四十二話 道中
皆様お久しぶりです。
ぴったり四週間開けました。ごめんなさい。
ですが、プロットは結構できました。
なのに、これからは不定期更新に戻ります。申し訳ありません。
サブタイトルは道中です。そのままですね!
・・・重ねて謝ります。思い付きませんでした。
今日fate/extellaの発売日ですね。私も雨の中買いにいきます。
5/13 サブタイトル更新
草原と呼ぶには草の量が少なく、地面には土の茶色が見えている。そんな場所を一台の魔動輪が走っている。
その進行方向には魔物が数体。
赤い体毛に犬の頭をした、この世界でもコボルトと呼ばれている魔物だ。
そのエリアに近づいた魔動輪は当然コボルト達に気づかれる。
それとほとんど同時に魔動輪は音もなく停止した。
中から流れるような動作で四人組が降り、各々戦闘体制を取る。
その動きから、何度も乗り降りしてきたことが分かる。
だが、慣れているような動作はそこまで。
一人が唐突に構えを解き、周りにも解くようにジェスチャーする。
「さて、今回は複数相手の練習をしよっか。今までの、一体ずつの練習の時は最初にリリィ達が数を調整してくれたけど今回は無し」
「ご、ご主人様。いきなりこんな数を相手にしなければなりませんか?」
助手席から降りてきた、女性と見紛う様な男、ミカが運転席から降りてきた狐の獣人に指示を出す。
その狐の獣人は不安げにミカを見上げて問い返す。
「今回は僕も近くで援護するから。でも、基本的に僕は倒さないからね?」
「妾達の出番は無しか?」
ミカの言葉に反応したのはリリィだ。
「一応彼女がピンチになったら助けてあげて」
「え~」
今度はシャーリィが反応する。
彼女はあからさまに嫌そうな表情、声で抗議してきた。
どうもシャーリィは狐の獣人を嫌っているらしく、彼女に関わる指示には難色を示すことが多い。
一度理由を聞いてみたが、首輪で縛っていても信用出来ない、だそうだ。
『首輪が無くなったら恩も忘れて逃げるわよ、あいつ』
と言っていた。
ミカが首を傾げたことに彼女はため息を吐いて呆れていた。
ミカは狐の獣人が裏切らないと思っているのだろうと。
実際は、『何を当たり前のことを?』と首を傾げていたのだが。
閑話休題
ミカはシャーリィの抗議を聞いて狐の獣人の武器に目をやる。
彼女の手にはボロボロの短剣が握られている。
もちろん、リリィが持っていた物ではない。
面には出さないがリリィも狐の獣人を嫌っているらしく、ミカが言ってもあの毒々しい短剣を貸すことはなかった。
彼女の短剣は道中最初の戦闘で魔物から奪った物だ。
魔物が武器の手入れをするはずもなく、この短剣は最初からボロボロだった。
それを無理やり使って戦っている。
(町に着いたら武器を買わないと。そもそもパワーのある種族なのに短剣はもったいないし)
だが、それもそろそろ限界だ。
ここまで何度も戦って来た。
魔物を見つけてはわざわざ進路を変えてまで自ら近づき、狐の獣人に戦闘の経験を詰ませてきた。
彼女曰く、本来なら半日で進める距離に二日かかっているらしい。
だが、その分彼女は戦闘時の動きに大分迷いが無くなったようだ。
一対一なら相手が強くても冷静に戦える程になった。(勝てるかは別問題)
「ハイハイ、じゃあこれがラスト。終わったらもう戦闘は無し。魔物を見つけても倒しに行かず町に向かう」
だから、指示には従って。
ミカは言葉に出さなかったが、他のメンバーはそういう意味だと理解した。
「とりあえず三体かな?」
ミカは周りが頷いたのを確認して呟く。
合図はなかった。
彼は一人でコボルト達に突っ込む。ここまで近づけばさすがに正確な数が分かる。七体だ。
