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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
六章 紅き都市の城
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六十五話 笑顔とは本来...

HJネット小説大賞の一次審査通過しました。

「・・・え?マジですか?」と思わず三度見ほどしてしまいました。


読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。


というわけで、久々の10日かからずの投稿です。


これからもよろしくお願いいたします。


追記

fate/goの水着イベントが始まります。

二周年記念でかなり貯まった石450個を解放するときです!


これでも当たらないのがfateの怖いところです。

・・・当たるといいな~。

 気がついたら、見覚えのある、少し懐かしい教室にいた。


 周りを見渡すと、制服を着た男女が楽しそうにお喋りをしている姿が目に入る。


 これは夢だ。


 ミカは現状をはっきりと理解する。


 何故なら、周りの人間の顔に靄がかかって誰一人認識できないからだ。


 声も、何かを言っているのは分かるが、何を言っているのかが認識できない。


 ミカの耳にはただの不快な音に聞こえていた。


 ―――これは高校の頃の夢だろう。


 ミカは周りの人間の制服から当たりをつける。


 この夢が高校の頃のものだとわかったミカは表情を曇らせた。


 ―――高校時代にあまりいい思い出はない。


 窓際の席から外を眺める。


 まだ事が起こる前かもしれないと、少しだけ希望を持って。


 視線の先では弟が一人、とぼとぼと今の強さを、いや、昔の強さすらも感じられない足取りで帰路についていた。


 それを見てミカは溜め息を吐いた。


 気がついたら、教室に人が居なくなっていた。


 ミカは無言で立ち上がり、横に掛けてあった鞄を無視して教室を出る。


 いつの間にか外に出ていた。


 目の前には男が一人。


 状況把握のためミカは周りを見渡す。


 日の当たらない薄暗い場所。


 テンプレートな体育館裏というやつだ。


 それを見てミカははて?と首を傾げる。


 ここで何をされるのかがわかっていない、という訳ではない。


 ここでの思い出は基本的に暴力に晒された事だけだ。


 ミカは中学の頃からこの夢のおよそ半月程前まで、結構好き放題やっていた為に、自身に対して恨み、妬み、嫉みを持っている人間はそれなりにいた。


 だから、おそらく、目の前の誰かさんも、何時ものごとく(・・・・・・・)、自分を殴り倒そうとしに来た者の一人だろう。


 ミカは体育館を見上げていた視線を男に戻す。


 そして、やはり分からないと首を傾げる。


 ―――これに一人で来た人とか居たっけ?


 ここに来るときは大半、ミカ以外の人間が三人ほどいた。


 人数が多少上下することはあったが、一人で来た人物に心当たりがなかったのだ。


 と、内心で相手が誰かを考えている間に男が拳を振るってくる。


 避けられる速度だが―――夢だからだろうか―――体が動かずミカは鳩尾を殴られた。


 痛みはない。


 だが、体は痛みを覚えているかのような動きを勝手にとる。


 何度も体を殴られた。


 何度も体を蹴られた。


 それでもミカは反撃しない。


 当時だってそれなりの腕はあった。


 この程度、当時の実力でも余裕で受け流せたはずだ。


 それなのに、ミカはただ暴力を受けるだけ。


 当時は家族の大半を失って、何事もどうでもよくなっていたのだ。


 無抵抗で暴力に晒され続けたミカが倒れるまでそう時間はかからなかった。


 いや、これは夢なのだ。


 実際どのくらい経っているのかは分からない。


 意識がだんだんと薄れていく。


 ―――目覚める前兆かな?


 ここで気絶をしたことなどない。


 だから、ミカは自身の状態をそう判断し、瞳を閉じる。


 夢はそのうち、勝手に終わるものなのだから。


「―――無様だな。抵抗もなし、か。お前が弱いから、そんなんだから、お前の妹は死んだ。・・・好い気味だ」


 今まで全ての声は不快な音だったが、明らかに理不尽で、自身を蔑むこの台詞だけは、何故かはっきりと聞こえてきた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ミカは静かに目を開ける。


(―――そういえば、あの一言が切っ掛けだったっけ?比佐津(ひさつ)が死んでから、強くなろうって思ったの)


 弟をも失わないように。


 いや、これは建前だ。


 本当の理由はそんな高尚なものではない。


 利己的で、自身の事しか考えていない、そんなものが本来の理由なのだから。


(自分の転換点みたいな事なのに、それを言った相手の顔を思い出せないとか)


