四十話 最強の一角
久々に福岡の結界を破る台風が現れました。
午前中は結構風が強かったようなのですが福岡にお住まいのかたは大丈夫でしたか?
私は家から出ませんでした。
休み万歳です。
7/12サブタイトル更新
ギルド副長はミカの動きをしっかりと見ていた。
おかしな行動はしていない。
本当にただ魔力を流し込んだだけだと分かる。
だから、何故砕けたのかが分からない。
一方、ミカは今の音に聞き覚えがあった。
(これ、まさか・・・)
嫌な予感がした。
「・・・シャーリィ。魔石を使った魔道具あったよね?壊れても構わないやつ一つ頂戴」
ミカは魔動輪から一旦降りて言った。
「え?ええ」
彼女はアイテムバック(に見せかけたただの鞄)からミカに灯りを灯す魔石を投げ渡す。
ミカはそれを受け取って再度魔石に魔力を流し込む。
パキン!と再度魔石が砕けた。
「・・・マジか」
ミカは呟く。
理由は分からないがミカは魔石を扱うことができないらしい。
この音は魔道具屋で手にした魔銃が壊れる瞬間に聞いたものと同じだった。
あのときは原因が分からなかったが、おそらく魔銃の中にある魔石が砕けたのだろう。
「・・・くる、じゃない。魔動輪の魔石は何でもいいんですか?」
魔銃は弁償だった。
もしかしてこの車も弁償しなければならないのかとミカは青ざめ、問いかける。
ちなみに、問いが『弁償ですか?』ではなく『他のでもいいですか?』なのは、そうであったらいいな~というミカの願望である。
「え?ええ。構いません。専用の物より出力が落ちますが」
「リリィ、シャーリィ。どっちか運転・・・」
ミカはホッと安堵の息を吐いて、自身ができないならと他の二人にお願いしようとした。
だが、そもそも彼女達はスライムの封印を行わなければならないことを思い出して言葉が止まる。
魔法のために集中しなければならない彼女達に運転などさせられないのだ。
ならば、あとは狐の獣人しか居ないが、中学生くらいの子に運転などできるわけがない。
「あ、あの、私が運転します」
そう思い込んでいた。
「は?」
だから、狐の獣人が手を上げて言った言葉が一瞬理解できなかった。
「えっと、今、魔動輪を運転できなくて困っている状態、であってますよね?」
彼女は人間の言葉を理解していないため、状況から会話を予想するしかない。
首を傾げられたことでその予想が間違っていたかもと思い、ミカに尋ねたのだ。
「そうだけど。え?運転できるの?」
狐の獣人の問いにミカは問い返す。
彼女はコクンと頷き、シャーリィから魔石をもらってすぐに魔動輪に乗り込んだ。
数秒で魔動輪が少し浮かぶ。
「ご主人様。いつでも行けます」
「・・・見かけで判断はよくない。意識してるつもりだったのに」
ミカがしみじみと呟きながら助手席の方に乗ろうと移動し始めたのだが、ギルド副長から肩を捕まれて止まらざる終えなくなる。
「待ってください。今のは?魔物と会話しているように見えましたが...」
彼女は信じられないものを見るような目でミカを見ていた。
ミカの口にした言葉にギルド副長は驚愕していたのだ。
「・・・」
どう答えるべきかミカは悩む。
だが、幸いにも(不幸にも?)長く考える前に事態が動いた。
「避けろー!!」
声は門の向こう。それなりの距離がまだあるスライムの方からだ。
その号令にスライムを足止めしていた者達が慌てて逃げだす。
直後にスライムが猛スピードで迫る。
突進だ。
町への直線ではなく、足止めをしていたもの達を狙ったものだったのか、城壁には届かなかった。
だが、スライムと町の距離は目と鼻の先になっていた。
門からスライムの全体像が見える。
直径十メートルはありそうな楕円形で黒いジェル状の中が透けて見える体をしている。
突進に巻き込まれたのかその体内には数人の人間が体から泡をたててもがき、溶けて消えた。
「「・・・ひっ!きゃぁ!」」
ミカはすぐさま後部座席の席を開き、リリィとシャーリィを叩き込む。
「・・・僕はとある魔族と話す必要があるので。加速しろ!」
ミカはギルド副長に一言だけ言って、車のボンネットを滑って渡りながら狐の獣人に命令。