それについていくように狐の獣人が走り、リリィ達は魔動輪より少し後ろに下がる。
ミカは走りながら自身のアイテムバッグに手を突っ込んで少し離れたところにいるコボルト達に何かを投げつける。
「ギャ!」「ガゥ!」
投げたのは何処にでもある万能投擲武器、石ころだ。
コボルトは多少知力があるようで、今回のように相手を囲むような形で広がるなど連携をしてくることがある。
だが、その知力も低いものであり、何かしら一撃を与えれば簡単に崩れる。
石ころを当てられたコボルトは背後に回ろうとしていたことも忘れてミカに狙いを定める。
七体全てのコボルトがミカを狙う形になった。
これはミカの狙い通りの結果だが、彼の表情は晴れない。
今の石ころの投擲。実は風魔法で加速させたものだった。
ウィンドボムを改良したもので自身の投擲にタイミングを合わせて指向性を持たせた爆風を手のひらから発し、石を飛ばしたのだ。
元が無差別だった爆風の魔法なので命中率はあまり良くない。今も五発中二発しか当たらなかった。
その上、ここまでしたのに小さな悲鳴を上げさせることしかできなかった。
自身の非力さに少々傷ついていたのだ。
ミカはため息を吐く。
それが開戦の合図となった。
ミカに一体のコボルトが飛びかかる。
手に持った武器は太い木の幹のような棍棒。持ち手の部分は咬んで造ったのであろう雑さだ。
その棍棒の降り下ろしをミカは側部を叩くようにして逸らす。
コボルトの一撃はミカの少し横の地面を叩きつける形になった。
これにより、僅かな時間、このコボルトのいる方向から他のコボルトが攻撃することはできなくなる。
逸らした攻撃を見ることもなくミカは側面から来たコボルトの一撃を一歩前へと進むことで回避する。
誘導する必要もなくコボルトの武器は地面を叩いたコボルトの武器を強打し破壊した。
「行くよー」
ミカはその二体を風の魔法でブーストした回し蹴りで狐の獣人の方へと送る。
間髪入れず近づいてきたもう一体のコボルトの攻撃をすれすれで回避、片足を引っ掛け、その背後を軽く叩く。
背中を叩かれたコボルトはたたらを踏んでそのまま二体のコボルトにぶつかってこける。
これで三体。
「その三体を相手して」
「えっと、今、止めを刺すのは・・・」
「それじゃ練習にならないでしょ。ちゃんと立つまで待って」
軽く話しているがミカは残りのコボルト四体の相手をしながら話している。
いや、この言い方は正確ではない。
ミカは一度も攻撃をしていない。
ただ攻撃をかわし続けているだけだ。
「あと、タイミングを見てこれも送るから常に注意を向けとくように」
『これ』とはコボルトのことだ。
「はい」
「ほら、こっちばっか見ない。そっちのが立ち上がってるよ」
「はい。え?」
ミカの言葉に狐の獣人は慌てて構えを取る。
同時にコボルトが彼女へと棍棒を振るう。
とっさに下がって避け、直後にコボルトに突っ込んで短剣を喉元に深く刺し込む。
手慣れた動きで、コボルトに悲鳴を上げさせることもなかった。
だが、武器を深く刺し込んだことによって短剣を抜くまでのタイムラグができてしまう。
その隙に接近を許してしまった。
棍棒を振り上げる別のコボルトを見て、無理に攻めるより攻撃後の隙を狙った方がいいと判断した彼女は少し下がる。
何かにぶつかった。
辺りには魔動輪しかなく、その魔動輪からも距離を取っているはずの場所で。
「グルゥ...」
「っ!」
ぶつかったのは武器を破壊されたコボルトだった。
不味いと思うのだが、逃げようにも前方には棍棒を振り上げているコボルトがいる。
右は自身が倒したコボルトが邪魔だ。
後方もぶつかったコボルトが口を大きく開いて噛みつこうとしてきている。
(左!)
