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異界の欠陥魔法師  作者: 木崎 咲
四章 ラルバの危機
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三十四話

ふぅ、何とかできました。今回ちょっと長めです。


いつか、次の話の入りもできてない状態で投稿するかもしれません。


サブタイトルが前書きに書かれる日はきっと近いです。


そうならないように頑張ります。

 フェルディナが吹き飛ばされてきて最初に動いたのは意外にもシャーリィだった。


 彼女はフェルディナに近寄り、影から回復薬を取り出す為にアイテムバックに偽装したただのポーチへと手を突っ込む。


 だが、シャーリィが薬を取り出す前にフェルディナが立ち上がった。


 彼女はゆらりゆらりとダナルの方へとゆっくり歩きだし、それを見たダナルはつまらなそうにしながら構える。


 彼女はミカの横で立ち止まった。


「結構重症に見えますけど、大丈夫ですか?」


 近くで見るとなかなかひどい状態だ。


 鎧も傷だらけで、様々なところから血を流している。


 それでも、致命的な部位は確実に防ぐか避けるかしていたのだろう。


 鎧も胸辺りは無傷だ。


「...あ、・・・ぇ」


「はい?」


 彼女がミカの方に少しだけ首を動かして何かを呟く。


 その声が小さすぎて聞き取れずミカは聞き返す。


 ちゃんと聞き取るために耳をフェルディナの方に近づけて、


「貴方ねぇ!」


「なゴッ!」


 殴られた。


「何で攻撃に加わらないんですか!貴方は戦えるでしょう!」


「いったぁ~。って、フェルディナさんが言ってたじゃないですか。私がやる、的なこと」


「それは彼女に言ったのです」


「分かるか!」


「それなのに何ですか!後ろの方で楽しそうにお喋りですか!?人が頑張ってる間に、いいご身分ですね!」


「作戦会議してたんですよ!」


「どこがです!端から見て、お喋りしてたようにしか見えませんよ!」


 ギャアギャアと言い合う二人は周りの白けた視線に気がついていない。


 前言を撤回する。


 彼女の状態は良好のようだ。視覚意外は。


 ミカは先ほどシャーリィの髪を掴んで睨んでいたのだがその光景が彼女には楽しそうに見えたらしい。


「だったら証拠を見せますよ!行くよリリィ」


「・・・え?」


 ミカはいきなり殴られて頭に血がのぼっているのか、彼女の感性に違和感を覚えることなく構える。


 が、唐突に出てきた自分の名にリリィはついそんな声を漏らしてしまう。


「そこまで無理をして取り繕わなくても・・・。彼女、困惑してますよ?」


 リリィの反応にやはりただのお喋りだったのか、とフェルディナは思っていた。


 しかも、ミカの行動が必死にそれを隠そうとしているように見え、ちょっと引いている。


「リリィ~!」


「あ、すまぬ。ちゃんと覚えておるぞ」


「・・・彼の無茶振りに会わせなくてもいいんですよ?」


 ミカの抗議の視線にばつが悪そうにしながらリリィが答え、それを見たフェルディナがリリィを心配する。


 会話には加わっていないが、一連の流れをシャーリィが呆れた表情で眺めていた。


 この光景だけなら戦闘中とは思えないだろう。


「ずいぶんと余裕だな」


 ダナルが黒い剣を担ぎながら言う。


「そっくり返しますよ。少し前に同じことを言いましたが、今の僕達、隙だらけでしたよ?」


 ミカは表情を瞬時にニコニコとしたものに変えて言い返す。


「ハッ!不意討ちなんかじゃつまんねぇだろうが。武に自信のある奴を正面から叩き潰し、その時に浮かべる恐怖の表情を見るのが愉しいんだからな」


「・・・ダナル」


 ダナルの言葉にフェルディナが悲しそうに、辛そうに顔を伏せて呟く。


「次はテメェらまとめて相手してやる。かかってきな」


「ずいぶんと大きく出ましたね?」


「あぁ、負ける気がしねぇ。それにーーー」


 ダナルの姿が消え、ミカ達の目の前に現れる。


「暴れたくてしょうがねぇんでな!」


