六十八話 吃驚仰天
休日で布団から出るのが日に日に遅くなっていってる。木崎咲です。
最近毎日が眠いのです。
この世界の人間ではない。
魔王がそう言った瞬間、魔王とククル以外のこの場にいる魔族全員がミカに注目する。
あり得ないと、そういう驚きの視線を向けられるだろうと思ったミカだが、向けられた視線は一人を除いて驚きではなく興味を持った視線だった。
まるで、異世界の、地球の存在を元から知っていたかのような反応だ。
「・・・何故、そのような判断に到ったのですか?」
ミカは魔王に問いかける。
ミカはこの世界に来て一度も『自分、異世界人なんだ』と頭の残念な人判定を受けてしまいそうな事を言った覚えはない。
まして、その判断をした相手は昨日今日合った程度の存在だ。
事実なのだから否定はしなかったが、何故バレたのか、また何故それを今言ったのか分からなかったため、ミカは訊ねたのだ。
「ククルが魔力を見る眼を持っている、と言うのは説明したな?触れていればより詳細に視ることも可能だということも」
「ええ」
正確に言うと説明をしたのはククルなのだがミカは空気を読んで頷いておく。
「ククルがお前に触れた時に視た魔力。その内最も多かった魔力がこの世界のものではない魔力だったそうだ」
「最もって、魔力に種類があるんですか?」
「種族毎に魔力は異なっている」
「種族毎?私は別にこの世界の関係・・・」
地球出身の自身が異世界の魔力を持っている筈がないのでミカは否定しようとしたのだか、最後まで言い切る前に口を閉じる。
一つ、思い当たる節があった。
まだタマモと出会う前、ラルバという闘技場があった町の初夜。
ミカはリリィから魔力を貰い、それによって魔法を扱えるようになった。
ずいぶん前のように感じるが、まだ一週間程度しか経過していない。
もうそろそろ休息があっても良いのではないかとミカは思ったが、今そこは関係ない。
もう一度言うが、ミカはラルバの町で魔法を扱えるようになった。
そう、リリィの魔力を貰って扱えるようになったのだ。
体内に別種族の魔力がある、というのは当たり前のことだった。
「あー、そういえばそうでした。リリィの魔力貰ってました」
ミカのこの発言にミカが初めてこの場に来たときに居た魔族以外の全魔族が『何故生きている!?』と言いたげな表情を浮かべてミカを視る。
「その件に関しては此方の教育不足だ。謝罪しよう」
魔王のこの発言には全員が驚きの表情を浮かべて魔王へと視線を向ける。
「あうっ!」
「お、お父様?何を、言っておるのだ?」
特にリリィは反応が大きく、魔王に『信じられない』という事が丸わかりな表情と態度で問いかける。
その際、抱えていたタマモをポロリと落とした事に気づく様子もない。
「ミカが、この世界の人間ではない?」
リリィは今さらそんな事を魔王に確認する。
彼女は魔王がミカの出自を聞いたときからずっと魔王を見ていた。
ミカが異世界出身。
それがようやく意識に上ったのだろう。
魔力云々の話や魔王の謝罪は殆ど耳に入っていなかったようだが、その事に突っ込みをいれるものは居なかった。
「そうだ。そこの者は異世界、地球と呼ばれる星の出身だ」
魔王のこの発言にはミカも驚いた。
当たり前のように『地球』という単語が出てきたのだ。
「星の名前まで知ってるんですか。あ、皆さんの驚きが少ないのって―――」
「ここに居るものは皆・・・いや、リリィ様以外は異世界の存在を知っておる」
ミカの言葉に真っ先に回答してくれたのは意外にも蛇女の魔族だった。
彼女に対して棘だらけの女王様的なイメージを持っていたのでミカは少し驚く。
「一応今日運ばれた奴等の中にも幾らかいるぜ?知ってるやつ。お前らが来る前に全力でやり合ったせいで気絶した奴等だからわかんねぇとは思うが」
蛇女の魔族に続くようにして三つ眼の魔族が補足を加える。
先ほどまで争っていたのに結構息が合うようだ。
「ご主人様ご主人様」
と、そんな事を思っていると、くいくいっと服が引っ張られた。
振り返ると、リリィの手から落ちた衝撃で目を覚ましたらしいタマモがミカの服を摘まんでいる姿が視界に入る。
「何?」
ミカがそう訪ねるも彼女はすぐには口を開かなかった。
急かしたりせず数秒。
「・・・わ、笑わないでくださいね?」
彼女は何度か地面とミカを交互に見てからようやく、恥ずかしそうに前置きをして話始める。
「その、私、寝惚けてますか?ご主人様が異世界出身、みたいな事が聞こえたのですが。・・・や、やっぱり夢、ですよね?」
「まぁ、そう思うのが普通だよね。残念、現実です」
もしこれが本当に夢だったら、彼女は夢の住人にここは夢ですか?と訪ねていることになるんですが、と他人事のように思いつつも、彼女の気持ちが理解できるミカは肯定を返す。
「あ、あり得ません。異世界転移は物語の中にしか―――」
「その物語の元になった話が現実なのだ」
タマモの言葉に魔王が割り込んできた。
「あ、お待たせしてしまい申し訳ありません」
それをミカは『魔王の話の途中なのに別の者との会話をしていて不敬だったか』と少し慌てぎみに頭を下げる。
タマモもその事に気が付いたのか慌てて片膝を地に付け頭を下げる。
「待つ?・・・やはり人間はせっかちよな。あの程度、我ら魔族では待った内に入らん。気にする必要はない」
「恐縮です」
「・・・恐縮、な」
魔王はそう言ってミカを視る。
「っ!…ぁ、ぁ」
それだけでタマモはビクゥッ!と、端からみても分かるほどに体を震わせる。
「タマモ?」
直接見られた訳でもないのに何故そんな反応を?とミカは不思議に思って首を傾げる。
周りを見渡せば、他の面々もどこか緊張しているような面持ちをしていた。
(これは・・・どういう状態?)
