六十三話 王の間 それは死臭漂う戦場なり
お待たせしました。もはや一週間投稿の名残すら無い気がしている木崎咲です。
・・・気がしているではないですね。
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
時はミカ達が玉座に付く数分前に遡る。
王座の間には二つの存在があった。
「ちっ。やつはまだ見つからんのか!」
玉座にふんぞり返っている存在が苛立たし気に吐き捨てる。
その存在は当然魔族であり、人間とはかけ離れた姿をしている。
背中には漆黒の翼、手は鉤爪の付いた三本指、そして、全身黒の羽毛に鋭い嘴。
瞳は猛禽類を思わせる、というか猛禽類そのものの瞳。
その魔族はマヌゥ族という、一言で言うと鳥人間的な種族の魔族だ。
全身黒の羽毛と言ったが、よく見ると黒の鎧も身に付けている。
身に付けてはいるのだが、よく見なければ判らないほどに同化している。
鎧を身に付けていないように見せる為なのだろうが、下手をしたら変態に見られる可能性のある格好だ。
外見から誤解されやすいが、マヌゥ族は獣種ではない。
体内に魔石を持っていない純粋な魔族だ。
「現在捜索中です」
もう一人は階段の下で頭を下げている美青年だ。
外見は耳が尖っている以外に人間との差はない。
エルフの青年だ。
彼の報告に更にイライラを募らせたのか、マヌゥの男は床を一度強く蹴り突ける。
「もういい!全て城に戻せ!」
「捜索隊を、ですか?」
「他に何がある?」
「ですがそれでは―――」
「やつの登録は消去済みだ。未登録の者がここに来るためには必ずあの札が必要。その三ヶ所に兵を配備せよ」
「直ちに」
マヌゥの指示を受けて立ち上がったエルフはしかし次の行動を取ることはなかった。
命令に逆らったわけではない。
突然通った黒い靄。
エルフの頭にそれが被さると同時にエルフの頭が消えたのだ。
マヌゥの男はそれを見て固まった。
何が起こったのか理解できずに固まったのではない。
何が起こったのか理解できたから、いや、知っているから固まったのだ。
少し遅れて、鎖骨から上の無くなったエルフが音をたてて倒れる。
出血はたらたらと垂れる程度しか出ていない。
鎖骨から上が無くなったのなら噴き出さなければ可笑しいはずなのに。
この現象を初めて見たわけではないマヌゥの男は誰が起こしたのかを理解する。
同時にあり得ないとも思う。
「黒幕はガウディではないのか?」
「ガウディは利用されたにすぎん。戦闘は強いが視る眼を持っておらんからな、あやつは」
「バカな!?札が取られた形跡は、いや、それよりも今、どこから現れた!?何時からいた!?」
今起こった現象はある魔族にしか起こせないもので、ここに来るための条件が何一つ揃っていない筈なのだから。
そのはずなのに、マヌゥの視線の先、エルフの死体近くにある柱にはインプ族の大男と同じくインプ族の少女が立っていた。
「・・・滑稽よ。この城の設計図を見て尚、隠し通路に気づかんか。これでは征服行為にすら辿り着けそうにないではないか」
インプ族の大男は心底つまらなそうに吐き捨てる。
「隠し通―――」
怒鳴り付けるようなマヌゥの言葉は、しかし最後まで続かなかった。
ピトッ、と背中に優しく掌が当てられたから。
「魔王様はこう言ったのです。『期待外れだ』と」
掌を当てている当人、ククルが冷たくいい放つ。
「まっ―――」
マヌゥの言葉は爆風に掻き消された。
「ああああああああああ―――」
爆風に吹き飛ばされたマヌゥの男はピンポイントにインプ族の大男、元・魔王、ラーグ・サタン・クラウンの元へと跳んで行く。
その顔には死への恐怖しか写っていなかった。
この僅か数十秒後、
ミカ達が現れた。
★★★★★★★★★★★★★★★★
捕らえよ。
その一言で最初に動いたのはリリィの隣にいた露出の激しい女性だ。
いや、動いた、と言うには語弊がある。
彼女は一歩も動いていない。
彼女の頭上に突然氷の槍が三本生まれ、ミカ目掛けて飛んできたのだ。
三本出現した氷の槍のうち左右二本はミカを挟み込むように、残りの中央の一本はミカの足下を狙って真っ直ぐに飛翔してくる。
前方、左右共に回避困難。背後は階段で下がることはできない。
かといって受け止めることなど不可能だ。
何せ、氷の槍一つ一つの大きさがミカより大きいのだから。
「わ、っとぉ!」
だが、ミカは少々間抜けな声をあげつつも左前方に槍と槍の隙間を見つけ、滑るように回避する。
「ご主人様!」
タマモの悲鳴とほぼ同時に氷の槍が先ほどまでミカのいた場所へと着弾し、その着弾点から更に無数の氷が天を突かんと言わんばかりに伸び上がる。
もし、空中へと回避していたらたちまち貫かれていたであろう。
「ほう」
「おぉ~」
「今のを避けきるのですか・・・」
インプの大男が、ラスティローレンが、フェアが、それぞれミカの動きに感心の声をあげる。
「承りました」
女性は今さらインプの大男へと返事をしていた。
その一言でミカは彼女の性格を少し理解する。
(僕と似た考え方かな?)