棍棒を掻い潜るように、ギリギリで左方向への回避が間に合った。
だが、それをミカが許さなかった。
「っ!」
ミカが新たに一体送り込んだのだ。
しかも、彼女の退路を潰すような形で。
そのコボルトの棍棒が彼女にせまる。
直前に短剣を挟むのは間に合ったが体勢が悪く衝撃を殺せなかった。
彼女はしりもちをついてしまう。
この体勢が不味いことは理解しているので慌てて立ち上がり、自身が倒したコボルトを越えるようにして距離を取る。
「周りの注意ができてないよ。一体一体に集中してたら後ろを突かれる。一対一の時に回転攻撃は隙にしかならないって言ったけど、複数戦では周りを確認できるというメリットがある」
そんな彼女にミカは注意とアドバイスを言う。
言いながら実戦して見せる。
「回転は速い方がいい。だけど、それで情報を処理できなかったら意味がない。今回の敵は強くないんだから遅くてもいい。使ってみるといいよ」
ミカは自身の横、背後の二方向からの攻撃を見もせずに回避する。
狐の獣人も早速試して見るのだが、
「きゃ!」
ズザァ~。
と、石に躓いてしまう。
ちなみにミカの投げた石だ。ミカがコボルトの直前に落ちる軌道で飛ばしてしまっていた石をコボルトが蹴り飛ばしていたのだろう。
とっさに両手を付くことで倒れることは避けられたが、そのせいでパキン!と短剣が折れてしまう。
「・・・あ~。これは仕方ないね。シャーリィよろしく」
ミカは狐の獣人を軽く労った後、シャーリィに一言。
彼女は深くため息を吐いて手を伸ばす。
「ふぁいあ~」
とてつもなくやる気のない声で発動された熱属性の炎魔法がコボルト達を跡形もなく炭に変える。
「いや、めんどくさそうにしてるけど君達がタマモに武器を貸してれば良かったんだからね?」
ミカの呟きに二人は聞こえない振りをしてやり過ごす。
「町に着いたらタマモの武器を買うからね」
言ってミカは死体回収をしなければならない彼女達を置いて先に魔動輪へと乗り込むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「このまま真っ直ぐ向かうのでしたら一刻程で到着すると思います」
狐の獣人、タマモがミカに言う。
彼女には元々名前が無かったのだが、不便だったのでミカが名付けた。
最初はミカも別に必要はないだろうと思っていた。
元の世界では名前を覚えていない知人相手に普通に会話ができていたからだ。
だが、この世界では違う。
正確には戦闘中は違う、と言うべきだろうか。
とっさの指示や警告の類いが上手くいかなかったのだ。
スライムを撃破して最初の戦闘はゴブリン一体。
魔法でスパッと討伐した後に戦利品として短剣を拝借し、狐の獣人に与えた。
そのあと、今度はゴブリンの集団を見つけて、とりあえず全員で戦ってみることにした。
遠距離魔法をありにするとリリィ達が即座に終わらせてしまうので、彼女達には近距離のみという制限を付けた。
意外にもリリィ達は近距離のみでも結構戦えた。
ダナルの時は相手が強かっただけのようだ。
初戦闘だった狐の獣人の動きは当然遅く危なっかしい。
ミカは彼女に注意を向け続けた。
ゴブリンが彼女の後ろで大きく腕を上げているのを見つけ、ミカは『横に跳べ』と指示を出した。
彼女はすぐに反応し、指示通り横に跳んで一撃を回避した。
迷いが無ければ彼女の動きは獣人なだけあって素早かった。
問題は他だ。
ミカの、名前の無い指示で横に跳んだのは彼女だけでなくリリィ達もまた横に跳んだのだ。
ミカはゴブリンを倒しきった後に、リリィ達への指示は名前を入れると言った。
のだが、翌日に新たな問題が起こった。
初めてのコボルト戦の時、リリィの不意を突こうとしていたコボルトに気づくのが遅れて、名前を言う暇なく『後ろ!』と叫んでしまい三人共が反応しなかったのだ。
とっさにミカの魔法で近づき吹き飛ばすことはできたが、これは不味いと思い名前を考えることにしたのだ。
