランダムになってしまった可能性がある」
「・・・それってもしかして」
「そうだ。聞く限り、破壊したのだろう?お前も、もう一人も」
「破壊しましたね。僕も弟も。木っ端に」
ミカは当時の鏡の状態を思い出す。
コクロウの下に有ったため全貌は見えていないが、それでもただ二つに割れただけにはとても見えなかった。
「何故その状態で発動したのかは判らんが、そんな状態で正常に動くとも思えん」
「壊れた時用の安全装置的なのでも付いてたのでは?」
「余もそれが最も確率の高い可能性だとは思っておる」
「思ってる、ですか。その様子ですと魔王様もあの鏡について詳しくはわからないのですね」
「あの鏡―――魔鏡門は余が王になる前から有ったもの故な」
ミカはその話を聞いて少々落胆する。
魔王の態度を見るに、彼はあの鏡の仕組みについて詳しくは知らないということが判ったからだ。
(帰る手段については諦めないとかな?)
ミカはそう思う。
王になる前から有ったもの、という言い方から、造ったのか拾ったのかも分からないのだろう、と。
「ダメ元で聞きますが、その魔鏡門って鏡は複数あったりしませんか?」
「人間のも入れるならば二つ有ったのだが、どちらも壊したのだとしたら現存するものはない」
「まぁ、そんなものが簡単に量産できたら問題ですよね。いろいろと」
「術師さえいれば簡単なのだがな」
「・・・はい?」
聞き間違いだろうか?
ミカはそう思ったと同時に声を出してしまう。
今、魔王が簡単に量産できると言った事が信じられなかった。
「聞き間違いだとは思うのですが、今、異世界に渡る鏡を簡単に造れる、というような事が聞こえたのですが?」
「作製方事態はそう複雑なものではない。ただ、術師の条件が厳しいのだ」
「条件?」
「光、闇、時、空、幻。この上位五属性それぞれの最高位術師だ」
基礎五属性と上位五属性。
基礎五属性は得手不得手はあるものの誰でも扱える魔法だが、上位五属性には才能がいる。
と、ミカはこの世界に来た初日にリリィから教わった内容を思い出す。
「はぁ。最高位術師がどのくらいのレベルで最高位になるのか分かりませんが、それは何万人に一人の逸材~とかそんな感じなんですか?」
だとしても、異世界を渡る道具を造るには安いと思う。
世界で探せば複数人いるということなのだから。
「いや、世界に一人ずつ。計五人しか存在しない」
ミカの問いに魔王はそう答える。
ミカの考えは甘すぎると言っても過言ではなかった。
「それは、確かに見つかりませんね。一人見つけるのすら厳しいではありませんか」
ミカはそれしか返せなかった。
そもそも、術師が複数人居るのなら、切り札にも抑止力にもなるあの鏡が世界に二つしかない等あり得ないことだったのだ。
そう納得した直後だった。
「そう思うのも無理はないが、この場におるぞ?」
「・・・あ。もしかして、魔王様って五人の内の一人だったりするんですか?」
ミカは一瞬言われたことが理解できず固まってしまったが、そもそも目の前にいる魔王が魔族最強だというのを思い出した。
それならば世界に五人しか居ない使い手の一人だと言われても納得できる。
彼だけしか居ないのなら。
「余だけではない。リリィとリューリもそうだ」
「・・・」
ミカは無言で振り返る。
リリィは気まずげに視線を逸らし、リューリティティはコクリと静かに頷いた。
「外見はお前が倒れたときに戻させたが、お前は我が国に入った時からリリィに魔法を掛けさせ、自身の外見を魔族のものにしていただろう?」
「え?戻ってたんですか?」
さらっと言われたことにミカは驚く。
鏡なんて見ていなかったし、一緒に行動していた面々の反応も変わらなかったので気付かなかったのだ。
「疑問に思わなかったか?リリィが寝ているとき。つまり、意識をしていないはずの状態でさえ外見が戻っていなかったことに。分断された後も外見が戻っていなかったことに。そして、魔族の誰もがお前を魔族と認識していたということに」
ミカの疑問をスルーして魔王は問いかける。
「つまり、彼女の魔法が卓越したものだからこそ簡単には解けなかったと?」
「・・・厳密には違うが、まぁ、そのようなものだ。知りたいのならククルにでも聞くがよい」
「いえ、手札は隠すものだと理解していますので。それに知ったらいろいろと面倒事に巻き込まれそうですし。それに・・・」
ミカはリリィへと視線を向ける。
彼女は隠し事をしていることに後ろ暗さでも覚えていたのか、ミカと視線を合わせようとしない。
「本人が言いたくなったら言えばいいんです」
ミカは笑みを作ってそう言った。
実はあの鏡、数人規模なら同時移動可能であり、地球を経由する形で直接魔王城に転移することもできます。
人間がそれをやらなかったのは鏡を取られるリスクを無視できなかった上、少人数で魔王を倒せる程の強者も居なかったからです。
・・・それにしても長い。王との話長い。マーリンか!
とまぁ戯れ言はそこまでにして、この会談で色々情報解禁していますので長くなってしまっています。
次で終わる・・・はず、ですのでどうかもう少しお付き合いください。