 ミカとフェルディナは左右に飛び、そこにダナルが高速で剣を降り下ろす。


 リリィも突然近くに現れたダナルを確認して、とっさにバックステップで下がる。


 威力を抑えていたのか、地面にクレーターができることはなかった。


 それはつまりすぐに次の行動に移れるということ。


 ダナルは反応が少し遅かった為にまだバックステップ中のリリィへと剣を振るう。


 リリィの足は地面についておらず回避できないと思っての行動。


 だが、リリィは空中で魔法を発動。地面が盛り上がり、そこを足掛かりにしてさらに後方へと飛び回避する。


 避けられると思っておらず、ダナルは剣を振り切った姿勢を見せた。


 それを隙と見たミカとフェルディナはすぐさま近づく。


 ミカはダナルの足を払い、隙を大きく作ったあとすぐさま離脱。


 ほとんど同時にフェルディナがダナルへと軽い斬撃を加えて離脱。


 二人してダナルの隙を作る行動をした。


 互いに『自分が隙を作った後にもう一方が決める』と思っていた。


 決めの一撃は誰も放たない。


「「何で同時に攻撃してるんですか!」」


 ミカとフェルディナの二人が同時に、全く同じ事を隣の相手に言う。


 互いの言葉に二人ともたじろぎ、


「・・・私が隙を作るのでーーー」


「・・・僕が隙を作りますからーーー」


 次の言葉もまた重なって言葉に詰まる。


「オラァ、どうした!」


 ダナルの二人まとめて狙った横凪ぎをフェルディナは後ろに飛び回避、ミカはその場でしゃがみ回避する。


 ダナルはしゃがんだミカめがけて左手の剣を降り下ろす。


 それをミカは一歩踏み出し、両手で手首を捕らえて止め、自身の力で全力の回し蹴りを顔面に叩き込む。


()!」


「あ?何だ今の?」


 痛みに顔をしかめたのは蹴りを放ったミカの方だ。


 ダナルは眉をひそめてミカを見ている。全力の蹴りには思えなかったからだ。


 彼は武闘大会の準決勝をミカと当たり、呪輪の一撃で沈んでいる。


 その一撃がミカ()力だと思っているらしく、今の一撃は弱すぎて意味が分からなかったようだ。


「・・・ちゃんとやれよ。知ってるだろ?蹴りはこうやんだよ!」


 ダナルがミカの横腹へと回し蹴りを放つ。近距離の為にその蹴りは回し膝蹴りと言った方がいいものだ。


 ミカはダナルの手首を離して、今度は足を掴む。その際、しっかりと後ろに飛び衝撃を和らげておく。


 近距離だからこそできたことだ。普通の蹴りより威力が低かった。


 ミカは再度、ダナルの顔面に回し蹴りを叩き込む。


()


「何がしてぇんだ?」


 またミカが痛みに顔をしかめたのを見て、ダナルはバカにされていると思ったらしく、ミカを睨んで問いかけた。


「さぁて。何でしょうか、ね!」


 ミカはダナルが振るおうとした右の剣を、手首を掴むことで止め、またも顔面に回し蹴り。


「うざってぇな!」


 ダナルは腕をミカの掴んでいる腕を振り回そうと力を入れる。


 ミカは振り回す瞬間の勢いを利用した回転投げ(ジャイアントスイング)でダナルを投げ飛ばそうとしたが、


「ッ!」


 半回転もしないうちに空気抵抗が急に強くなったように回しにくくなり止まってしまう。


 ダナルは空中にいることが感触で分かる。なのにブレーキがかかった。


 あり得ないと思ってミカは振り返り、ダナルが翼を大きく開いてる姿が視界に入る。


「ラァ!」


 ダナルは空中で体制を整えながら、空中に浮かんだままミカを投げ飛ばす。


 これは想定しておらず、ミカは抵抗する間もなく投げ飛ばされたが、ただの投げだったので体制を整え、投げられた勢いを利用した連続バック転で距離を取る。


 ダナルがすかさず追撃しようと構え、


「ッ!」


 咄嗟に飛び退く。


 直後にダナルのいた場所に落石。


 リリィが地属性の魔法で作った岩を魔力の手のようなもので投げているのだ。


 さらに、フェルディナがその落石の中を駆け回り、ダナルへと攻撃を加えていく。


 ダナルも応戦するが、フェルディナは落石を時に足場として、時に壁として使い自身を捉えさせない。


「うわ、すご...」


(すごいけど、あれじゃ終わらない)