ますます分からなくなり首を傾げるしかないミカ。
「・・・死の恐怖を忘れた者が恐縮とは、笑わせる」
魔王はミカに殺気を浴びせていた。
その殺気を感じて周りは緊張を高めていたのだ。
いつそれが外に向けられるか分からないから。
ミカは直接殺気を向けられているというのにその事に気づかない。
受け止めているでも受け流しているでもない。
どうでもいいことのように、ただ気づかない。
魔王はミカの態度に、笑わせると言いつつもその表情は笑いとは程遠い、どこか蔑む様なものを浮かべていた。
「・・・まぁ、良い。話を戻す」
僅か数秒。
ミカにとっては短い時間、他の面々にとっては短くも長い時間が経過して、ようやく魔王は殺気を納めた。
「はっ!…はぁ、はぁ」
「戻す・・・えっと、私の出身の話でしたっけ?」
殺気から解放されてタマモが呼吸を整える中、ミカは一人何事もなかったかのように問いかける。
ちなみに、タマモが魔王の殺気で気絶しなかったのは彼女が他の魔族より優れていたから、という訳では勿論無く、その殺気が完全にミカに集中していたからだ。
むしろ、集中していたのにそこからほんの少し漏れた殺気だけで彼女は意識を失いそうになったのだから気絶していた他の面々より―――恐らく―――弱いと言えるだろう。
「そうだ。いや、厳密に言えば違うか。そこから発展したお前の魔力の話だ」
「魔力の話は終わりませんでしたか?私が二種類の魔力を持っているのはリリィ、えっと、娘様から魔力を頂いたからです」
「誰が二種類だけと言った?」
「・・・いや、他に無いですよね?それとも私の世界では出身国によって魔力が違うのですか?祖先に外人居たっけ?」
ミカは予想外の言葉に首を傾げる。
ミカはこの世界の出身ではない。
だから他の魔力があるとは思えず、一度尋ねたが、この世界では人間と魔族が違う魔力を持っているように地球では国などによって違う魔力を持っている可能性に思い当たり問いを変えた。
変えたのだが、自身で問いながら、自分の関係者に外国人がいた記憶の無いミカはさらに首を傾げる。
「貴方の中にはこの世界の魔族、人間、エルフ、そして異世界。この四種類の魔力が存在しています。比率は微量、二、三、五、といったところでしょう」
ミカが一人でウンウンと唸っているとククルがミカの持っている魔力について詳細を述べる。
その言葉の意味を頭で理解するのに数秒の時を要した。
「・・・は?待って待って。えーっと。・・・魔族はリリィのでしょ?微量だし。で、人間が二、はともかく、エルフが三?で?異世界が五。・・・は?いや、待って。僕って人間よりエルフに近いの?異世界って何?僕この世界の生まれではないのですが?」
整理しようと口に出したら余計に混乱したようで、彼の言葉使いから丁寧さが消えている。
「異世界と言うのは貴方にとっては故郷にあたる地球のものです」
「あ、なるほど。・・・いや、変わってないよ」
ククルの補足に納得しかけたが、結局この世界の魔力を持っている事には変わりない、ということに気づいて突っ込む。
このやり取りでミカは自身がパニクってる事を自覚し、一度落ち着こうと大きく息を吸って、全て吐きだす。
「ふぅ~~っ。コホン。一つ質問なのですが、何故この世界の関係者じゃない私にこの世界の魔力があるんですか?」
「さぁな。この世界からそちらの世界に移住している者でも存在するのではないか?」
「そんなアホな」
魔王の言葉についそんな事を言い返したが、
「この世界には世界を渡る鏡が存在する。現にお前はあの鏡を通ってきたのだと思うが?」
この返しに何の反論もできなかった。
「なるほど、確かあの鏡は戻る際リリィ様から一定距離、という定義を設定していましたね。貴方がリリィ様の側にいたのは偶然ではなかったということですか」
ククルはミカの反応に彼が鏡を使ってこの世界に来たということを理解した。
彼女は一人納得し、何かを探すように周りを見渡す。