名前の由来はまんま玉藻前から。
逸話については天皇を呪った。九尾の狐の元って説がある。というのを知っているだけ。
他はからっきし。
他に狐に由縁のある名前はいなり寿司から稲荷くらいしか思い浮かばなかったが、食べ物の名前は・・・と思いタマモになった。
現在タマモは運転手としても働いてくれている。
ミカも仮免許は取ったのだから運転くらいは行けると思っていた。エンジン代わりの魔石の起動さえ他の誰かがやれば行けると思っていた。
・・・いたのだが残念ながら無理だった。
ハンドブレーキもギア変更レバーも無く、エンジンブレーキもクリープ現象も起こらない。
しかも、ハンドルにあったボタンを押すと、何か前方に剣が飛び出したり、後方に爆弾のような何かを落としたりと物騒なことも起こった。
後で聞いたが、緊急離脱用のボタンもあるらしい。
直し方も分からなかったミカを見ていられず、運転はタマモ自身がやると言い出したのだ。
リリィ達も運転経験が無いので必然的に彼女一人に負担を強いることになっているが、奴隷とはそういう者だと全員が思っていたので誰も突っ込んだりはしなかった。
それに、そもそもこの辺りの地理を理解している人物が彼女しか居ないので適任であるという点もある。
その彼女がもうすぐ町に着くとミカに報告した。
「だから?」
が、返事をしたのはミカではなくシャーリィだ。
貴女を嫌っていますよオーラを振り撒きながらの低い声。
「ここからは魔族領の町なのですから人間であるご主人様は目立ちます」
タマモは否好意的態度には同じような態度を取る性格をしているらしく、いつもより少しだけ明るさの抜けた声で意見を言った。
魔族領の中に人間がなに食わぬ顔で入るのは当然無理だ。
だから、何かしらの対策が必要だと彼女は言っているのだろう。
「戦闘があった後なんだから、どちらにしろ目立つわよ」
が、シャーリィはタマモの意見を潰すような発言をする。
こちらもまた同意できるような内容だ。
例え、同じ魔族だろうと連絡も無しで人間側から来た場合警戒される可能性は高い。
ルームミラー越しに睨み合う二人。
喧嘩に発展したことはないが、二人はよくこういう空気を出す。
ミカはこのような経験を短い間に何度も経験したため、対処法を理解している。
「魔族と人間が一緒に行動してるのはおかしいんだよね?リリィ」
シカトだ。喧嘩に発展しないのだから深く突っ込んでも意味はないと四回目辺りで悟った。
彼女達を無視してミカはリリィに話しかける。
「うむ」
「僕が魔族の外見になるのとリリィ達が人間の外見になるのはどっちがマシかな?」
「これから向かうのは魔族領なのだから魔族ではないか?」
「・・・まぁ、当たり前か。他人の外見を変えるとかはできるの?」
「可能だが、そこまで大きく変化するのはやめた方が良い」
「体の感覚が変わりすぎたら行動しにくくなるからでしょ?」
「いや、そうではなくてだな・・・」
リリィが言いにくそうに言葉をつまらせる。
「せっかくなら主様と同じ種族とかどう?」
唐突にシャーリィが会話に加わってきた。
「インプ族なら耳を少し尖らせて、小さい羽と細い尻尾を付ければ出来上がりよ?見た目もあまり変わらないわ」
「それならエルフの方が楽なのではありませんか?耳を尖らせて肌を少し白か黒に変えれば良いだけですし」
「む、悪く無さそうね。私は白を推すわ」
「ですよね。ご主人様は線が細いですし」
先程までの剣呑とした雰囲気はどうしたのか、シャーリィとタマモが楽しそうに話している。
しばらく、ミカを何にするかで女性陣が盛り上がる。
「変なのは嫌だからねー」
ミカの言葉は誰の意識にも止まらなかった。
タマモがミカの名前なしの声に反応しなかったのは獣人だからです。
耳がよく、どの方向から誰に、もしくは何処に向けて声を出しているか聞くだけでわかります。




