六十四話 理不尽
お久しぶりです。木崎咲です。
遅くなった理由は、一度完成直前くらいまでできたこの話を全て書き直していたからです。
あのままでは、持っていきたい話に持っていけそうに無かったのです。
改めて、
遅くなってごめんなさい。
基本的に親は子より先に死ぬ。
当然だ。
子より親の方が圧倒的に歳上で、その分寿命に到達するが早いのだから。
子が事故や事件で親より先に死に、親哀しんでいるニュース等があるが、そんなものは全体から見て極々少数でしかない。
大半の親は子より先に死ぬ。
なのに子は親に逆らう時期が存在する。
もちろん全ての子が親に必ず逆らうわけではない。
どんなことにだって例外はある。
だが、大半の子は大なり小なり親に逆らう。
親が居るのが当たり前だと思っているから。
その当たり前がどれだけ脆いものなのか理解していないから。
当たり前だと思っていたものが無くなったとき、人は最も後悔をするというのに・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リリィとシャーリィはミカを守るように立っている。
それを見たククルは魔族らしい冷たい瞳をリリィへと向けた。
「リリィ様。親に逆らうのですか?」
「・・・うむ。反抗期、というやつだ」
リリィは少し怯んだが、それでも笑って言い返す。
「それほどまでに大切な相手なのですか?」
「そうだ」
彼女の瞳には恐怖があった。
だが、その瞳に迷いは微塵も見受けられない。
それを見たククルが一瞬優しげに笑った気がした。
それは瞬き一つで消えてしまった為、リリィは気のせいだと判断する。
このやり取りの間にミカは鎖をほどいて体の自由を取り戻す。
彼の表情はどこか不服そうだ。
「クハハ、ハハハハハハ!」
だが、それを言葉にする前に、王座の間に高笑いが響き渡る。
「いや、良いものを見せてもらった」
「お父様?」
高笑いは魔王のものだった。
それを聞いたリリィが困惑顔で魔王を見ている。
魔王は声を上げて笑うのが珍しい性格なのかもしれない。
「リリィ。お前は恐怖に負けぬ強さをもった。それはただの強者では持てぬ強さだ。お前は余の想定を越えて強くなっておる」
「・・・え?」
リリィは何を言われたのか分からないのか、呆然として固まってしまった。
そんな彼女の様子などお構い無く魔王は続ける。
「芯の部分では余を越えたかもしれんな」
「魔王様。リリィ様が強くなったのは認めますが、それは些か誇張が過ぎるのでは?」
「何を言うククル。あれは余の欲している強さだ」
「・・・何を仰いますか。魔王様があの強さを持っていないはずが無いでしょう?」
「違うぞククル。逆だ。あれは余が持っているはずのない強さだ」
「魔王様の持っていない強さ?」
「違う。持っているはずのない強さだ。いかんせん、余が怖れるほどのものがこの世界に居らんのでな。あれはどのような手を使っても余には手に入らんものなのだ」
ククルとやり取りをしていた魔王が再度リリィの方へと視線を向ける。
「どうした?余が誉めておるのだ。もっと誇れ」
やり取りの間、何も反応しなかったのが不思議だったのか、彼はリリィへとそう口にする。
そこでリリィはようやく現実を認識したのか、慌てるようにしてシャーリィと顔を見合わせる。
「わ、妾、誉められた?え?え?」
「あ、主様。落ち、落ち着いて。お父様に昔誉められたことだって、・・・あれ?無い?・・・あ、妾その時意識持って、なかったっけ?」
二人して慌てていた。
端から見たら、彼女達は鏡を見ている少女と言った具合に同じような動きで同じような表情を浮かべている。
「・・・」
弛緩した雰囲気に包まれるが、ミカは警戒を解かずにいた。
それに気づいたのか、魔王がミカに視線を向けて口を開く。
「中々良い前置きであった。では、本題に入ろうか」
「は?」
ちょっと何言ってんのか分かんない。といった表情を浮かべてミカは固まる。
奇しくもそれはリリィの浮かべていた表情ととても似ているものだった。
「いや、前置きって。・・・何?魔族って前置きに戦闘があるの?」
だが、リリィと違い、ミカの復帰は早かった。
ミカは少々ひきつっていながらも疑問に思ったことをリリィ達へと問い掛ける。
「そういえば、お父様が誉めた時って―――」
「え?でも、お父様が貶した時って―――」
彼女達はそれどころではなかった。
ミカは味方を探して視線をさまよわせる。
タマモは気絶している。
リューリティティ達と視線があった。
リューリティティは何故視線を向けられたのか分からなかったようで首を傾げているが、彼女の左右にいる女性、ラスティローレンとフェアがミカに頷きを返してきた。
思い返せば、彼女達は、ミカが初撃の魔法を避けたことには驚いていたが、戦闘が始まったことには驚いていなかった。