 ミカはフェルディナの動きに感嘆の声を漏らすが、同時にあれでは倒せないとも思う。


 どの攻撃もダナルの皮膚を貫くことができていないのだ。


「リリィ。身体強化を僕にかけることってできる?」


 ミカはリリィの側に移動し問いかける。


 ミカはギルド登録の翌日に属性のない魔法の扱いをリリィとシャーリィに聞いていた。そのなかに身体強化魔法もあったのだが、それを扱うことができなかった。


 頭痛が起こるのだ。


 リリィとシャーリィはミカが頭を押さえた瞬間、焦ったようにすぐ魔法を止めるように言っていた。


 リリィが『やはり、一発ではできんか』と呟いたのを覚えている。


 その後、最終的にできないことは後回しにされ、できる風魔法から練習していった為に身体強化はできないままになっているのだ。


 だが、今、ミカは扱えない身体強化を必要としている。


 現在のダナルの強度は、自宅前で戦ったコクロウよりは低い程度。パワーはコクロウよりかなり強い。スピードはコクロウの二分の一と言ったところ。


 体格的にダナルの方が軽い為、『落下生』のダメージは同程度になるだろう。


 ミカにとって、それだけならむしろコクロウより楽な相手なのだが、フェルディナから奪った回復能力が厄介だ。


 例え、コクロウに使った技『落下生』で腕の骨を折っても再生する。


 その再生中は激しく動くことができないようだが、それは相手の力を利用するミカにとっては、逆に手がつけられない状態になってしまう。


『落下生』を例に出しているが、そもそも翼のせいで全ての投げ技が使いものにならなくなってしまっているのも問題だ。


 ミカは自身だけの力であの防御を抜くことはできないと先ほどのやり取りで理解した。


 だから自分にはできないことをリリィにお願いしようとしたのだが、


「身体強化はできん。あれは直接体に干渉するものだ。自身の体以外にかけることはできん」


 返ってきたのは否定の言葉。


「そう。他に・・・?」


 リリィの答えに他の方法がないかを考えようとして魔法について別の疑問が浮かび上がった。


 大声で話せる内容ではないのでミカはリリィにそっと近づき、


「...リリィ」


 耳元で囁く。


「ひゃあ!」


 突然間近で聞こえたミカの声に、ビクゥ!とリリィが飛び上がった。


 集中が途切れ、投石が止まる。


 最後、驚いた瞬間に投げた岩がフェルディナのところに落ちたように見えたが彼女なら大丈夫だろうと根拠の無いことを適当に考えつつミカはリリィに問いかける。


「幻属性の魔法は他者の体に直接干渉するものでしょ?なのにリリィは他人に身体強化をかけることができないの?」


「・・・ミ、ミカぁ~!」


 が、彼女は驚かされたことに涙目で抗議の視線を向け、器用にも小声で怒った。


「ごめん、ごめん」


「・・・後で覚えておれ」


 リリィは本気でミカを睨んでから問いに答え始めた。


「幻属性の魔法についてだったな。確かに幻属性の魔法は他者に直接干渉しておる。が、それはあくまで一部分だけなのだ。


 基本的に対象の脳、さらにその一部分に魔法をかけることで幻覚や幻聴などを起こさせる。他者に魔力を送るため抵抗が強く、かなり多くの魔力を一部分に使うのだ。それでようやく効果が表れる。


 妾達のような幻属性の魔法を使うものは脳が部分部分で違う働きをしておるのを知っておる。周りからは信じてもらえんがな。


 ・・・話が逸れておるな。あとは、何故他者に身体強化を発動することができんのか?だったな?


 身体強化の魔法は全身に直接干渉をせねばならん。対象が大きく、その分抵抗も大きくなる。この時点で不可能に近いことが分かるであろう?