着地と同時に魔動輪が動きだし、ミカはその魔動輪に合わせて走りながら、助手席のドアを開けて飛び乗る。
扉を素早く閉めたミカはシートベルトをしようと左肩上部に手を伸ばしたが、それは空を切った。
「・・・マジですか」
確認してミカは驚く。
あるはずの場所にシートベルトがなかった。
事故ったらどうなるのか・・・。
ミカは考えないことにした。
「主様。どうしますか!?」
ミカは一瞬シートベルトのことかと思ってしまったがすぐさま現状を思い出す。
「とりあえずスライムを左!」
ミカの指示に従い狐の獣人は門を出てすぐを左に曲がる。
門を出る際にはどうしてもスライムの間近を通る必要がある。
あれの狙いはどこぞの魔族とギルド長のせいでリリィとなっているはずだ。
その予想通りスライムはミカ達の車へと触手のように体の一部を伸ばして叩きつけを行ってきた。
「ひぇぇぇぇ!」
それを狐の獣人は何とか回避しながらも車を走らせる。
運転技術が高い訳ではなく運がいいだけで、車の揺れもひどい。
「ちょ、っ、リリィ、シャーリィ、できそう?」
「無理!」
ミカの『この揺れているなかで封印作業はできそう?』を省略した言葉。それをシャーリィは正しく理解し答える。
ミカは内心で『ですよねー』と思いつつさらに問いかける。
「スライムの攻撃は、突進以外、吸収能力が無いんだよね?」
スライムの移動速度は遅い。
距離が離れ、攻撃が少なくなる。
「うむ。らしい」
「・・・ぶっつけとか嫌なんだけど」
リリィの答えにミカは苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
「ミカ!突進が来るわ!」
シャーリィの警告。
「主様どっちにーーー」
「右に!避けたらもう回避は考えずに真っ直ぐ進み続けろ!」
狐の獣人からの問いにミカは答え、追加の指示を出す。
「え?」
「来るぞ!」
狐の獣人は首を傾げるが答える暇なくリリィからの警告。
ミカの指示とリリィの警告に従い彼女は車を右に向け全力で右のペダルを踏み込む。
途中、車体が大きく傾いたが後ろの二人が上手く片側に体重をかけてくれたために事なきを得る。
「え!?ご主人様!?」
「「ミカ!?」」
車体が水平に戻った直後にミカは扉を開いて車の屋根に登る。
リリィ達が驚愕したような声が聞こえたが気にしている暇はない。
「・・・っ!」
吹き飛ばされそうなほどの突風がミカを襲う。
が、それは一瞬だ。
ミカは屋根の上に真っ直ぐ立ち上がる。
風の魔法を使って叩きつけてくる空気を受け流しているのだ。
ミカの目の前にスライムの巨体がある。
その巨体を確認するのとほぼ同時にスライムが体の一部を触手のようにしミカ達の車へと攻撃を放ってくる。
直撃コースの数は三。
ミカはミスリルの剣を手に持ち、魔力を流し込んだその刃で触手を切り裂いた。
斬れた触手は地に落ちると水のように土に吸収されて消えた。
だが、放っていた触手は三本だけではない。
あくまで、直撃コースだったのが三本だけだったのだ。
外れた触手が地を叩き車が揺れる。
だが、狐の獣人はミカの指示に従って真っ直ぐ進み続けた。
「ふぅ!」
ミカは短く息を吐き出す。
間はそれだけ、スライムから立て続けに触手が放たれる。
「リリィ、シャーリィ。封印準備は?」
それをミカは切り裂きながら問いかける。
「もう少し!」
どちらの声かは分からなかったが返事が聞こえた。
(・・・賭けだね。これは)
ミカは思う。
もし、突進が来た場合、ミカにそれを防ぐ手はない。
直進しろと言っている以上回避も間に合わないだろう。
全てはリリィ達の魔法構築速度にかかっている。
その間は守らなければならない。
スライムの触手はどこまでも伸びるのではないかと思うほどに距離が離れてもミカ達の車を襲う。
キン!ガキィ!
十と少しの触手を切り裂いた後、そのような音が混じり始める。
触手が薄く高質化された刃のようなものに変化したのだ。
「っ、危な!」
ミカは真上から降り下ろされた一撃を何とか車に当たらないように斜め下へと受け流す。
それを最後にスライムの攻撃が止まる。
(まずい!)