「居ない?鏡は今コクロウが持っていたはず。彼が来ているなら、現状でリリィ様から離れるはずがないのですが」
ククルは鏡の持ち主であるコクロウの姿を探していたようだ。
が、彼がリリィの側にいないことにククルは一人首を捻る。
彼の性格ならば絶対にいるとそう思っていたようだ。
「・・・」
リリィが表情を曇らせる。
ククルはそれに目敏く気づいた。
「まさか、殺されたのですか?」
「何?」
ククルの言葉に獅子の頭を持った魔族が信じられないといわんばかりの声音を出す。
顔が人間の物とはかけ離れているため、表情は読みきれなかった。
周りを見ればコクロウのことを知らないタマモ、特に反応がなかった魔王とエルフの男以外の全魔族が信じられないといった表情を浮かべている。
リリィが顔を伏せたままコクロウの亡骸を自身の影から取り出す。
殆どの魔族の表情が驚愕のものに変わった。
エルフの男は驚いていないようだが、無言で黙祷を捧げている姿からそれなりの関係を持った間柄だったのであろう事が窺える。
「お前が異世界出身とわかった時に気づいたが、やはりそうか。リリィ。コクロウは誰に殺された?」
「三人組の、人間です」
リリィはその時を思い出したのか、少し声が震えていた。
「三人?数で押されたわけではないのか・・・」
「ということは、その人間共は実力でコクロウの坊主を下したということになるのう。あれがやられる程の相手から逃げられるほど、リリィの技量は無いはずじゃが・・・。そうか、それでそこの人間か」
「あぁ、成る程。こいつが姫さんを助けたってことか。普通の人間ならそんな事するわけねぇが、異世界の出身だもんな。そりゃ、常識通じねぇわな」
獅子の頭を持った魔族が、黒鬼が、三眼の魔族がそれぞれ意見を言う。
彼らは仲間が殺されたというのに淡白な反応だ。
いや、淡白ではあるが、まだ常識的な反応だ。
「消したのか?」
蛇女の魔族のこの反応と比べれば。
魔族らしいと言えば、魔族らしい反応だ。
「え?」
「その人間を殺したのか、と聞いた」
「あぁそれ、僕がやっときました」
ミカが軽く手を上げて言う。
人殺しを宣言しているというのに、その声はとても軽かった。
彼も彼で普通の感性とは違うものを持っているようだ。
「ほう?それは、是非ともその実力を見せて貰いたいのう」
笑って武器に手を当てながら黒鬼が言う。
横を見れば獅子の頭を持った魔族も己の武器に手を伸ばしてミカを見ていた。
「え~」
ミカはげんなりとした表情で彼らを見返す。
とてつもなくやりたくないが、彼らの瞳が爛々と輝いているのが見えて止めるのは無理だろうなと諦める。
だが、その戦闘は魔王の手拍子一回で回避された。
「その件は後で調整してやろう」
ただ後回しにされただけだが、時間を空ければ回避する手もあるのでミカは内心で魔王に感謝する。
「さて、今の話でこの人間が余の娘を助けた、ということは理解したな?」
魔族全員が魔王の言葉に頷く。
「つまりその人間は恩人となる。さらに、自力でこの場にたどり着いた客人でもある。丁重に扱え」
『はっ!』
魔王の言葉に魔族全員はバッ!と音が聴こえそうな程揃った動きで軽く頭を下げ返事をする。
「ククル」
「はい」
魔王の呼び掛けにククルは返事を返し、何故か魔王の前まで出てから膝を付き頭を下げる。
「客人とわかっている状態、余が話を聞くと言ったにも関わらず危害を加えたお前には罰を与える」
周りは何も言わない。
ただ静かにそのやり取りを見つめている。
「本日からお前を宮仕隊所属とする。宮仕隊としてその人間の世話に専念するが良い」
「はい」
ククルが恭しく肯定の意を示す。
世話をされる側のミカの意見を聞くこともなく。
「・・・んん?」
ミカの疑問の声が静かな王座の間に良く響いていた。
殺気を感じて悪寒が走るのは生存本能、つまり死にたくないという思いを持っているから、と個人で勝手に解釈しています。
話数が多くなりもうそろそろ矛盾が出そうですが、頑張ります。
出てたら是非ともご指摘ください。