つまり、会話の前置きに戦闘を行うのは魔族の中では常識らしい。
(なんて野蛮な)
ミカは内心で思うもそれを表情に出すことなく魔王に問いを投げる。
「まぁいいや。それより、本題って何ですか?テスト結果の発表ですか?」
「気づいておったか」
魔王はそう言いつつも驚いた様子はない。
牢屋から出てここまで来る、というのが一種の実力テストのようなものだったのだ。
ミカが気づいているということも予想していたことなのだろう。
そもそも、『王座に行け』『実力を知りたい』等と言われているのだからその考えに行き着くのは当然だ。
先程の戦闘はその最終試験だと思っていたのだが、あれは関係なかったようだ。
「そうだな。お前は余の想定よりも速くこの場に到達した。先程見た戦闘能力も悪くはない。お前が脱獄したという情報が広まるまでに時間もかかっていた上に、城に侵入された、等という情報もなかった」
「城への侵入はそっちからの協力がありましたが、中々高得点じゃないですか?」
「そうだな」
ミカの、自画自賛のような言葉に魔王は頷きを返す。
ミカの表情が笑みに変わった。
「こういうときって優秀賞を貰えるのでは?」
「貰ってどうする?」
「そういうときって、何かしらの物が貰えたりするでしょう?」
「ほう?何だ。欲しい物でもあるのか?」
「っ!いけません魔王様!」
ククルが魔王の言葉に待ったをかけるが、既に言ってしまったことは覆せない。
ミカは彼女の存在を無視して続ける。
「いえ、物では・・・あー、可能であれば貰いたいですが、とりあえずそれは置いといて。優秀賞として、あるものについての情報を貰いたいのです」
「魔王様。彼がリリィを助けたのは事実ですが、だからといって、彼が私達の味方だと決まったわけではありません!」
「話してみよ」
「魔王様っ!」
魔王はククルの怒声を受け、彼女の方を向くこともなく、ただ億劫に溜め息を吐いた。
「...魔王になってから、何かと部下から叱られることが増えたな。訂正をする。悪いが、ククルがお前に触れている事が話を聞く条件だ」
何かをぼやいた後、魔王はミカにそのような条件を付けてきた。
「それになんの意味があるんですか?」
ただ触れるだけ。
何故それだけで安心して話を聞けるようになるのか分からずミカは問い掛けた。
その問い掛けにククルが胸を張って答える。
「私は魔眼持ちなのよ」
「マジですか!」
ミカが驚いて問い返す。
彼の目が輝いて見えるのはきっと気のせいではない。
「ええ。相手の考えてることがある程度分かるの。その精度は触れているときが最も高くなるわ。・・・隠し事なんて不可能な程に」
「それは、是非見たいですね」
ミカは笑みを浮かべてそういい放つ。
だが、内心ではかなり慌てていた。
(考えが読める?何それズルい!)
交渉の時、相手の考えていることが分かるということは―――よほどの阿呆でない限り―――勝ちが確定しているのと同義であるのだ。
腹の探り合いでは敗北が決定してしまっている。
しかも、此方から情報を取り出すだけ取り出され、こちらの願いははぐらかされる。という最悪の結末に行き着く確率が高い。
それなのに、何故ミカが笑みを浮かべて答えたのか。
それは、ここで断ってしまうとそれだけで『自分は貴方達に聞かれたくない情報を持っていますよー』と言っているのと同義になってしまうからだ。
だからミカはこの場では断れない。
ブラフを立てて必要ないと思わせるしかないのだ。
(うん、無理だね)
そして、彼女の態度から必要ないと思うことはないだろうと思う。
どうにかしなければと思うが名案が思い浮かばず、思考が空転し続ける。
ククルはミカが笑みを浮かべた事に意外そうな表情を見せつつも、ミカの想像通りに手を伸ばしてきた。
(手を払って逃げる?いや、触れたらアウトだからかわして逃げないと)
追い詰められてそんなことを考えるミカだが、幸いにもそのような行動を取る前に事態が動いた。
「ククル。あの反応が新鮮で嬉しいのは分かるが、あまり調子に乗るな」
「・・・はい」
ククルは魔王の言葉にしゅん...という効果音がありそうな表情で項垂れる。
「ククルの魔眼は魔力を映す目だ。そもそも思考を読む魔眼など空想にしか存在せん」
「ですが、全て嘘を言っていたわけではありません。触れていたら効果が上がるのは事実ですよ?考えを読むことはできませんが、その言葉が嘘か本当か程度ならわかります」
「意識を強めれば魔法も強くなるだろう?つまり、思考と魔力には何らかの繋がりがある」
「私は魔力の流れの微妙な変化を読み取ることで口にした言葉の真偽を判別しているの。精度は、まだ外したこと無いわね」
彼女の能力の詳細を聞いてミカは思う。
(良かった。何とかなりそう)
