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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
六章 紅き都市の城
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五十四話 脱獄

サブタイトル変更!


脱獄

 外に出たミカ達が見たものは紅く染まった世界。


 草も木も花も道も岩も空も雲も、まるで血にまみれているかのような色をしている不気味な世界だった。


「・・・まさか、違う世界に跳んだ?」


 ミカは呆然と呟く。本来ならあり得ないと考えることだが、一度異世界転移を経験した身としては現状の説明に最も説得力のあるものがこれだった。


 その可能性を考えた瞬間、ミカは焦る。


 同じ世界でさえ大蛇と合流できていなかったのに世界まで越えてしまったら合流などできないのではないか?と。


 そんな焦燥の表情で空を見上げていたミカの腕が引っ張られる。タマモが引っ張ったのだ。


「ご主人様。不安なのはわかります。ですが、落ち着いて、冷静になってください。異世界転移は創作の中にしかありません」


異世界(ここ)にもあるんだ異世界もの」


 タマモはミカの呟いた言葉から彼が冷静ではないと判断し、落ち着かせる為にゆっくりと優しい声で言う。


 だが、その心遣いよりもその後に出た単語に意表を突かれてミカは呟いた。


「?・・・はい。魔族だって本は読みます」


 タマモはこの会話に違和感を覚え首を傾げたが、思い出してみてもおかしな会話はしていないため気のせいだと会話を続ける。


「ちなみに、他の創作にはどんなのがあるの?異世界転生?憑依?ファンタジー?SF?」


「え?えっと、エスエフ?ファンタジー?って何ですか?あと、異世界転生?は転移と同じでは?」


「SFは今から未来の事を勝手に予想して書かれた創作もの。ファンタジーは魔法とか・・・何でもない忘れて」


 この世界がファンタジーなのでこの世界のファンタジーの定義が分からずにファンタジーの説明ができなかったため言葉を途中できった。説明を諦めたとも言う。


「異世界転生と異世界転移の違いは、簡単に言えば一度死んでから行くかそうじゃないかの違いかな?」


「あ、死んだ後に神様が特典を付けて―――とかですか?」


「そうそう。そんなの」


 魔族が神を信じている事に意外感を覚えつつ頷く。


「それなら、私が知っているのは、未来もの―――コレがご主人様の言うSFですね―――と、異世界転移、転生もの、恋愛もの、憑依、というのは死んだ幽霊とかが生きた者に取り憑いて望みを叶えるものとかですよね?これもあります。後は過去に行ったりとかで過去の話を扱う歴史もの、お伽噺、後は・・・」


「けっこう知ってるね?読書家だったの?」


「いえ、そういうわけでは。両親が読書家だったので・・・」


 話の途中でタマモが俯いた。


 途切れた所からミカは奴隷となってしまった彼女の両親がどうなったのかを何となく悟った。悟ったから何も言えなかった。


 しばし重たい沈黙が場を包む。


「それより、ご主人様。これからどうしますか?」


 タマモが明るい口調で言う。自分は気にしていない、というアピールだろう。


 ミカもその心遣いを無下にするようなことはせずにどうするべきかを真剣に考える。


「・・・とりあえず、ここから離れて現在地が何処かを調べなきゃ話になんないね」


 考えた末に答えはでなかった。ここから離れるべきだということは分かりきっているのだが、ここが何処なのかが分からず、迂闊に動けない状態なのだ。


 適当に行って自分達を捕まえた相手のど真ん中へと出てしまいました。なんて事になりかねない。


 それに、この―――国だが都市だか町だかわからないが―――ここから今出ていくわけにもいかない。


 リリィ達が牢に居なかったのだ。移動中タマモに調べて貰っていたがリリィ達がここに来た形跡は無いらしい。


 つまり、別の場所に囚われている可能性がある。それを救うために行動しなければならないのだ。


 彼女はこの世界に来ることになった原因である鏡について知っている者との大切な繋ぎだ。失う訳には―――。


 そこまで考えてふと思う。


(別に帰る手段は絶対必要って訳じゃないんだよね)


 ミカは別に帰りたい訳ではない。ただ、帰る手段位はあった方が良いかなー、程度の気持ちで鏡を求めていた。


 そう、鏡は必須ではない。別に弟と合流できれば帰らなくてもいいと考えているのだ。


(・・・危険をおかしてまでリリィ達を救う必要は―――)


「・・・やっぱり。ご主人様。ここは魔都サタンです」


 ミカの思考はタマモの声に遮られた。


「サ、サタン?え?あのサタン?」


「はい。そのサタンです」


 とてつもなく聞き覚えのある単語についミカは聞き返してしまう。


 その問いかけにタマモは頷いて答えた。


 端から見れば分かりあっているように見える光景だが、ミカの『あの』と、タマモの『その』は当然別物だ。ミカはこの世界のサタンを知らないのだから。


「人間であるご主人様は意外に思われるかもしれませんが、ここは初代魔王、サタン様が造られた都市です。名を魔都サタン」


 タマモが一点を指差す。そこには木々しかない、いや、その下は一応道らしきものがある。が、それだけ。


(ん?)