 その上、その体の速度に対応できるほどに脳等の器官も強化せねばならん。内と外の同時強化だ。


 身体強化の魔法は自身の体だからこそ発動ができる物なのだ。自身の魔力の為に抵抗もなく発動可能となる。


 だが、自身の体だとしてもバランスを崩すとむしろ自身を傷つける事もある。


 周りは簡単に使っておるように見えるが、高等魔法にギリギリ入るレベルだ。だから、妾達はミカが頭痛を起こしたときに焦って止めたのだ。


 ちなみに、幻属性の魔法も他者にかけるより自身にかける方が楽ではあるな。ほとんど意味ないが」


「ふぅん。じゃあ一部に身体強化をかけることはできるのね?」


 思ったよりも長い解答が返ってきたが、ミカが聞きたかったのはここからだ。


「可能ではあるが、力加減に違和感が生じるぞ?腕にかければ軽く触ったつもりで岩が砕け、足にかければ歩くつもりで建物より高く跳ぶ。極端な例だがそんなことが起こりうる」


「・・・難しい事を要求するけどいい?」


 ミカはこの一言を言う時に、他に方法がないから仕方ない、といった少し嫌そうな表情を浮かべている。


「何だ?言っておくがここ以外全部、等と言う広範囲はできんぞ。頑張って三ヵ所だ。それぞれ左右の腕、足に、胴体、頭。胴体は大きいので二ヵ所分として数えた七ヵ所の内の三ヵ所だ」