何をしているのかミカは予測できた。
あのスライムがこちらをめがけて突進する準備をしていると。
「リリィ、シャーリィーーー」
「うむ!」
「準備できたわ!」
突進が来る!と警告する前に二人がミカに叫び返してきた。
「グレイゲージ!」
「ブラッドコフィン!」
彼女達はミカの返事も待たずに魔法を発動する。
シャーリィの発動した『グレイゲージ』は地属性の魔法で土を操り対象を囲う魔法のようだ。
スライムはその、もはや岩と呼べるレベルまで固くなった土に囚われる。
ほぼ同時に発動したリリィの『ブラッドコフィン』も阻害系魔法のようで、スライムを囲った岩の影から出た赤黒い何かがその岩を全て包み隠す。
「「アブソーバー!」」
続けて二人が同時に叫ぶ。
「?」
が、何も起こらない。
その事にミカは首を傾げる。
実際は中が見えないせいで分からないだけだ。
魔法によって作られたドーム。その内部ではスライムの近くに生えていた植物に変化が起こっていた。
込められた魔力によって草が淡く光だす。
『アブソーバー』は草や木や土など自然のものを媒体にして、それに触れている対象の魔力を別のものに送る地属性の中でも難易度の高い魔法。
今回は草を媒体にしてスライムの魔力を奪い、『ブラッドコフィン』にその魔力を送っているようだ。
スライムは何でも吸収するが、攻撃用の触手のような吸収しない部位もある。
足もその一つ。
スライムの足下には草が生えたままだったのは移動する部位には吸収能力がなかったからだ。
動かしている部位は吸収をしないらしい。
もしかしたら吸収できないのかもしれない。
「「・・・」」
リリィ達は油断せずにスライムを閉じ込めているドーム型のものを見つめている。
リリィ達の知っている方法はスライムをスライムより大きい複数の魔法で囲い、スライムがその魔法に到達する前にスライムの魔力を奪って囲いの魔法にスライムの魔力を送る。
囲いに到着したスライムはその囲いの魔力を吸収しながら進もうとするが、その吸収した魔力を再度吸収され、また囲いに送られる。
それをまたスライムが吸収して、と無限に繰り返す形でスライムをそこに押し留めるものだ。
しかもこの方法、上手く行けば完全に封印できるだけでなく次第にスライムを弱らせ殺すことが可能なのだ。
だが、かつてこの方法に使用された魔法とリリィ達の使った魔法は全く違う。
本来ならこの方法には基礎属性は使用しない。
強度が足りないのだ。
だから、それを補うために土の壁をさらに上位属性で補強し、吸収する魔法も二重で発動させている。
この地属性の吸収魔法『アブソーバー』だが、タイミングが少しでもずれると互いに干渉してお互いの魔力を喰らい合うことがある。
それを危なげなく同時に発動させることができたのは元が同じ存在だったからだろう。
二人ともこれ以上無いほどに上手くいったと思っていた。
「・・・っ!」
だが、それでもスライムは止められなかった。
赤黒いドームに罅が入る。
「・・・ダメ、だった」
「・・・そんな」
二人の絶望したような呟きが聞こえる。
(どうする・・・。あれに追われないようにするにはどうすればいい?)
ミカはもう倒すことを考えるのを止める。
考えるべきは逃げの一手。
ドームの罅はどんどんと広がっている。
幸いにも魔動輪の速度はスライムよりも圧倒的に速い。
だが、それはスライムの通常移動の速度の場合だ。
最大速度はスライムの突進の方が圧倒的に速い。
普通ならくねった道を行けば逃げられそうと考えるが、スライムは壁など関係なく直進できる。
(どっかに抜け道的なのはーーー)
ミカの考えはそこで終わる。
ギャガガッ!
と、タイヤが地を滑る音を上げて九十度近くの急カーブを描く。
「・・・え?」
ミカは何が起きたのか理解できなかった。
だから、自身がどうなっているのかを確認しようと周りを見回す。
正面には綺麗な青空が広がっている。
横を見ると自身が乗っていた魔動輪がこちらに背を向けて走り去っていくのが見える。
それだけでミカは理解した。
自身が急に変化した慣性に風の魔法を調整することができず飛ばされてしまったのだと。
彼は背後、地面の方を見る。
そこは草原ではなかった。
まるで沼のようにそこが見えない黒い何か。
底なし沼や深い谷間等でもない。
何故分かるのか。
その何かが蠢き盛り上がり始めたからだ。
黒い何か、その正体は薄く広がったスライムだ。
それに気づいた狐の獣人はそれに飲み込まれないように急いで魔動輪を操作したのだろう。
ミカは忘れていた。
この町に迫っているスライムは二体と言われていたことを。
リリィ達もスライムはすでに一つに合わさっているものだと思っていた。
ーーーあぁ。死ぬのか。
スライムの姿を確認したミカは思う。
ーーーどうして僕は皆を守らなければなんて思ってたんだろう?
車が離れていくのが見える。
助けになんて戻ってこない。
誰だって自分の命の方が大切だ。
最初は自分もとっとと逃げるつもりだったはずなのに。
他人なんてどうでもいいと思っていたはずなのに。
ーーーどうしてこんなことをしていたんだろう?
ーーー今さら何かを守れるとでも思ってたのかな?
ーーー大会で優勝できるくらいの実力があるって自惚れてたのかな?
ーーー大切な人、そのただ一人すら守れたことないくせに。
ーーー今度こそと思っていた弟は今、近くに居さえしない。
ーーー本当に何やってんだろ?
スライムへと落下する速度がとても遅く感じる。
これが走馬灯だろうか?
だが、過去のことを思い出す、なんてことはない。
死に恐怖を覚えることもない。
むしろ嬉しい。
この苦痛だらけの世界から解放されるのだから。
あの日から心の底では思っていたことだ。
スライムが背中に触れるその瞬間ミカは笑顔を浮かべる。
「・・・ごめんね。大蛇」
ミカは生きてる間は守ろうと思っていた弟に向けて笑顔のまま呟く。
ーーー僕はやっぱり父の子みたい。
彼はその笑顔のままスライムに飲み込まれた。
お気づきになられましたか?
ごめんなさい。終わりませんでした!
文字が、文章が増えてしまうのです。
当時は必要だと思って書いたものの実は読み返すと要らないとか、ここでではなく別の章にしておけばよかったとか思うことが増えてきました。
小説は難しいです。