そう、自身と同じく『不意討ち、騙し討ち上等。勝てばよかろう』という考え方の持ち主だと。
「ククル!彼は妾の恩人だ!攻撃を―――」
「リリィよ。・・・余に逆らうのか?」
リリィは女性、ククルの腕を掴んで止めようとするが、その手はククルにではなくインプ族の大男、実の父親に睨まれた事で止まってしまう。
その間にククルはタマモの手の届かぬ所まで歩み出てしまった。
「不意討ちなんて、ずいぶんと姑息な手を使いますね?」
ミカはククルへ責めるような視線を向けつつ問い掛ける。
「ここはもう戦―――」
彼女が答えている途中でミカは魔法を発動。ククルの背後へと移動し、振り返りながらの回し蹴りを放つ。
「ありゃりゃ」
ミカの蹴りは振り返ったククルに足を掴まれる形で止められた。
片手で。
見た目だけでは人間にしか見えないが、彼女はやはり魔族なのだ。
実はある程度格闘技を鍛えていれば、それがどのようなものであれ、ミカの蹴りを片手で止めることは人間でも難しくなかったりするのだが、そこはあえて考えていない。
そっちの方が精神的にダメージが少ないから。
「・・・ずいぶんと姑息な手を使いますね?」
「ここはもう戦場ですからね」
ククルの蔑むような視線にミカは笑って言い返す。
恐らく、先ほど彼女が言おうとしていたであろう言葉を。
彼女は一瞬だけ驚いた表情を浮かべ、すぐに同じような笑み浮かべて口を開く。
「ええ。そうですね。ですからこういう―――」
「例え、どんな手を使われたとしても、敗者は何も言えないんですよ」
またしてもミカはククルの言葉を遮るように口を開く。意味深な笑みを浮かべながら。
「・・・っ!」
それを聞いたククルはミカの足を掴んでいた手を離して、ステップを踏むように横へと軽く跳ぶ。
直後に先ほどまで彼女の腕があった空間に銀線が走った。
薙刀による一線。
タマモがククルの死角から放ったものだ。
「ありがと」
ミカは掴まれていた足を下ろしつつ、タマモにお礼を言う。
「いえ、外してしまいましたし・・・」
が、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
先ほどまでククルは、タマモの事を一切気にしていなかった。
だからこそ、ククルはタマモに背を向けるような大きな隙を見せていたのだが、その隙を上手く活かせなかった事を気にしているようだ。
それに気づいて、ミカは気まずげに視線を逸らす。
「あ~。まぁあれは僕のせいだから、気にしないでいいよ」
そう、ミカがククルに『何かある』と思わせてしまったが為に、彼女はタマモに気づいてしまったのだ。
何時もなら気づかれるような真似などしないのだが、今回はそうするしか手がなかった。
ククルは明らかに何かをしようとしていた。
その何かは分からないが、片足を掴まれた状態では回避ができない。
タマモは気づかれない事を意識していた為に何時もより移動が遅かった。
その遅れでタマモの攻撃は間に合わない確率が高かった。
先ほどの不意討ちが決まらなかったことから、単純な相手ではないことがわかっている。
だからミカは事実を示唆するようなことを言ったのだ。
何もさせない為にはそうするしかなかったから。
「それより、彼女は遠距離魔法を得意にしてるタイプだと思う。離れすぎたら負けると思っていい」
ミカは話を逸らそうと、現状についてタマモに注意を促す。
「ご主人様。そもそも私達には遠距離魔法がありません。どのような相手でも離れては勝てません」
真顔で返された。
「・・・あぁ、遠距離魔法、扱いたい」
ミカはちょっと遠い目をして誤魔化す。
それを隙とみたのだろう。
ククルがミカ達に向けて魔法を放った。
氷の散弾。
そう表現するのが一番近いだろう。
「わわっ!」
タマモは横に飛び込むようにして転がり氷の散弾を回避する。
一方、ミカは動かない。当然そんなミカに無数の氷が襲いかかる。
「へぇ」
ククルが少し驚いたような声を上げた。
彼女の視線の先で、ミカは無傷で立っている。
ミカに襲いかかった氷の礫、その全てがミカを避けるように飛んでいったのだ。
もちろん、氷の礫がミカを逸れていったのは魔法によるものだ。