言ったことの真偽を判別しているのなら、言葉を選び、あくまで嘘ではないと言える事を口にすればいい。
「凄いですねそれ。真偽を判別できるってことは交渉とかで有利に動けるってことじゃないですか。それに、魔力が見えるなら魔法の発動だって分かるってことでしょう?」
自身の考えていることを笑顔という仮面で隠しミカは捲し立てる。
「え、ええ。・・・普通は嫌がるものだと思うのだけど。この能力を貴方に使うのよ?分かってる?」
「え?はい。分かってますよ?」
「・・・考えを読めると言った時は少しだけ抵抗の意思が有るように見えたわ。今それを感じないのは何でかしら?」
「・・・まぁ、その。僕も一応男なので」
ククルの言葉にギクリとして視線を少し反らしてしまったものの、何とか取り繕った。
とっさの言い訳だったが、中々良かったのではないかと思う。
彼女の衣装は少々とも言えないほど過激だ。
というか、ほぼ下着と言ってもいい姿だ。
一応上に何やら空色のローブっぽい物を着てはいる。
ローブっぽい物を着ているのに下着と言ってもいい姿というのは訳が分からないかもしれないが、要約すると、透けているのである。
いや、透けていると言うと齟齬が生じるかもしれない。
彼女のローブはほぼ透明なのだ。
ここまで近づかないと分からないレベルで。
そんな服装をしている女性相手に、『女として意識してしまったから考えを読まれるのは嫌だった』という言い訳は満点に近いのではないだろうか?
現にククルは少し満足げな表情を、話を聞いていた面々も『あー』といった表情を浮かべていた。
リリィとシャーリィだけは、ミカにじとっとした目を向けていたが。
「では、始めますね」
ククルがミカの背後に回り、声をかける。
ミカは頷いたのを確認して、ククルは右手をミカの左肩に置いた。
直後だった。
グチュ!と間近で異音が、次いで、想像を絶するほどの激痛。
ミカは何が起きたのかも分からずに意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ミ―――」
「リリィ!」
ククルがミカの左肩を握り潰した。
それを見て駆け寄ろうとしたリリィだが、ククルの怒鳴り声にビクッと一瞬固まる。
その一瞬でククルはリリィに近寄り、パンッ!と左手でリリィの頬を叩いた。
何故叩かれたのか、リリィは分からず呆然とククルを見返す。
周りも彼女の奇行に驚いていたが、それは次の言葉を聞くまでだった。
「貴女。彼に魔力を与えたでしょう!」
「「「え?」」」
「何?」
ククルの言った内容にリューリティティ達三人と魔王の顔色が変わる。
「・・・ぇ?だ、駄目なのか?」
「当たり前でしょう!私達魔族と人間は生物としてから違うの!それなのに魔力を与えたら、生き物としてのバランスが崩れるわ!」
「ククルさん落ち着いて...」
「リリィ様も悪気があってやったわけではないと思いますから...」
リリィへと怒鳴っているククルをラスティローレンとフェアの二人が『まぁまぁ』といった感じで抑えようとするが、彼女は止まらなかった。
「そんなことで済む話ではありません!」
「二種類になると、コントロールが難しくなる。魔法が扱えなくなる者も。でも、それだけ」
彼女の言葉に同意するように周りは首を縦に振っていたのだが、その中で一人、ククルだけが首を横に振って周りの間違いを訂正する。
「四です」
「四だと?」
「それは...」
この回答に、魔王とリューリティティが驚愕の表情を浮かべて呟いた。
周りも、リリィとシャーリィ意外の面々は苦い表情を浮かべている。
「はっきり言います。彼はいつ死んでも―――」
ククルはリリィに分からせるよう、ミカを指差しながら説明しようとして、固まる。
彼女の指を指した先で、ミカが肩から多量の血を流して倒れていたから。
「いつの間に!?一体誰が!?」
ククルの悲鳴に歩いてもいないはずの面々が転けそうになる。
そんな中、一人落ち着いていたリューリティティが、スッ、と犯人、ククルを無言で指差した。
「・・・ぇ?」
彼女は指を指されたのが自分なのか?と確認するように自分を指差して、その手が血塗れになっていることに気がついた。
しばし沈黙。
「・・・医務室に連れていきます」
沈黙に耐えかねたのか彼女は逃げるようにミカのもとへと移動する。
「うむ。罰は追って与える」
魔王の落ち着いた声に、彼女は振り返って一礼。
ミカを抱え上げて王座の間を出ていった。
一礼したときの彼女の顔はとても赤くなっていたそうだ。
ミカの魔力について少し触れました。
ここら辺は結構初期の頃に考えた事になっています。
細かい説明については後々。
ようやく、ようやくここまで来れました。
何年前に考えた内容か・・・。
最初はここ辺りまでを二巻分とか考えていたんですよねー(笑)