 ミカは木々の隙間に木ではない何かを見た気がした。


 集中して木々の隙間に目を凝らす。


(・・・建物?)


 光や影の関係で大きさや詳細な形は良くわからなかったが城のようなものが見えた気がした。


 だが、それも木々が軽く揺れただけで見えなくなってしまう。気のせいかと首を傾げるミカにタマモが口を開く。


「いいえ。気のせいではありません。あれは魔族の本拠地。魔王城サタンです」



 □■□■□■□■□■□■□■□■



 リリィは目の前の事が信じられなかった。今なお幻を見ていると自身の目を疑った。


「ふむ。良く前戦を越えたな。誇って良いぞ」


 だが、その声、存在感、視線全てがこれは現実だと示してくる。


「な、何故お父様がこのような所に」


 尊敬している父が薄汚れ、血に濡れた姿で牢に繋がれているという現実を。


「ククル先生。ぬしがいながらこの有り様は何だ?何故お父様をお助けしない。何故お父様が捕まっている牢の外でぬしは自由に行動している!」


「・・・」


 リリィの横には少々露出の激しい、色白でスタイルの良い女性が立っている。正直、ほぼ下着では?と思えるような姿だ。


 ククル先生と呼ばれた彼女は魔王の秘書のような事をしていたラーン族の女性で、リリィに魔法の扱い方を教えていた教師でもある。


 リリィは彼女に怒鳴りつける。が、その女性は何も言わない。


「妾達を捕らえたのはそういうことなのか?ぬしは妾を、殺そうと・・・」


 リリィがどれだけ問いかけても瞳も開けず、ただただ薄い笑みを浮かべているだけ。


 それがリリィには肯定を示しているように思われた。


「な、んで・・・そんな」


「何故、等と貴女が知る必要は無いでしょう?」


 こちらを見もしないククルの言葉に涙が零れる。


(このまま、殺されてしまうのか・・・?)


 だが、悲しみはなかった。というか、何にも感じなかった。後悔も恨みも未練も何も感じ無い。


 このまま死んでしまう事がとても楽な道に思える。


 感覚が麻痺している。


 それは分かるがどうすればいいかわからない。


 体の感覚が遠く感じる。


 もう、どうとでもなれ。そんな思いで瞳を閉じ、


『その命を捨てるってことは、その命を守るために命を失った者達の死が無意味だ、無駄死にだって言っているようなものだよ』


「……ぁ」


 初めてミカに会った日に言われた事を思い出した。


(そうだ。死はただの逃げだ。妾のせいで死んでしまった者達の分まで背負って妾は生きるのだ。でなければ彼等の命は無駄ではないと示せんではないか!)


 瞳に光が戻る。


 冷静になったリリィは今までの情報を整理し、これからどうするべきかを考える。まず、これまでの襲撃を―――。


「・・・ククル先生。もう一つ聞かせてもらうぞ?」


 いきなり、ククルの行動に疑問を持った。


 彼女は相変わらずリリィを見もしないが、そんなことは気にせずリリィは横目でククルを睨み付ける。


「何故妾を、殺さない(・・・・)?」


 ククルがピクリと反応した。


「妾は今、ぬしの能力(・・)で魔法は使えん。何時でも殺せるはずだ。今まで妾を狙ってきた相手はタイミングや場所など気にせんかった。その場で殺そうとしてきた。何故今回だけすぐに殺さんのだ?」


 今までの魔族は全てその場でリリィを殺そうとしてきていた。だが、今回は違う。リリィは捕らわれている。殺される様子もないどころか、殺気もない。


「妾にお父様の姿を見せる必要もない。妾を狙ってきた者達の狙いは妾の死だろう?理由は、おそらくだが、殺せなかったお父様が再度君臨するのを阻止するために心を折りたかった、か?」