よく見るとミカの姿が少しだけ歪んで見える。
彼が扱ったのは風を纏う魔法。
全身に密度を上げた風を纏い、外側へと空気の流れを作るようにして氷の礫を逸らしたのだ。
脱出の際に扱おうとしたステルス魔法のダウングレード版、といったところだろう。
氷の散弾を逸らした後に、ミカは更に風を纏いその姿を歪ませ、本来の、造ったばかりのステルス魔法を発動させる。
「面白い使い方をするのね」
ククルは笑みを浮かべながらミカを称賛する。
その声はミカには聞こえていないし、彼女の笑みも見えていない。
この魔法の欠点は自分自身も周りを把握できなくなることだ。
それでも、ある程度は覚えている。
空間把握能力はそこそこあるミカは、彼女へと直接攻撃を加えることはできないが、彼女の背後へと移動することは可能だ。
もちろん動いていなければの位置なので、確実に背後を取れるわけではないが、不意は突けるだろうと、そう考えていた。
繰り返すがミカは現在誰にも見えなくなっている代わりに、自身も誰も見えなくなっている。
だから、ククルがミカのいる位置を、移動中のミカの位置を見ていることに気が付くことができなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リリィはミカ達の戦闘を見ていた。見ているしかなかった。
魔法を放とうとすれば父に睨まれる。
それだけでリリィは動けなくなった。
父に逆らうことを体が拒否する。
(そう。仕方ない。仕方ないではないか。お父様には勝てない。抵抗もできない。逆らったら怒られるから)
―――それで?見捨てるの?今までミカは妾達を助けてくれてたのに?
(仕方ないではないか。今の妾に何ができる?)
―――できることなんていっぱいあるでしょう?
(無理だ。お父様に止められた。もう、何も―――)
―――ふーん。それで?ククルの実力は知っているでしょ?死ぬわよ?ミカ達。
(そ、れは・・・)
―――嫌でしょ?当然よね?妾も嫌だもの。
(だ、だが・・・)
―――お父様に逆らったところで怒られるだけ。閉じ込められるだけ。殺されはしないわ。でもミカ達は違うわ。このまま殺されるわよ。
(ミカが、殺される?)
―――また何もしないの?コクロウの時のように?
(・・・)
―――主様はどうしたいの?
その問いにリリィは―――
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「っち」
ミカはククルの背後であろう位置に到着してから魔法を解き、不服そうに舌打ち。
見えていなかったから、全く違う位置に出てしまった、という訳ではない。
想定していた位置から若干のズレはあったが概ね予定通りの位置だ。
では何が不服だったのか。
(運が悪い)
不服だったのはタイミングだ。
ミカが魔法を解いたタイミングはちょうどククルがミカの方を向いているタイミングだったのだ。
つまり、不意討ちは失敗した。
だが、これを想定していなかった訳ではない。
むしろ、想定していたものの中では運のいい方に入るだろう。
自身からもククルが見えなかったのだから、最悪、逆に不意討ちされることも考慮していたのだから。
ミカは意識を切り替え、タマモと入れ替わるようにしてククルへと回し蹴りを放つ。
「っ!」
ククルは少し驚いたような表情を浮かべながらも黒い槍のようなものでミカの蹴りを防ぐ。
ミカが消えている間に取り出したのであろうその槍は悪魔の持っている武器としてイメージしやすい三叉槍だった。
彼女はその三叉槍を器用に扱い、刃の部分でミカの蹴りを防いでいる。
その防ぎ方は少々意外に思ったが、見つかっている時点で防がれるか避けられるかはされると思っていた。
ミカはすぐに先ほどと反対方向に回転し、足払い。
それをククルは跳んで避けるが、
「くっ!」
彼女は、しまった、という表現が合いそうな表情を浮かべ三叉槍で守りの構えをとる。
しゃがんでいる状態のミカを踏み台にタマモが飛び出したのだ。
息の合ったコンビネーション。
だが、ミカはその事に違和感を覚える。