 ミカは苦笑いを浮かべる。


 最後の一言で相手の事を一応思い出した。


 確か、妹を一度泣かした男だったはずだ。


 弟と二人掛かりで仕返しをしたので、そのさらに仕返しをされたときのことだろう。


 だが、顔は全く思い出せなかった。


 本当に一人だったのかも思い出せない。


 当時はそれだけ周りが見えていなかったのだ。


 妹を喪ったことがそれだけショックだった。


 今思い返すと、自分はシスコンだったんだなー、とはっきり思える。


 同時に、妹の事を思い出してしまい、涙が零れた。


「ふぁ~~」


「ん。起きた」


「っ!?ゴフッ。こほ、ゴホ」


 自身の涙を欠伸で誤魔化しつつ、ようやく現状把握に努めようと上体を起こしたところで声をかけられた。


 全く予想していなかったミカはそれに驚いてむせてしまう。


 ミカに声をかけた少女、リューリティティは咳き込んでいるミカにそっとコップを差し出す。


 心配してくれているような仕草ではあるが、残念ながら彼女の視線はもう片方の手に持った本にしか向いていなかった。


「こほっ、大丈夫。ありがと」


「そ」


 ミカの言葉にリューリティティはただ短く一音だけ発すると、コトッ、と明らかにこの場に不釣り合いな机に水を置き、自身も椅子に座る。


 一連の動作で彼女が本から目を離すことはなかった。


 喉の調子が戻るまで、数秒待ってからミカは周りを見渡す。


 まず自身が寝転んでいる場所は白い掛け布団のベッドだ。枕も、シーツも白。


 さらに、同じベッドが三つ右に並んでいる。


 壁はこれまた白で、床も白い。


 まるで病室のような部屋だった。


 唯一の例外が横に座っているリューリティティの場所だ。


 そこには木製のテーブルに同じく木製の椅子が存在していた。


 彼女はそこに座って本を読んでいる。


「・・・もしかして、その机と椅子、持ってきたんですか?」


 あまりに場違いな物があることに疑問を持って、まさかと思いつつ問いかける。


 彼女はミカをチラッと一瞬だけ見て、頷いた。


 ミカは、マジか・・・。と、ちょっと引きぎみで呟く。


 その間にリューリティティは読んでいた本に栞のような何かを挟んで閉じる。


 その後、机にハガキ位の大きさの紙―――明らかに直前まで無かったはずの―――を広げて呟くように一言。


「辛い夢?」


「・・・いや?何で?」


 言葉に詰まってしまった。


 少し遅れて誤魔化しの言葉を口にするも、その声もまた少し震えてしまう。


 直前に妹の事を思い出してしまったせいで、感情が出やすくなっている。


 ミカは自分を落ち着かせようと思うのだが、リューリティティがその暇を与えてくれない。


 彼女はいきなりミカの顔にペンを向けた。


「っ!」


 突然の事に硬直するミカ。


「涙の跡」


「いや、欠伸で出ただけですし」


 リューリティティの指摘にミカは自分の頬を手で擦りながらそう言った。


「・・・そ」


 短い返事。ほとんど表情を変えないまま彼女は広げていた紙に視線を戻す。


 そう。ほとんど、だ。


 ミカは見逃さなかった。


 ほんの一瞬、彼女が優しげな表情を浮かべたのを。


「本当ですからね?」


 念押しするような一言。


 これがむしろ、彼女の予想は正解だ、と言っているようなものになってしまっていることにミカは気づかない。


 リューリティティはミカの事を無視して―――いや、気づかない振りをしてあげているのかもしれないが―――紙にすらすらと何かを書く。


 と、思ったら、くしゃっ、と彼女は自身が書いた紙を適当に丸めて、ポイッ、と投げる。


「痛くない?」


「は?・・・ん?」


 一連の動作の意味が分からずに首を傾げていたミカにリューリティティが問いかける。


 ミカはそれの意味もまた、分からずに間抜けな声を上げ、何故自分が病室みたいなところで寝ていたのか?と今更ながらに疑問を持った。


 む~。と唸ること十秒弱。


 ミカは、ハッ、として自身の左肩に手を当てる。


 魔王と話す直前に突然の激痛で意識を失った。


 ミカが気絶をする直前に聞いた肉を潰す異音。


 それが左肩から聞こえていたことを思い出し、肩に手を当てたのだ。


 ミカの左肩には特にこれといった異常はなかった。


 痛みも全く無い。


「思い出した?」


「・・・ええ。まぁ」


 違和感も何も無いので、もしかしたら王座に転移した辺りから夢だったのでは?と思ったが、リューリティティの一言で現実だったのだと理解する。


(・・・しくじった。必要だからって背後に立つのを許すんじゃなかった)