 リリィはミカがその表情を浮かべるのは仕方がないと思っている。


 自分の体がうまく扱えなくなるというのは嫌だろうと、そう考えていた。


 だが、ミカがその表情を浮かべた理由は別だった。


「右腕をお願い。ただし、あの剣に触れて強化が消えた場合もその前のと全く同じ強度でお願い。寸分の違いなくね」


 一部とはいえ、他者に干渉される事を嫌ったのだ。


「寸分の違いなく・・・確かに難しいが、一ヵ所なら何とかなるか?」


 自身がまだ信用されていないことに気づかず、リリィは少し悩んだ後、こくりと頷いた。


「うむ。わかった。やってみよう」


「よろしく」


 ミカはリリィに右腕を差し出すように伸ばす。


 彼女はちらりとその腕を見て口を開く。


「できたぞ」


「え?もう?」


 ミカは彼女が集中しやすいように腕を差し出したのだが、必要なかったようだ。


 ミカは足下に落ちている小石を一つ拾おうとした。


 小石はミカがつまんだ瞬間割れてしまった。


「・・・なるほど、これは難しい」


「・・・その状態で妾に触れるな。妾がそうなるかもしれん」


 聞き手によっては傷つきそうな言葉をリリィが吐き出す。


 ミカはこの手が危険物に変わったことを理解しているので傷つくことなく頷き、戦闘に戻る。


 ダナル達は岩が邪魔でよく見えない。


 ミカは向かう途中で幾つか岩を殴って腕の強度を確かめながら最後に落石のあった場所を目指す。


「う、嘘。そんなの、でたらめだ!そこには兄上と父上がいたはず。それなのに負けるはずがない!」


「事実だ。今、この瞬間、最前線の町、アヴェリグは落ちた」


 フェルディナの切羽詰まった声とダナルの笑いを噛み殺して話ているかのような、聞きにくい声が聞こえた。


 リリィが最後に投げた落石の位置から少し離れたところだ。


「これが何か分かるだろ?証拠を見せてやる」


「い、嫌。嘘だ、嘘だ嘘だ」


 ミカは方向を修正し、声の聞こえた方へと向かう。


「前準備は大変だったぜ。ほうら。お前の家族の成れの果てだ」


「・・・ぅぁ」


 ダナルを発見したミカは右拳を握ってダッシュ。


「いい表情だなぁ!ハハハハハハブゥ!?」


「おおー。効いた」


 ミカの拳を受けたダナルは空中で一回転して落ちる。


 人を殴ったことはあるが、殴り飛ばしたのは初めてのミカにとってその感触はとても気持ちの良いものだった。


 端的に言うと、何かスカッとした。イライラを物に当てる人の気持ちが少しわかった瞬間だった。


 そんなどうでもいい感触を噛み締めていたミカの足下にダナルが持っていた水晶のようなものが落ちる。


 その横の地面に何かが写っている。


 あの水晶のようなものはプロジェクターのような効果があるらしい。


 ミカはその水晶のようなものを手に取り映像がちゃんと見えるように光を岩に当てようとしたのだが、その必要はなかった。


「・・・グロ」


 映像は空中に、立体的に写った。


 その映像は人ならざるものの死体に囲まれた場所を写している。


 中央では魔族と思われる者がこちらに見せつけるようにして人間の頭を食べていた。


 映像が近くなく、音も無かったのが救いだろう。


 正直、直視したくない類いのものだった。


 ミカは視線を少し魔族からずらす。


 その魔族の近くには首の無い死体が二つ転がっていた。


「くそが!良いところを邪魔しやがって!」


 ダナルが背後で立ち上がる。数秒とはいえ少し時間があったのは回復能力を使うためだろう。現に殴った痕は綺麗に消えている。


 ミカは振り返りつつ、周りの状態を確認する。


 フェルディナは振り返ったミカの背後、ダナルと向き合う位置で岩に背を預けている。


「嘘よ。こんなの・・・嘘」


 ポロポロと涙を流して力なく首を横に振りながら座り込んで。


 その姿にミカは少し苛ついたが今はスルーする。


 他にはリリィによって投擲された岩が無数に転がっているだけ。


 お陰で周りに見られる心配も少ない。


 ミカはさらに文句を言おうと口を開きかけているダナルの正面に魔法を使って急接近。


「でっ!」


 ダナルが顔を少しだけのけ反らせる。


 ミカの手は突き出された状態でダナルに向けられている。


 ミカがやったのはデコピンだ。魔法で強化されてはいるが本当にただのデコピン。


 それを理解したダナルの表情が怒りに染まる。バカにされてるように感じたのだろう。


「テメ、でっ!」


 ダナルがまた何かを言おうとしたようだがミカは再度デコピン。


 違うのは初撃が中指でのデコピンだったに対して次のは人差し指のデコピンだったことくらいだ。


「ふむ」


「テメェ、バカにしてんのか!あぁ!?」


 キレたダナルが両手の剣をミカに振るうが、そこにミカの姿は既にない。


「な!?どこに、で!」


 ダナルの後頭部に軽い衝撃。今度は薬指だ。


「バカになんてしてませんよ?」


「だったら真面目、っ!」


 次の衝撃は側頭部。最も弱い衝撃で、小指によるデコピン。


 ダナルが振り返るがそこには誰もいない。


 ミカのデコピンにはある共通点があった。


 反対の左手がデコピンを行う際に必ずダナルの体の何処かに触れていたことだ。


(衝撃の波はわかった。魔法はやっぱ凄いね。さっきの蹴りよりデコピンの方が強いとか。笑える)


 ミカは心の内で笑えると言いつつ心の底では自身の非力さに泣きたかった。もちろん表情には出さない。


「貴方は奥の手を使って魔族化しました。ならこちらも札の一つくらいは切りましょう」


 ダナルは声の方に振り返る。


 ミカはダナルを殴った位置に戻っていた。


 彼はスッ、と腕をダナルに向ける。その手は人差し指から小指までを親指で押さえた、殴るのに不適切な握り拳を作っている。


「弟のと違ってこの技に派手さはありません。結構地味~な技です。それにこの技は既に弟に対策を立てられたもの。つまり、破る方法が既に確立されています」


 既に破られたことがあるのに、その事を楽しそうにミカは語る。


 既に破られたことがあるのに、ミカはこの技を切り札の一つにしている。


 既に破られたことがあるのに、ミカはこの技に自信を持っている。


 ミカは嗤う。


 ーーー前準備は整った。


ミカはチームワークが苦手。はっきり分かりますよね?


そもそも一発で合わせられる方が凄いと思います。


来週は閑話五です

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