ミカは足払い前の回転の時点で彼女が背後で構えているのが分かっていた。
彼女がミカを飛び越えるタイミングは完璧の一言だった。
だからこそおかしいのだ。
たかだか数日でこんなことができるようになるのか?と。
そして、それは次の瞬間に確信に変わる。
タマモが力の籠った突きでククルを弾き飛ばしたのだ。
それを見た瞬間にミカは飛び出す。
「なっ!?」
空中から着地する、その瞬間に生まれる隙を狙ってタマモへと足払いを放つ。
完璧に不意を突かれたタマモは着地に失敗して肩から落ちた。
間髪いれずに放たれたミカの踏みつけを彼女は転がって回避する。
「ご主人様!?一体何を!?」
「何時かけたんですか?」
「・・・?何のことですか?」
ミカの問いにタマモは首をかしげる。
不自然さも何もない。本当にきょとんとした表情だった。
だが、ミカは彼女がタマモでないと確信している。
「演技はもういいよ。かなり上手いって認めるから」
「演技?何を―――」
「ククルさん、でしたよね?いつの間に僕に幻属性の魔法をかけたんですか?」
ミカの言葉にタマモは初めに驚きの表情を浮かべ、続けて薄く笑みを浮かべた。
小さな笑い声と共に彼女の姿が徐々に変化する。
背が高く伸び、胸も大きく膨らんで、ククルの姿へと。
「参考までに、どうして判ったのか教えてもらえるかしら?」
「タマモは突きができない」
ククルの問いにミカは簡潔に、事実のみを答える。
その解答が理解できなかったのか、彼女は一瞬固まった。
「・・・長物を使っているのに?」
「ええ」
「・・・それは予想外だったわ」
彼女は何とも言えないような、そうとしか表現できない微妙な苦笑いを浮かべていた。
「答えたんだから答えてください。何時僕に幻属性の魔法をかけたんですか?」
「私が足を掴んだ時、貴方は私の眼を見たでしょう?その時からもう私の術の中よ。ほら」
「なっ!」
いつの間にか、本当に音も何もなく、体が鎖に縛られていた。
だが、ミカはすぐに落ち着きを取り戻し眼をつむる。
幻属性ということはこの鎖は幻覚。
ならば、見なければ脳が縛られているという錯覚を起こすことはないのではないかと考えたのだ。
だが、どうやっても抜け出すことができない。
「・・・幻覚、じゃない?」
抜け出すことができないことよりも、その感触がやけにリアルなのにミカは驚く。
「ええ、本物よ。これ」
彼女の手にはいつの間にか鎖があった。
もちろんその先に繋がれているのがミカだ。
(しまった。鎖の幻を見せてるんじゃなくて。鎖が無いように見せられてたのか)
気づいてももう遅い。ミカの力で鎖を引きちぎるなど不可能。
魔法で斬れば良いと思うかもしれないが、ミカはまだ好きな所から風の刃を出せるような魔法のコントロールができない。
手や足なら可能だが他の部位を刃に見立てるようなイメージが形になっていないのだ。
そして鎖は、二の腕を巻き込むように上半身を一周しており腕は使えず、腹部を一周してから左足も一周している。
一応両足をくっ付けられるような縛られ方をしていないので倒れることはないが、残った片足を上げてしまえば鎖を引っ張られただけで転倒してしまう状態だ。
タマモに斬って貰えたらと思うが、彼女は既に気を失っていた。
やはりあのときの偽ククルがタマモだったのだろう。
彼女は先ほど偽ククルが飛ばされた方向で倒れていた。
それを見てミカは思う。
(あ、これ、詰んだ)
もはや何もできない、と瞳に諦めが宿る。
その姿にククルが一瞬眉をひそめたが、
―――キンッ
と、突然澄んだ音が響いた。
「・・・え?」
ククルが持っていた鎖が寸断された音だ。
彼女は惚けた表情を浮かべ固まる。
鎖を断たれたことに驚いた訳ではない。
目の前のことをあり得ないと思ってしまったが故に固まったのだ。
彼女の目の前には、リリィと―――
「・・・リリィ様に似ている?いえ、似すぎている。何者ですか?」
「シャーリィよ。よろしく先生」
リリィそっくりな少女、シャーリィがミカを守るように立っていた。
この「異界の欠陥魔法師」にはリューリティティを入れて五人のチートキャラが出る予定です。
あくまでも予定です。