 同時に、自身の行動を振り返り後悔する。


 正面に立たれた状態では話し難いし、等と思って背後を許してしまった。


 触れるだけでいいのだから、横に立って手でも握ってもらっていれば良かった、と今になって思う。


「・・・どのくらい経ってますか?」


 気絶していた事を理解したミカは次に現在の時間を問いかける。


 窓から差し込む日光の色が赤いので夕方位かと予想し、二、三時間程度だろうと思っていた。


 ミカは忘れていた。


 そもそも日が中天に昇っていたときも、日の光が赤色をしていたことを。


「一日」


「は?」


「一日」


「・・・マジですか?」


 彼女の言葉が信じられず、問い返す。


 それに対してリューリティティは当然、と頷いた。


 くぅ~。とお腹が鳴る。


 ミカからだ。


 一日経っていることを理解すると同時に空腹が襲ってきた。


 ミカは少し顔を赤くしてリューリティティから視線を逸らす。


「ん」


 そんなミカを見て彼女は何処からかお椀を取りだしミカに突きつける。


 中に入っているのは肉や芋らしきものの入ったシチューのようだ。


 まだ湯気も立ち上っており、暖かいものだとわかる。


 ミカは匂いに釣られて、つい受け取ってしまったものの、それを中々口にしない。


 食べても平気なものなのか?毒でも盛られているのでは?等と思って手をつけられずにいた。


 一応、協力関係なのだからそんな事をされることはないだろう、と思うかもしれないが、そもそも、その協力関係は魔王を玉座から引きずり下ろすまでのもの。


 そして、既にその時の王は倒されていた。


 だからミカは戦闘中に彼女達からの助けを求めたりしなかった。


 既にあの戦闘は協力外の事だったから。


 だから今、彼女がミカの味方だとは限らないのだ。


 と、そんな事を考えているのが分かったのだろうか、彼女はミカのお椀からスプーンを取りだし、ペロリ、とそのスプーンに付いたシチューを舐める。


「・・・何を?」


「毒味。これでも食べない?それとも、苦手?」


「・・・どうしてそこまでするの?」


「貴方は中々信じない。交渉の時分かった。なら、行動で示すしかない」


「僕が聞きたいのはそういう事じゃない。君と僕はただの協力関係だった(・・・)。それだけの関係のはず。ここまでする必要は無いでしょ?いや、そもそも協力の条件を満たせたとも言えないんだよ?」


 ミカは本当に分からなかった。


 今回、ミカは自分の力で魔王を引きずり下ろそうとは考えていなかった。


 ただ時間稼ぎをして、先代の魔王が来るのを待ち、バトンタッチするつもりだったのだ。


 だからミカは確認したのだ。


『どんな手でもいいのか?』と。


 足止めもまた手段の一つ。自身がやる、とも言っていない。


 これなら引きずり下ろす手助けをした、という事で交渉の条件を満たしたことになる。


 だが、現実はミカが到着する前に終わってしまっていた。


 これでは交渉を満たしたことにならない。


 魔王を引きずり下ろす手助けすらできていないのだから。


「貴方は私とラスティ、フェアの思いの違いを悟らせてくれた。これはそのお礼。交渉とは関係ない」


「・・・」


 リューリティティの言葉と、間近から漂う香りの二つによってミカの意志が少し揺らぐ。


 それでも、頷かない。


「ダメ?なら、交渉」


 彼女の表情はほとんど動いていないが、彼女の纏う空気が真剣なものに変わったような気がした。


「交渉?」


「それをあげる。代わりに手伝いを一つしてもらう」


「・・・手伝いの内容は?」


「部屋の整理」


「それだけ?」


「それだけ」


 食事を貰って方付けを手伝う。


 日本でも良く有ること。


 それだけに、ミカはこの交渉が対等なものだと判断し、シチューを一口飲む。


 シチューは少し(ぬる)くなっていた。


「了解」


 貰い物一つ口にするのにここまでの事をしないと安心できない自身の事を、面倒な奴だな~、と思いつつミカはそう返事をする。


「良かった。本を並べるのに三人はキツイ」


 その返答にリューリティティは満面の笑顔を浮かべる。狼狽えたとき位しか表情を動かさなかった彼女が、だ。


 その笑顔にミカは、普段から笑ってればかなり可愛がられそうだ、と内心思ったが、口にはしない。


 そんな事より気になる事ができてしまったから。


「三人で、キツイ?部屋だよね?」


「初めてあった場所。あそこが私の部屋」


 ミカの表情がひきつる。


 初めてあった場所。それがどこだか分かったから。


(・・・嵌められた?)


 県立図書館レベルの部屋の整理だ。


 本棚に入らない位の本がある部屋。しかも、片付けではなく整理。


 つまり本棚の並び替え等もあるだろう。


 これは四人でさえ下手をしたらキツイかもしれない。


 ミカはシチューに視線を落とす。


 既に一口飲んでしまったシチューを。


「・・・これじゃ足りない。お代わりを所望する」


「構わない」


 彼女の笑顔。


 それは好意から等ではなく『交渉でやり返してやった』という思いから浮かんだものだった。


無口キャラは相手の心を汲み取って行動をするイメージを勝手に持ってます。


ただ、相手に確認しないから勘違いすると指摘されるまでずっと勘違いしたままになります。

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