「・・・」


「沈黙は肯定ととるぞ?それならば妾をここに連れてくる必要などない」


「目の前で娘を殺される様を見せつけたいから、とは考えないのですか?」


「その程度の理由で完遂可能だった計画にわざわざ危険を加える者ではなかろう?ぬしは」


「・・・」


「では何故ぬしは妾を殺さずにここに連れてきた?妾は未熟だと自覚しておる。今回の旅でそれを良く理解した。そんな妾では一つしか理由が浮かばんかった」


 リリィは体をククルの方へと向け、見上げる。


「ぬしは第三の勢力として動いているのではないか?」


 リリィの言葉にククルがゆっくりとした動きでリリィの方へと顔を向ける。


 表情は驚愕に染まっていた。


 しばし、沈黙が場を包む。


「・・・フフっ」


 ククルの表情が歪み声が漏れる。


 リリィはその声が笑い声だと気づき、何かをミスってしまったのではないか?と、顔を青ざめさせた。


 だが、そんなリリィの様子にも気がついていないようで彼女の肩は震え続け、右手は口元に、左手はお腹を押さえ笑いをこらえている。


 十秒近く経過して、ようやく彼女は顔を上げ―――


「・・・フゥ。成長なさいましたね。姫様」


 嬉しそうに、満面の笑みを浮かべてそう言った。


「・・・え?」


 リリィは急に変化した彼女の様子に目を白黒させることしかできない。


 涙に濡れたククルの瞳―――感動で潤んでいるように見えるが、残念ながら現実は笑いすぎでだ―――はリリィから離れて牢の方へと向けられる。


「まだまだ教えなければ、守らなければと思っていましたが・・・。魔王様。参りました」


「フッ。余に賭け事で勝とうなど百年早い」


 そこには、手錠は付いたままだが無傷で血の付いた形跡もない父が座っていた。


「え?え?」


 現状を理解できないリリィの疑問を無視して談笑が続く。


「それより貴様。本気で勝ちに来たな?幻魔法まで使用するなど」


「当然です。賭けるからにはどんな手を用いてでも勝ちに行く。魔王様がそうおっしゃっていたではありませんか」


「ずいぶん懐かしい言葉を。しかし、まさかリリィに無視される日が来るとはな。どんな物を見せた?余の死体か?」


「まさか。ただ、血塗れの状態にさせてもらいました」


「・・・経験が無いゆえ想像出来んな。ククル。余に見せよ」


「良いのですか?」


「構わん」


「では―――」


「―――ほう?これが余か。・・・これほどまでに追い詰めてくれる者はおらんものか」


「そうですね・・・ドワーフ最強のラムウ位ではないですか?現人間国国王はかなり強いようですが所詮は人間。彼が後・・・三倍程強ければ、あるいは、彼ほどの人間が二人いれば候補に上がるのですが―――」


 雑談の途中でククルが上を見上げる。


 つられてリリィも呆けた表情で上を見るが、そこには石作の天井が広がっているだけだった。


 結局何も分からずリリィは再度ククルへと向き直る。


 いつの間にか彼女は視線を戻し、リリィの父を見ていた。


「魔王様。姫様。昨晩捕らえた人間と獣種が脱獄に成功したようです」


「予想より少し遅いな。いや、罠を警戒した結果か?」


 バキン!と手錠と壁を繋げていた鎖をあっさりと引きちぎりながらリリィの父、魔王ラーグ・サタン・クラウンが立ち上がった。


「・・・ミカ達は無事なのか。良かっ―――待て、脱獄だと?危険ではないか!?」


 続いて、ククルの言葉を少し遅れて理解したリリィが反応する。


 とりあえずミカ達が無事だということが分かり一安心しかけたが、よくよく考えると脱獄したということはいつ殺されてもおかしくない状態になってしまった事だと気づいて慌て出す。


「・・・一刻遅らせるか。二刻」


「私は変更しません四刻で」


 そんなリリィの焦燥をよそに魔王が牢を素手でこじ開けながらククルと何か、リリィに理解できない事を口にした。


 どこからか慌ただしい足音が響いてくる。正確な数は分からないが、一人や二人ではない。


「・・・一体何の話を?」


「ん?賭け事だ。余が城を奪い返し、その何刻後にリリィを助けた人間共が来るかのな」


「ちなみに、先ほど私が裏切り者と軍に広まりきりました。この足音は私達を殺しに来た魔族のものでございます」


 首を傾げて問いかけたリリィに魔王は凶悪な笑みを、ククルは楽しげな笑みを、それぞれ浮かべながらそう言った。


フッフッフッ。ストック完全消失なり。


だって、先月と今月仕事が殆ど無いはずだったのに何故か入りまくっちゃったんだもん!

(言い訳ごめんなさい。技量が無いだけです)


あ、次話こそ『行くべき場所(行きたい場所ではない)』です。


全くできてませんが頑張ります!十日間隔で投稿できなかったらごめんなさい!

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